NY支部の仕事が早く片づき時間外に帰宅することになった。
いつもなら玄関先で迎える伴侶の姿が見当たらない。気配に敏感な彼らしくないことだ。洗面所の扉を開けると
「あ…」
鏡の前で振り返るその髪色は見慣れた茜色ではなく深支子(こきくちなし。深い黄金色に染まっていた。
「…なんだそのナリは」
「潜入捜査」
いや変装かな。どうだいと見返してきた目の色は群青。
「随分と派手だな」
「う…目の色は濃いめに出てしまうんだな」
色素の薄いこいつらしい返答に溜息ひとつ。やれやれだぜ。
「どこだ」
「杜王町」
聞けば岸辺露伴絡みらしい。
—-僕はまだ彼と面識無いからね。印象だけでも変えて会おうかなって。
「エージェントらしくコードネームも貰ったよ」
「なんだ」
「ガブリエル」
一瞬、有名な西洋絵画の大天使の姿が浮かんだ。百合の花と共に顕現する。受胎告知。そいつはまた…
「おあえつらえむきに 任務は‘依頼‘に見せかけた‘警告‘ 危険なことは無いよ」
「…」
「だから そんな怖い顔しないで」
いつの間にやら眉間に皺が寄っていたらしい。
—-洗面所使うんだろ。どうぞ。
譲ってするりと傍を通り抜ける。いつもと違う色の前髪が目の前でふわりと揺れる。
今夜どうして任務の詳細を聞き出してやろうか。凶暴な気分で蛇口を捻った。