Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    6/18ワンライ
    お題【謝る・紫陽花】
    出島のマーケットで紫陽花を買って過去の話とこれからの話をする甘い狡宜です。

    #PSYCHO-PASS
    ##狡宜版深夜の創作60分勝負

    そこに咲く花は 雨が降って来たのは、狡噛と出島のマーケットに行ってしばらく経った時のことだった。俺たちはその時ちょうどベランダに飾る花を探していて、やれ百合がいいだの、薔薇が無難だの、香りを楽しむならラベンダーだの、やはりここは紫陽花だのと、花屋の店先で話し込んでいた。店番をする老婆は、にこにこと笑いながら俺たちにどれもいいですよと、拙い日本語で言った。私の祖国では沖縄のデイゴに似た花が咲くんですよ、とも。百年ほど前に日本でも流行歌になったそれにもあった、咲けば咲くほど台風が強く来るとの迷信がある花。それに俺は惹かれて、けれどこの小さな店にそれはなく、世話も難しいことから俺は記憶の中のあの花を思い出していた。
    「雨つぶに濡れて綺麗なのは、やっぱり紫陽花だな」
     サァァ、と静かに流れる雨に色とりどりの紫陽花は、まるで水を飲むように、水浴びをするように、しずくをその身に受けている。俺もこればかりは狡噛に賛成だった。やっぱり今回は紫陽花にしておこうか。
    「でも色んな種類の色があるな。紫に、淡いピンク色に、八重咲きの水色に。緑もある。どれにする?」
     俺はいくつも並べられた紫陽花をさして言う。すると狡噛はくわえ煙草をやめて両手でシャッターを切るように、俺と紫陽花を見た。
    「緑のそれ。やっぱりお前の目の色と同じがいい。水のやりがいもある」
     狡噛が指さしたそれを、老婆は笑いながら白い花模様のビニール袋に入れる。
    「紫陽花は土の表面が乾いてからたっぷりあげてね。ベランダで育てるなら乾きやすいから注意してちょうだい」
     はい、どうぞ。老婆はそう言って紫陽花を狡噛に渡す。俺は財布から紙幣を取り出してそれを彼女に渡し、礼を言って店を離れた。その間中も雨は降っていた。でもずぶ濡れになるほどでもない。肌がしっとりと濡れて、髪がしずくを含むぐらいだ。
    「そろそろとっつあんの誕生日だな」
     紫陽花を傷つけないよう煙草に火をつけず、狡噛がそっと言った。父は六月に生まれた。梅雨の終わりがたの、美しい季節に。夏生まれだから暑さには強いんだと笑っていた彼を思い出す。汗っかきのくせにあれは強がりだったのだろうけれど、子どもで夏バテを繰り返していた俺には、彼はとても強い人に見えた。でも命日じゃなく誕生日を覚えていてくれたのは、俺はとても嬉しかった。ぬかるんだ道を歩く。緑の紫陽花、父親の瞳の色、俺の目の色。
    「……すまなかったな、あの時は、お前に酷い選択を迫ってしまった」
     槙島か、彼に殺された父か、そして自分か、俺はあの時恋人にすがり、彼の人生を滅茶苦茶にしてしまった。俺が親父を殺したようなものなのに、狡噛は一番苦しい選択をしなきゃならなかった。
    「お前の中じゃいつまでも終わりがないんだな。苦しくないのいか?」
     狡噛が少し足を速める。俺はそれについて行きながら、少し強くなった雨の中、屋台のテントを見つけてそこに入った。甘い匂いがするのは、ここがベトナムコーヒーの店だからだろう。練乳を使った濃く甘い、それでいてコーヒーの風味も残された飲み物。俺たちはそれをアオザイを着た少女に二つ頼み、さっきの会話を再開させるべきか悩んだ。
    「苦しんでるうちは、親父が側にいる気がするんだ。馬鹿みたいだけれど」
     コーヒーがやって来る。俺たちは熱いそれをすする。また紙幣を少女に渡して、電子決済がないのが出島のマーケットの醍醐味だな、なんてことを思った。
    「とっつぁんがいたら、俺は殴られるだろうな。そろそろ息子とはっきりしろってさ」
    「え……?」
     狡噛は笑ってコーヒーを飲む。彼の言葉をそのまま飲み込むなら、そういうことなんだろう。
    「とっつぁんに言われたことがあるんだ。覚悟はあるのかって。執行官堕ちした時、伸元をずるずると苦しませる覚悟はあるのかって」
     俺はコーヒーをまたすする。隣の客が大きな笑い声を上げる。手を叩いて母国語の歌を歌う人々。私の故郷のあちこちでテトの日を祝う、たくさんの芳しい花が美しい彩りを競い合う、子どもたちは新しい服を着て誇らしげ、はしゃぎまわって、花火を見てますます美しい。テト、テト、テト、テトが来た。可愛らしい歌だ。異国情緒あふれるそれに、狡噛も懐かしいのか目を細めていた。
    「あの人は俺の心配ばかりしてたんだな。お前を離さなかったのは俺の方だったのにさ」
     その言葉に、狡噛は少し驚いた顔をした。俺はそんな彼が愛おしく、息子の恋人に未来を訊ねずにはいられなかった父を不憫に思った。でもそんな父ももういない。彼のところに行くのはそう早くはないだろうが、もし時期が早まることがあったら、俺はずっと狡噛といられて幸せだったと言おう。彼が執行官に堕ちた時でさえ、俺は彼を恋人と慕っていた。俺にはずっと彼しかいなかった。
    「なぁ、狡噛、さっきの答えなんだが……」
     俺は口を開く。狡噛が目を丸くする。雨が上がる。子どもたちが水たまりではしゃぎ始める。俺たちは紫陽花を挟んで話をする。何も確かなものがない場所で、何も確かなものがなかった関係を変えるために。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏😭😭💖❤💖❤💖❤💖❤💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works

    recommended works