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    firesday522

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    firesday522

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    誕生日の話「ええっ! 何でいるの?」
     仕事を終えて一人暮らしの部屋に帰宅した午後11時30分。リビングに足を踏み入れての第一声がこれである。
     ここにいる筈のない相方がバスローブ姿でソファで安らかな寝息を立てているのだから、そう言いたくなるのも当然だろう。
     もしかしたら千に会いたい気持ちが募りすぎて、都合のいい幻覚が見えているのだろうか。そう思って近づいてみても、千はやはり消えることもなく目の前に存在している。恐る恐る頬に触れてみると、指先に確かな感触が伝わった。触れても目を醒ます事もなくすよすよと眠る千の首には、良く見れば銀のリボンが結ばれていた。
     
     一緒の仕事でなくても、千のスケジュールなら把握している。今月は映画の長期ロケが入っていて、今日だって遠く離れた土地にいる筈だった。
     二人の関係を唯一知っている岡崎は、毎年百と千の誕生日には、極力早く帰れるように仕事を調整してくれる。完全に一日オフにする事は難しくても、何とか二人が一緒に過ごせる時間を捻出してくれていた。
     その敏腕マネージャー岡崎が心底申し訳なさそうな表情で深々と頭を下げたのは、つい数日前のことだった。
    「モモくん、ユキくん、すいません! どうしてもスケジュールの調整が上手くいかなくて、今年のモモくんの誕生日当日はお二人別々の仕事が入ってしまいました」
    「頭上げてよ、おかりん! 仕事なら仕方ないって」
     千に映画出演の仕事が入っていることは知っていた。そして遠方での撮影があるということも。
     きっとその撮影スケジュールが、自分の誕生日とぶつかっていたのだろう。
    「せめてもう少し近場での撮影なら良かったんだけどね」
     千の残念そうな表情を横目で眺めて、少しだけホッとする。誕生日を一緒に過ごしたいと思っているのは、自分だけではないのだと思えたから。
    「次に会えた時はお祝いしてくれる?」
     少し上目遣いでそう言ってみる。我ながらあざといと思うけど、千に対しては結構効果があったりする。何せベッドの上では自分を組み敷いている男のことを、可愛いだの、いじらしいだのと思っているらしいのだ。
    「もちろんだよ、ハニー。プレゼント考えておくね」
    「ありがとう、ダーリン! 楽しみにしてる」
     そんなバラエティの本番中のような会話を交わした事は、はっきりと覚えている。
    「ユキ、ユキさんや」
     ソファに近づき、傍らにしゃがみこんで小声で呼んでみても、まったく反応はない。千が一度寝入るとなかなか目を覚まさないことは良く知っている。とりあえず身体を冷やさないようにと毛布を掛け、暖房の設定温度を上げた。
     地方にいる筈の千が自分の部屋にいる理由は想像もつかないが、すぐに仕事に戻らなくてはならないような状況なら、わざわざバスローブを着てソファで横になったりはしないだろう。少し様子を見て起きないようなら、岡崎に連絡を取って状況を確認してみればいい。
     慣れない土地での撮影が続いていたから、きっと疲れているのだろう。自分のベッドで眠る千の、安心しきった表情に心の底から愛おしさが湧き上がる。
     そういえば昔一緒に暮らし始めてすぐの頃は、寝息すら聞こえないのが不安でたまらなくて、千が呼吸をしているか夜中に何度も確かめたものだった。歳を重ねても彫像のような美しさは変わらない。物憂げな瞳に見つめられると、未だにドキドキしてしまうから、目を閉じていると何だか安心する。
     詰めていた息を吐きだして、起こさないようそっと髪に触れた。だが次の瞬間僅かに青み掛かった瞼が持ち上がり、アイスブルーの瞳が百の姿を映す。
    「あれ? モモ、帰ってたんだ」
    「えっ、あっ、うん! 今帰って来たとこ」
     パッと手を引っ込め、少し後ずさって距離を取った。
    「そう。お帰り」
    「たっ、ただいま!」
    「帰って来るの待って驚かせようと思ってたのに、いつの間にか寝ちゃってたみたい」  
     のろのろと立ち上がった千の内股を、つうっと濁った液体が伝う。
    「ああ、漏れて来ちゃったか」
    「は?」
     間抜けた声を発しながらも、百の視線は千の剝き出しの太腿にを釘付けだった。
    「これね。ローション。体温で溶けて液体になるってやつ」
     そこまで言われたら、なぜこんな状況になっているのか理解できてしまう。
     つまりこのイケメンは相方の留守宅に合鍵を使って入り込んで、自分で後ろの準備をしてベッドで待っていたという訳だ。
    「モモが帰って来た頃にいい具合になるようにと思って仕込んでたんだけど、もうすっかり溶けちゃったみたいだね」
     二人の視線が交差し、一瞬で熱を帯びる。
    「ユキ……」
    「モモ、誕生日おめでとう。プレゼント、受け取ってくれる?」
     首に巻かれたリボンの結び目に、白く長い指が差し入れられた。銀のリボンの意味を察して、百はごくりと生唾を飲み込む。
    「今夜はモモのしたいこと、何でもさせてあげる」
     そう言う千の声も表情も、下半身を直撃するような色気を纏っていた。
    「待って! そんなこと言われたら、本当に加減できなくなりそうなんだけど」
    「加減しなくていいって言ってるだろ。今日で撮影終わったから明日はオフだし」
     いつも軽率に誘っては体力使い果たして翌日はベッドから離れられなくなってる癖に。
     と思いつつも今日は素直にお誘いに乗る事にする。
    「ハッピーバースデー、ハニー」
     祝いの言葉に言葉ではなく口付けで返事を返すと、モモは相方共々ベッドへと雪崩こんだのだった。

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