かくしごと「う、ぐ……ぉぇ……」
魈は川に顔面を突っ込んで水を飲んだことはある。しかし今は、川べりに手をつき、自分の意思では止められない程の嘔吐感に呻いていた。出るものはもうないと思うのだが、胃液が逆流してきそうな気がしてならない。吐きすぎて手が痺れ、目の前の景色がぐるぐる回っている。水を飲みたいが、また吐いてしまいそうだ。
己が何故こんな目に合っているのか、理由はわかる。昨日ウェンティと酒を飲んだからだ。甘くて飲みやすいと注がれた酒は、確かに葡萄の良い香りがして甘めで飲みやすい酒だったのだが、少々強めの酒だったらしい。酒を酌み交わし、途中でほろ酔い気分のウェンティが演奏をし始め、それに耳を傾け安らかな気持ちになっていた。そこまでは良かったのだが、たまには何もかも忘れちゃおう! というウェンティの申し出を断りきれず、勧められるまま酒を飲んだ結果がこれである。ちなみにまだウェンティは望舒旅館で眠っているようだった。
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