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    Okoze

    @jkanaemill

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    Okoze

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    うみがめスープ承花スペースで出題されていた内容が素敵だったので。
    ノリエルと幸せになって!の気持ちで書きました。

    王子の旅と星の一族会議。
    不穏なトコで切れていますが、続きはまた明日。

    ※徹頭徹尾、承花です。

    東の国の海の おはなし 2 東の海の国を出て五日目の夜に祖父の治める荘園に到着した。
    大きな城門の前で、祖父から渡された角笛を吹くと中から開門の合図を叫ぶ門番たちの声が聞こえ、城戸がゆっくりと左右に開いていく。

    身分と名を告げ厩へと促されて一行が歩き始めると、大道の先から王子の名を呼ぶ騒がしくも懐かしい祖父の声が響いてきた。
    「久しぶりじゃのー 元気そうでなにより」
    自分と違わぬ巨躯の持ち主で、よく通る大きな声と愛情深い碧色の双眸は王子と同じ色をしていた。
     中央までの通り道でもあるこの荘園で祖父と合流し、この先の王国へ入城する予定だった。
    王子の一団はこれまで野宿続きの道ゆきであったが、今夜は屋根の下で温かい食事と柔らかな寝床で休めそうだ。
    心なしか、いかつい男たちの表情も和らいで見える。

     厩をあとにすると、祖父の後ろに控えていた緋色の外套を羽織った人物が前に出て控えめに頭を下げた。
     異国の者らしい褐色の肌。顔に稲妻のような傷がある大男だ。
    祖父とそう変わらない体躯の持ち主だが、身に付けている大ぶりの装飾具と胸元に組んだ指から王子の知らない世界の人間らしい。
    「南の国から来た占い師なんじゃが…ウマがあっての ここに居着いておる」
    屋敷までの道すがら、祖父は明日からの道ゆきをざっと説明し、その旅に占い師を同行する旨を告げた。
    一瞬、王子が眉を顰めるのを見てとるとすかさず
    「今回の旅で必ずあなたの役に立つことになるでしょう」
    私の札占いはよく当たるんですよ。
    釘を刺してきたので、人の機微を見るに長けた男だと知れた。
     見慣れない異国の衣装も相まって、その言動も俄には信じがたかったが、祖父が信用して側に置いているならそれなりの人物なのだろう。


     屋敷に着くと王子の名前を呼ぶ母の声が迎えた。
    待ちきれない様子で駆けて来る姿は、王子が成人して家を出た頃と変わりなく美しかった。
    「たーっくさん お料理したのよ あなたの好物ばかり」 
    出迎えの挨拶と称して、接吻の雨を降らせてくるのもあい変わらずで閉口したが、久しぶりの親孝行と思って王子は好きにさせた。
     その晩は浴場で手足を伸ばし、懐かしい母の手料理で腹を満たし、温かな床についた。
     布のかけられた部屋の窓から下弦の月が王子の顔を照らす。
    母の料理の味が前とは違うように感じたことを思い出し寝返りを打てば、昔使っていた寝台から少しだけ足が出る自分もまたこの家を出た頃とは違うのだと知る。

     こんな月明かりの晩に、透ける紅い髪色とひんやりとした白い肌を恋しく思いながら王子は眠りに落ちていった。


     身元が明らかにならない事で、まだ正式に立場を改めていない若者を一緒に連れては来れなかった。王子は内心歯噛みしたが、こればかりは仕方ない。
     今回の一代目国王との謁見で、彼を正式に迎え入れることを許可してもらう目論見もある。
    第二継承者と第三継承者に当たる祖父と王子には、国王退位の際にひとつだけ望みを果たす権利が与えられていた。

     次の日、朝早くに母と別れを告げ、荘園を出発した一行は王国へ舗装された敷石の道を辿って行った。
    一刻も早くとはやる心のまま馬をかる速度も増し、時々、祖父にいさめられながら道ゆきは続いた。南から来たという占い師は旅慣れたもので、馬の扱いや荷造りの技にも長けていた。王子は感心してよく話を聞くようになり、夜営の時には見張りを組むほどに打ち解けていった。祖父が気に入って、信頼を置いているのもうなづける。人の機微に敏感で人と距離を置きたがる様子は、どこか彼と通ずるように王子は思った。
    焚き火を囲んで、今まで見てきた王子の知らない街の話を聞くのも眠りにつく前の楽しみとなった。
    「西の海に近い小さな港町に住んでいる男がいるのですが そいつがとんでもないお調子者で…何度 煮湯を飲まされたことか」
    商いで船を出す仕事を請け負っているので案内を頼んだところ、目的地に辿り着かず、結局別の場所で仕事をする羽目になった。
    「本人は予定よりずっと稼げただろう 終わりよければ全てよし などと分かったようなクチをきいていましたがね」
    笑い転げる祖父に、笑い過ぎですよと釘を刺してから、でも と続ける。
    「妹思いの良いヤツで 憎めないところがあります」
    海路に詳しく仕事が早いのは間違いない。会うことがあれば王子とも話が合うかも知れませんね。
    占い師はそう言って、懐かしむように目を細めた。


    途中、身なりの良い一団に狙いを定めた盗賊を返り討ちにしたりと予定外のこともあったが、荘園を出て十日目の夕に 一行は無事、王国の門をくぐったのだった。
     出発時よりも増えた馬と盗賊の荷を携えて入門した一団は手厚く迎えられ、祖父は「手土産が増えて良かったのぅ」上機嫌で王子に耳打ちした。占い師の話に出てきた西の海のお調子者と気が合うのは祖父の方ではないのか。やれやれだぜ…と王子は独りごちた。





    「それではこれより中央協議会を始めるよ 太陽と共に」
    太陽と共に。
    王城の奥。執行室と呼ばれる会議場で、首の無い国王がそう宣言すると、円卓をぐるりと囲んだ一同が一斉に立ち上がり復唱した。

     現国王と次期国王である祖父と、次の継承順位である自分と、三人各々には当人の配偶者や信頼のおける家臣らがひとり、列席を許されていた。
     国王の横にはお后が、祖父の横にはあの占い師が着席していたが、王子は一人であった。
    王国までの旅をねぎらう言葉がかけられ、横の銀髪に黒眼鏡の凜とした老婦人が軽く会釈した。横で祖父が緊張するのが見てとれる。
     現国王は祖父の祖父に当たる。王子からしてみれば高祖父であり、そのお后は祖父が唯一頭の上がらない人物であった。

    「この度の退位にあたって僕はこの世を去ることになる」
    寿命でね。
    そう言う国王は若々しく雄々しい立派な体躯をしていたが、これまでの在位期間の長さを思えば、その見た目よリも実際は老齢であることが知れた。お后も然り。なんらかの大きな力が働いているのだろう。

    「知っての通り僕には悪魔の義兄弟がいて死後には魂を連れて行かれることになっているんだけれども 彼の力でまだしばらくはこちら側に留まれる」
     淡々と語る響きには死への恐怖もその未来への不安も感じられず、荒唐無稽な話だと言うのに場の空気は妙に落ち着いていた。
     首の無い国王から響く声はどこから聞こえてくるのか、幼い頃は不思議に思ったものだと呑気なことを思い出していた横で祖父が右手を挙げ発言を求めた。
    「おばあちゃんはそれでいいの」
    「私たちの婚儀契約は 死が二人を分つまで ですから」
    仕方ないわ。
     先に彼を見つけていたのも恐ろしい契約を取り付けたのも悪魔の方が先だったことは、民の間で噂されるほど周知の事実であった。
    「長い時間を君と一緒に過ごせて本当に良かった」
    「まぁ それは私も同じ気持ちですよ」
    ふわりと甘い空気が流れて、祖父はひとつため息を吐いて手を下ろした。

    さて。
    「本題に入ろうか 君たち二人には即位と順位が上がるお祝いとして 願い事をひとつ叶える権利が与えられている 希望を」
    促されているのになかなか言い出さない祖父に苛立ち、横を見ると占い師が小さく咳払いして両目を閉じるのが見えた。意のままに という異国の仕草である。
    「あー…ワシの希望は その 」
    しっかり。とばかりに続けて咳払いををする占い師と言い淀む祖父に呆れていると予想外の希望が出された。
    「次の継承者の地位に息子をつけて欲しい」
    ということです…
    付け足された語尾は力無く響き、円卓を囲む空気は一瞬凍りついた。
    「あなたには 娘がひとりしかいない筈 で す が 」
    とてつもない感情を押し殺したように震える声でお妃が告げると、観念したのか
    「実は北の荘園に息子がひとり…」
    と胸を張る祖父。
     銀の柄のついた重そうな黒杖を振りかざして立ち上がった高祖母をすかさず羽交い締めにして宥める高祖父。
     これは帰ってからも一悶着ありそうだと王子はうんざりした。



    「それじゃあ継承者の件は僕が正式に認めよう 羊皮紙と墨翟の準備を 調印には二人とも立ち会うように」
     協議会を一時中断して頭の冷えたところで、祖父の希望は叶えられることと相成った。
    私は全然、納得していませんからね。後で私の部屋に来なさい。
    慈愛の聖母と謳われる高祖母の鬼の形相に、はい と大人しくする祖父の姿は見たくなかった。…歳の離れた叔父ともいつか出会うこともあるだろうか。

    だが、そんな事よりも王子の最重要事項は別にあった。
     次はいよいよ自分の番だ。
    希望を。高祖父の言葉に王子は挙手して立ち上がった。決意の程が伝わるように。
    「心に決めた相手がいる そいつとの婚儀を認めて欲しい」
    ヒューッと軽い口笛を吹いた祖父を高祖母がジロリと睨みつけるのを傍目に、国王が質問する。
    「それは…身分的に問題があるのかい」
    「嵐で流れ着いた者だ 手を尽くしたが素性を辿ることはできなかった 本人は話すことが出来ない」
    「まぁ それは不安な事でしょうに」
    心配そうな態度を示す高祖母の横で、ん…と高祖父が息を詰めたのを王子は見逃さなかった。
    「今は城で手厚く保護している」
    「おじいちゃん初耳だぞ お前がそこまで惚れ込むとは相当な別嬪さんじゃろぅ」
    「ああ」

    そして多分、人では無い。
    人魚だ。

    そこまで告げたものかどうか逡巡する。
    その刹那。

    「あれは人では無い 陸に上がることを望んだ人魚だ」
    王子の心を覗いたかのように、嘲笑を含んだあやしい声が響いた。
    いるはずの無い六番目。招かれざる客。
    見れば王子の横、空席だった場所に煌びやかな衣装に身を包んだ悪魔が腰掛けている。赤地に紫の布を重ねた裾の縁取りは金糸。立ち上がると闇色の外套が影のように長く伸びた。
    噂にたがわぬ禍々しさに反吐が出る。
    悪魔だ。

    「うぉ」
    「ッッ…」
    「いつからそこに…まさか 盗み聞きしていたのか」
    「相変わらずですね 図々しいこと」
    はっと一笑に付して金色の髪を書き上げると円卓の一同を真っ赤な瞳が睨め上げた。
    「席は最初から空いていただろう」
    「テメぇを指名した覚えは無いがな」
    「そう怖い顔をするんじゃあない これでも有意義な忠告をしに来てやったんだ」
    俺は今、機嫌が良いからな。
     愉快そうに円卓に手を伸ばして爪先をトントンと鳴らす。
    指先は長く艶やかな異国の金細工で覆われて、持ち主と同じように禍々い光りを放っている。

    「その人魚は若い男だ 東の海から来たと言っていたな」
    鱗をぼろぼろにして俺の最果ての居城にやって来た。
    自分の欲望のためにご苦労なことだ。
     懸想している男の側に居たいからと両脚を所望だった。

    「……」
    「俺はどんな願いも叶えられる首壺を持っている」
    世界の理を取り出す代わりに その相手の持ち物をひとつ貰い受けるがな。
     あの男は美しい声を持っていたからそれを頂戴した。
    その後、最果てからわざわざヤツの東の海まで送り届けてやったんだ。
    ありがたく思え。


     ふんぞりかえる悪魔を視界に入れるのも苛立たしく、王子は国王に向き直って言葉を改めた。
    「婚儀の契約を結びたい その許可をいただきたい」
     事情が明かされても態度を変えない王子に、円卓はしんと静まり返る。

    「人魚でも 男性でも その相手と一緒に居たいんだね」
    「はい」
    「相手も君のことを大切に思っているらしい」
    「……」
    「悪魔が自分の楽しみで言うんだから間違いない」
    「まったく 意地の悪いこと」
    「ワシは異議なーし 孫の惚れた相手なら良い子じゃろうて」
    可愛い孫には、好きなもの同士で添い遂げて欲しいもん。
    占い師は先程とは違った表情で、目を閉じ黙ったまま何度もうなづいている。
    高祖母はひとつ溜息をもらしたが、そっと夫に目配せし促した。
    「そうだね 次の継承順位も埋まったことだし 君の希望どおりにしよう」
    結婚式に出れないのは少し残念だけれど、どうかしあわせに…




    「おい 俺の話は最後まで聞いた方が良いぞ」

    これだから気の短いモンキーどもは…ふたたび注目を集めて満足そうに髪をかき上げる。
    「どういう意味だ」
     めでたい運びの途中に口を挟んだ悪魔を腹立たしく思いつつも、その言葉に嫌な予感がして、王子から剣呑な気配が漂った。
    「さっき その人魚は俺と契約を交わしたと言っただろう あいつの一部は私が持っている」
    「だからなんだ」
     彼を思えば体の一部、髪の毛一本たりとも他人に渡しておくのは我慢ならなかったが、王子は今の彼を充分過ぎるほどに愛していたので割り切った態度に出た。
     何よりこの悪魔の望み通りに動揺などしたくは無かった。

    「私の首壺に収まっている全ては 生者と繋がりが切れたわけではない ただそこに上手く収まっているだけだ」
     そしてこのたび、俺はアイツを連れて黄泉へ去る。
     長い金色の爪が高祖父を指差して、赤い眼が王子を振り返ってにぃぃと細められた。
     嘲っているのだ。

    「これがどういうことなのか モンキーどもにわかるか」

    まさか。
    冷たい水を浴びせたように王子の背中を嫌なものが流れていく。
    そんなことが…あってたまるか。

    「生者の一部が黄泉に持ち去られれば こちら側に留まってはいられない それが世界の理だからな」
    つまりは…


    「あの人魚はじきに死ぬ」


     ひゅっと息を呑む音がした。自分か。場の誰かか。
     そんなことよりさっきから頭の中が、大波で揺さぶられた直後かとばかりにがんがんとする。
    足元が砂に埋まったようずしりと重くなる…なんだこれは。

     早鐘を打ち鳴らす小さな子どものように、愉快でたまらないと…王子の目の端で悪魔が高らかに笑った。



    ⇨⇨⇨ to be continued
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