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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    8/16 狡噛さんお誕生日おめでとうございますSSです。
    誕生日に自分で料理を作ろうとした狡噛さんが、あろうことか幼い売春婦を買って理由を知らない宜野座さんが激怒して?というお話です。

    #PSYCHO-PASS

    真夜中の昼食 誕生日だというのに、狡噛は自分で夕食を作ると言って聞かなかった。俺はそれに少し困惑して——というのもこの日のために出島のホテルを予約していたからなのだが——、けれど言い出したら押さえ込めない彼のことだったので、仕方なく従うことにした。俺たちはもうそろそろいい歳だから、大袈裟に祝うことでもないと思ったのかもしれない。けれどこんな日くらい非日常を味わってもいいのにと、俺は思わずにはいられなかった。
    「出島のマーケットで準備するから、連絡したら俺の部屋に来てくれよ」
     そう甘くかすれた声で言われてしまうと、俺はもう反論出来なかった。誕生日だ、一体どんなことをしてやろう。何をしたら彼は喜ぶだろうか。俺は勝手な妄想にひたり身体の隅々まで綺麗に洗って、彼からの連絡を待った。だが日にちを跨いでも、狡噛からデバイスにコールが来ることはなかった。
    (もしかして、眠ったのか……?)
     俺は不安を覚えた。狡噛は自由な男だったから、それくらいの意味の分からないことをしても不思議ではなかった。けれど料理中に倒れていたら? 俺は不安に思い、彼の部屋を訪ねることにした。しかし俺がそこで見たのは、料理中に倒れている恋人ではなく、なぜか泣きじゃくる少女と、いや、明らかに娼婦である少女と、ソファに座る狡噛だった。
     
      
    「狡噛、お前、何を……」
     そんな趣味があったのか。まだ十四、十五くらいの女が好みだったのか。自分の歳を考えたらどうだ。俺はそう言いそうになって、勝手にぞっとして固まった。しかし狡噛は俺の言葉などどこ吹く風で、「ギノ、来たのか」と言って、ソファから立ち上がった。
    「来たのかじゃない! あれは何だ! おおおおお前、マーケットに料理の材料を買いに行ったんじゃなかったのか! お前は誕生日に娼婦を買うような男だったのか!」
     俺は彼に詰め寄り、そう叫んだ。隣の部屋の誰かが壁を叩く。うるさいのは分かっている。分かっているが、今はそういう問題じゃないんだ。黙っていてくれないか。
    「いや、確かに娼婦は買ったが何もしていな……」
    「買ったんだな! お前は娼婦を買ったんだな!」
     俺たちは言い合いとも呼べない、喧嘩とも呼べない会話をする。いや、会話は成り立ってなどいない。ただソファに座って泣きじゃくる少女だけが「あの……」と手を挙げて、短いワンピースに身を包んだ、唇を真っ赤に染めた黒髪の少女が手を挙げて、次のように言った。
    「狡噛は私を助けてくれたの。私、義理のママに売られちゃって……。そこを助けてくれたのが狡噛なの。私を買うために有り金全部を使ったから料理が作れなくて、これからどうしようかって一緒に話してて……。あ、私何か作ろうか? 私、料理が得意なの」
     さっきまで泣きじゃくっていた少女はそう言うと、冷蔵庫に向かってすたすたと歩き始めた。そしてそれを開けると、調味料を駆使して、戸棚にあったフォーを茹で始めた。どうやら彼女はベトナム系の移民のようだ。レモングラス、コリアンダー、ミント、唐辛子、ライムを添えたそれはまたたく間に出来上がってゆく。あまりにも手際の良い料理の出来に、俺は娼婦をするより料理人になった方がずっと稼げるのではないか、とぼんやりと思った。
    「はい、ママ直伝のフォー。ちょっと辛いよ」
     少女がにこやかな笑顔で器に温かな麺を入れる。俺はそれに、いや彼女の笑顔に毒毛を抜かれて、言われるがままにキッチンのサイドテーブルの上でフォーをすすった。
    「……美味いな」
    「うん、美味い」
     俺たちは深夜、見知らぬ売春婦というか、売春婦にさせられようになった少女に料理を振る舞われていた。それにしても自分の金を、名前も知らない少女のために使うなんて、狡噛らしいというか何というか。
    「……安請け合いをしてどうするんだ? 一晩買ったところであの子どもを家に帰すわけにはいかないだろう」
     俺は声をひそめて言った。すると狡噛は「保護センターに連絡してあるから、もうすぐカウンセラーが来るさ」と返す。なんだ、もう事件は解決していたのか。俺が悩むことはなかったということか。
    「でも、もう弟たちには会えない。どうしたらいいの、どうしたいいの狡噛……」
     少女が再び泣き始める。俺はもうどうしていいか分からず、狡噛を見つめる。俺は子どもが苦手だった。女の子ならなおさら。けれど狡噛は違ったのか、彼は弟たちもちゃんと見つけて同じ家で暮らせるようにするからと、泣きじゃくる少女の肩をぽんぽんと優しく叩いた。俺はそれを見ながら、何も誕生日にこんな厄介ごとを抱え込まなくても、と思った。でもそれをするから狡噛であり、そんな狡噛が俺は好きなんだろう。分かっていたことだ。でも、少女を保護したんなら、すぐに連絡してくれれば良かったのに。そうしたら、そうしたら多分、俺だってあんなふうにお前を罵倒しなかった。
     フォーを食べ終えるか終えないかという時、インターフォンが鳴った。カウンセラーの到着だ。これで俺たちは解放される。そう思ったが、少女は狡噛の手を離さず、不安そうにカウンセラーを見つめて動こうとしなかった。
    「仕方がないな……」
     俺はそう言って彼女を保護センターに送ることにした。もちろん花城に連絡を入れて、カウンセラーが乗っていた無人タクシーに乗り込んで。少女は車の中でもずっと泣きじゃくり、弟たちに会いたい、と言い続けた。そして狡噛はそれを慰め続けた。保護センターに着いた時も、少女は狡噛と離れ難そうだったが、それはカウンセラーの手腕によって阻止された。ようやく俺たちは家に戻れるということだ。俺たちは保護センターを出、マーケットに繰り出すことにした。その頃になると、空は白んで来ており、俺は誕生日を祝ってやれなかったことを罪悪感とともに思い出した。
    「なぁ、狡噛。誕生日祝いは……」
    「あのフォーでいいさ。なかなか美味かっただろう?」
     俺はぐうの音も出ない。確かに美味かった。美味かったが、俺だってお前に何かしてやりたい。そう思っていると、狡噛はいたずらっぽくこう言った。
    「唐辛子を食べたから、キスはなしで」
     キスはなしで抱き合おう。そう狡噛は言い、出島のマーケットで煙草を買おうとした。だが、娼婦に散財した彼には現金はなかった。こういう闇マーケットではネット決済は信用されない。だから俺は仕方なく財布から紙幣を取り出し、スピネルを買ってやった。これが誕生日祝いなら安いものだ。
     狡噛が煙草のパッケージを開ける。そして銀のオイルライターで火をつける。旨そうに、肺まで真っ黒にして煙を吸う。俺はそれを見て、彼が少女を助けずにはいられなかった状況を想像して笑ってしまった。出島にはあんな少女がごまんといる。狡噛が一人助けたところで、それは変わらない。ただ、誕生日に善行をした彼を、俺は好ましく思った。最初の勘違いは恥ずかしかったが。
    「何笑ってるんだ、ギノ」
    「いや、誕生日祝いを旨そうに吸ってもらって嬉しくてな」
     俺はそう誤魔化して、狡噛とともに朝日が昇りかかるマーケットを歩いた。狡噛は特に何も言わず、俺の側から離れずに歩き続けた。彼の今年の誕生日は散々だった。でも、それで一人の少女が、彼女につながる兄弟たちが助かったと思えば安いものだろう。
     俺たちはマーケットを歩く。日常に戻るために。そして一日遅れの彼の誕生日を祝うために。そして俺は悩む。さて、どんなことをしてやったら、狡噛は喜ぶかと、もう朝だというのにいささか下品なことを考えながら。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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