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    短い話を放り込んでおくところ。
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    POIPOI 192

    3/5ワンライ
    お題【横断歩道/女遊び/脱臼】
    任務に行ったら夏油の元クラスメイトに会って、カラオケに行くお話です。五条が不機嫌です。

    #夏五
    GeGo
    ##夏五版ワンライ

    カラオケルームの秘密 今回の任務は簡単なものだった。というのも、最近中高生の間で話題になっているらしい、『横断歩道の幽霊』という単純な祓いだったからだ。
     わざわざ東京のど真ん中に行ってまで、数人から話を聞いたところによると、どうも学生のたまり場のコンビニ近くの横断歩道の信号の下に、小さな女の子が立っているのだという。その子は車のひき逃げにあった子だったり、自分から車線に飛び込んだいじめられっ子だったりと、怯える中高生たちから聞く話は色々だったが、小学生の女の子、というのは共通していた。赤いランドセルを背負っている、というのも。それ自体は今のところ何かをするわけではないらしいのだが、こういった話はすぐに大きくなるから、それを事前にとめたい、というのが依頼主であり、窓でもあったコンビニのアルバイトからの言葉だった。
     しかし、現場に行ってみても、俺たちは残穢を感じることは出来なかった。確かに横断歩道の信号機近くには花やお菓子が備えられているのだが、そこに執着する呪霊のようなものはいくら探してもなかったのだ。そして俺たちが四苦八苦して辿り着いたのは——ここまで話してはいなかったけれど、この任務は俺と傑で行っていた——女の子が死んだというのがそもそも嘘だったということだ。これは図書館で調べたところによるのだが、噂が人々の口の端にのぼるようになった時期には、コンビニ近くの横断歩道で死亡事故が起こっていなかったことからも確かだろう。一応事故は起こっていたものの、それは単なる車の免許を取ったばかりの学生による自損事故で、誰も死んではいなかった。だったらなぜ小学生の女の子が死んだとの噂が出たかだが、噂を辿っていくと、コンビニを溜まり場にしていた高校生のいたずらだと分かった。怪談好きだった彼ら彼女らは例の自損事故を目にしており、それを使って女の子の死をでっち上げたのだ。花束やお菓子を信号機の下に置き続け、そして見知らぬ人々を巻き込んで、女の子が死んじゃったらしいよと思春期の不安定な友人たちに言いふらして。それ自体は危険な行為ではない。ただ人の念とはすごいものだから、続けて花束やお菓子が置かれてはまずい、というのが俺たちが途中経過を連絡した夜蛾先生の見解だった。というわけで、俺たちは霊媒師の真似事をして呪霊を祓うふりをして、噂の元となった学生たちにこんなことはもうしないようにと叱った。
     ここまではいつも通りの任務だったのだけれど、今回長々と俺が喋っているのには理由がある。そう、傑がまた面倒ごとに巻き込まれたのだ。いや、面倒ごととは違うな。見知らぬ女が、俺と同い年くらいの女が、補助監督の元に帰ろうとした俺たちを引き止めたのだった。軽い、思いつきで喋ってるみたいな声で。
    「あれ、傑? どっかの寮に行ったんじゃないの? すっごく久しぶり。元気してた?」
     女は軽薄な口ぶりだったけれど、傑とは親しげだった。俺はそれが許せなかったが、それは俺の感想であって彼女に罪はない。俺は傑の友人だろう女を見つめる。金色に染めた長い髪、短い制服のスカート、サブバッグの口は開いて教科書がのぞいている。コンビニで買い物をしていたのか、ブランド物の財布も見えた。彼女が傑の女遊びの相手であれ、ただの元クラスメイトであれ、俺は彼の女の趣味を疑った。俺はもう少し大人しいのが好みだ。いや、そんなことは関係ない。というか彼女は俺と少し傑に対する態度が似ていて、それがまた俺を苛立たせた。
    「ちょっと遊びにね」
     傑が言う。俺はそれにまたイライラして、傑たちの会話に耳をすました。そんなことしたって、傑と名前も知らない女子高生の関係など分かりもしないというのに。
    「来るなら連絡してよ。そっちの人はクラスメイト? ね、今から遊びに行かない? みんな誘ってカラオケでも行こうよ」
    「そうだねぇ……。最近みんなとは会ってないからね」
     は? 嘘だろう? 俺は傑の言葉を信じられず、けれど見つめるしかなく、口を大きく開けて勝手に進んでゆく事態を眺めていた。というわけで、俺たちは任務を終えてすぐ、カラオケに行く羽目になってしまったのだった。
     
     
     カラオケボックスは人で埋まっていた。考えてみれば今日は土曜日で、休日に多くの人が訪れる日だった。傑の元クラスメイトが呼んだのは、やっぱり元クラスメイトたちでその人数は十人近くにのぼった。傑はどうやら中学ではクラスの中心にいたらしく、突然の連絡にも、多くの友人たちが集まったのだった。俺はそれを好意的に受け止めたが、狭苦しいカラオケボックスは気分のいいものではなかった。というか、あまり喋らないでいると、いつの間にか控えめな男として扱われて、数時間知りもしない歌を聞かされることとなったと言えば俺の苦痛も理解してもらえるだろう。だが、その時間も突然終わりを告げることとなった。そう、今日俺たちや傑の元クラスメイトたちを集めた女が、オレンジジュースを飲みながら、カラオケの選曲をしながらこんなふうに俺に尋ねたのだ。
    「ね、五条くんは傑の新しい彼女知ってる?」
    「え?」
    「なんかさぁ、新しい彼女が出来たからってうちらの誘い断んの。なのに紹介しないんだよ。水くさいよね」
     その言葉に、俺は今までの苛立ちがどうでも良くなってしまった。なぁ、傑。俺のこと彼女って言ってたのはムカつくけど、俺のために仲の良かった友だちの誘いを断ってたのか? なぁ、それって結構献身的じゃないか? 俺たちずっとだらだらして、キスやセックスして、そればっかりだったのに、大切な友だちを後回しにしたのか。
    「あぁ、うん……。でも性格の悪いやつだよ」
     俺はそう言って、ジンジャエールを飲んだ。それは氷が溶けて、少しだけ水っぽかった。傑は友だちと今も俺の隣で談笑している。俺に傑の彼女について尋ねてきた女は「五条くんって辛辣」と笑っている。俺はもうどうにかなりそうで、傑の腕を引っ張る。脱臼するくらい強く引っ張って、元クラスメイトたちが不思議そうな顔をする中、カラオケボックスの部屋の一つから飛び出る。そしてそのまま誰かの歌声が聞こえる中、壁に傑を押し付けてキスをする。唇は甘い味がする。今まで飲んでいたジュースの味だ。俺はそれにすら興奮して、彼の口の中をしゃぶる。
    「悟、どうしたの? 何かあった?」
    「お前の彼女、性格が悪いって知ってた? こんなことしてるとこ見られてもかまわないって思ってるくらい……」
     俺は遠回しに傑に、彼の新しい彼女について尋ねられたことを伝える。すると傑は笑って、俺を抱きしめてキスをした。抱きすくめられて前が見えない。誰かが通路を通ってゆく。ひそひそと喋る声は、けれど誰かが絶叫する声で聞こえない。うるさい歌声、横断歩道事故ででっち上げられた存在しない少女の死、傑のクラスメイトの笑い声。そんなものが混ぜこぜになって、俺は何もかも分からなくなってキスを続ける。それは長い、長いキスだった。
    「私は性格が悪いところも好きなんだって、その新しい彼女に伝えてよ」
     傑が言う。俺はそれに何も言えなくなって、サングラスをとって、角度を変えてキスをした。カラオケボックスのうるさい音の中で、いつもなら聞こえる彼の心臓の音も分からず、ただ振動だけを通じて彼の鼓動を理解する。そして俺は知るのだ。傑が俺にずいぶんやられてるってことに。そしてそれ以上に、俺が彼にやられてるってことに。
     キスは甘い、境界線は曖昧になる。早く部屋に戻らねばと思う。けれど俺はそれが出来なくて、ただただ傑の唇を味わった。甘い味。彼の匂い。唾液をすすって、俺は傑に息を吹きかける。
    「お前の彼女、もうそれ知ってるってさ」
     俺がそう言うと、傑は笑って俺にまたキスをした。俺たちはずっとキスをしていた。早く部屋に戻らねばと思うのに、何もかもバレてもいいやと思いながら、長い、長いキスをしたのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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