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    短い話を放り込んでおくところ。
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    5/7ワンライ
    お題【ドーパミン/ペルシャ猫/征服】
    夏油が五条より薬に頼るお話です。ちょっとうす暗い感じです。

    #夏五
    GeGo
    ##夏五版ワンライ

    オーバードーズ 傑は基本的にどんな依頼でも断らない。知らない男が部屋の隅に見えて困っているっていう事故物件のような軽いものから、山中に打ち捨てられた土地神のような、郷土史を調べて挑まねばならない入り組んだものまで、彼はどんな依頼でも断ることがなかった。俺はそれをアメコミの超人的なヒーローの正義感のような、完璧なもののように、つまり欺瞞のように思っていたし、傑もそう見られていると分かっていただろうけれど、それでも彼は自分のスタンスを変えず、俺はそんな彼を一番側で見るのをやめなかった。
     だって傑は不安定だったのだ。もう俺たちはその頃をとっくに通り過ぎてるっていうのに、彼はまるで自我が出来上がり、それを疑い出す思春期の少年みたいだった。俺はそんな彼を見ずにはいられなかった。
     でもそれは普通じゃないか? 不安定な恋人の、少しでもいい助けになれたらいいと思うのは、普通のことじゃないか?
     
     
    「傑開けるよー」
     昼過ぎまでの授業が終わって自由時間になった頃、俺は食事をすませ、一応声をかけて傑の部屋の扉に手をかけた。でもそれはほとんど確認みたいなもので、俺は問答無用にドアを開けてしまったのだが。
     するとそこにはベッドに腰掛け、壁に寄り掛かり、猫の、具体的にいうと少し顔がへちゃばった、ペルシャ猫のぬいぐるみを手の上で転がす彼がいた。手ずから作られただろうそれは、きっと夜蛾先生によるものだろう。こればかりは疑いようがない。先生は何かを考える時、呪力を込めてぬいぐるみを作る。どうしてぬいぐるみなのかは知らない。もっと観念的な、例えばボールか何か簡単なものだって構わないだろうに。強面にファンシーなぬいぐるみたちは不釣り合いだったが、かといって傑に似合っているかと言われればそうでもなかった。俺たちは高専生だ。そろそろ大人になる頃だ。ぬいぐるみを抱いて寝る、幼い少年じゃない。
    「何してんの?」
     俺は扉に頭をコツンと寄せて言った。すると傑は俺を見て、そして次にぬいぐるみを見て、そして何かを考えるようにこう説明した。
    「あぁ……これか……。これはえぇと、薬を飲むより、まずはぬいぐるみを触ってろって夜蛾先生がね」
     夜蛾先生がね、そう言ったんだよ。私のことを気にかけてくれてるからさ。
    「薬?」
    「最近、ちょっと疲れててさ。お医者さんに診てもらってるんだよ」
     珍しい、傑が俺に弱音を吐いた。俺のことなんて、何も分かってない子どもだと思ってるくせに。でも薬ってなんだろう。精神的なもの? これから任務はどんどんきつくなっていくっていうのに、彼が学生の時分からそんなものに頼るとは思っていなかったけど、ここのところ面倒な任務が続いていたから、それも仕方がないことなのかもしれない。そんなふうに自分をコントロールしようとしている彼と比べて疲労も感じない俺だったが——ここで比べるのもなんだが、やっぱり俺が異常なのだろう。ずっとみんなにそう思われてきたし、医者に処方される薬も、安らぎも、何もなしで善悪の方針を傑に任せて、それで自分が強くなった気になっているなんて、傑にとっては俺はきっと重い存在に違いない。
    「任務の数を減らしたらいいじゃん。夜蛾先生はそう言わなかったの?」
    「いや、私が頼んだんだよ。少しでも多くの呪霊の力が欲しくてさ」
     傑が言った。夜蛾先生は傑を心配しているのか、していないのか分からないな。でもきっと、傑が無理を言ったんだろうな。それも彼の術式では仕方のないことなのかもしれない。強くなりたいのなら、呪霊を取り込まねばならないのが、彼の弱みでもあったから。けれど俺はそんな恋人を助けたくて、「薬飲む時は俺も呼んでよ。俺も飲むからさ」なんて舌を出して馬鹿げたことを言った。
    「駄目だよ、それにトリップする薬じゃないんだから、悟が飲んでも楽しくないからね」
     傑が笑って手のひらの上の猫のぬいぐるみを、ペルシャ猫のぬいぐるみを揉む。そうだな、薬に頭を征服されて、それで楽になった気になるなんて傑らしくない。でもたとえらしくなくたって、それで彼が少しでも楽になるのなら、俺はそれでいいと思った。どんな薬なのか、俺はそれすら知らされていないけれど。
    「ハグされると、薬とおんなじくらいリラックスできるって知ってる?」
     俺は傑のベッドに歩み寄りながら言う。すると傑は笑って、「知ってるよ」と言った。俺はそれに満足しながら、彼の一筋だけ長い髪を触って、彼からぬいぐるみを取り上げそれにキスをして、壁に寄りかかる恋人を抱きしめた。彼からは甘い匂いがして、俺はそれを吸い込み、後でもっときつく抱いてやろうと思った。
     これは傑の携帯のアラームが鳴る少し前のこと、彼が単独で任務に行き、そこで俺のハグじゃなくて、薬に頼る少し前のことだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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     彼の同級生がいたずらを思いついたのは、狡噛があまりにもラブレターをもらっていたからだろう。ラブレターで狡噛を呼び出して、待ちぼうけさせてやろう、という馬鹿ないじめだった。全国一位の男には敵わないから、せめてそんな男でも手に入れられないものがあることを教えてやる、ということなのだろう。俺は話を聞いても、それを狡噛には伝えなかった。ただ俺は狡噛が傷つくとどうなるのか少し気になった。そんなこと、どうでも良いことなのに。
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