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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    鍾魈短文「猫の日」
    猫に変化して鍾離のとこに行ってみる魈の話

    #鍾魈
    Zhongxiao

    猫の日「ニャオ」
    「ニャ、ニャニャッ」
     ……何やら、今日の旅館には……いつもより猫がたくさん集まっている気がしている。朝からミャオミャオと鳴き声がそこかしこから聞こえ、最上階の自分が寝泊まりしている部屋の前にも陽だまりを求めて猫が数匹丸まっていた。露台から下を見ても、テーブルの上や下にと、たくさんの猫がいる。
    「……!?」
     椅子に腰掛け、茶を飲んでいる男性が目に入る。それは紛れもなく弥怒が作成した衣服であり、それに袖を通しているのはもちろん彼の凡人、鍾離であった。
     鍾離は茶を一口飲んではそれをテーブルに置き、膝の上に座っている猫の背を撫でている。鍾離は猫が好きだったのだろうか。テーブルに猫が登って来ても、それを見て行儀が悪いと叱責することもなく、にこやかに微笑んで手を伸ばしている。
     鍾離が楽しそうにしている所にわざわざ入っていくことはない。下の階へ行きオーナーに話を聞けば、今日は猫の日だということで「旅館にたくさんの猫に来て貰って癒される日を作る」という催し事をしているということだった。
     そう話をしているオーナーの周りにも、阿偉以外の見たことがない猫がたくさんいた。確かにいつもより望舒旅館が賑わっているような気もする。そして、鍾離も猫と戯れる為にここへ訪れていることが予想できた。
     魈は人の形を取っているが、猫の姿に変化することくらいは容易である。もし今、猫の姿になって鍾離の所へ行けば、他の猫に紛れていつもより傍で身を寄せることができるかもしれない。人の姿で隣に並べば緊張してしまうところを、猫の姿なら少しは気が楽に傍にいられるかもしれない。
     そんな世迷言を頭の中で並べ立てた。そして早速魈はオーナーとの話を切り上げた後、猫の姿になって望舒旅館の下へと向かったのである。

     四本の足で歩くのは慣れない。つい後ろ脚を使って飛び出しそうになったが、なんとかゆっくりと歩いて鍾離に近付く。足元に行き裾に向かって、意を決してすり……と身を寄せた。他の猫もいるので鍾離は気になどしていないだろう。
     ところが鍾離は、「お」という声と共に魈の存在に気が付いたようだった。
    「黒猫もいたのだな。毛並みが良く艶もある」
     他の猫は白や茶色の猫が多かった。よく見れば確かに黒猫は魈だけのようだ。
    「触れてもいいだろうか」
    「にゃあ」
     鍾離はわざわざ椅子から立ち上がり、地面に膝をついて魈に話し掛けている。断る理由はないので、大丈夫と返事をしたつもりだが口から出るのは猫の鳴き声で、鍾離に上手く伝わったかはわからなかった。
    「そうか」
     しかし、鍾離にはちゃんと伝わったようで、脇の下にそっと手を差し込まれ、持ち上げられて胸に抱えられてしまった。たくさんの鍾離の匂いがする。鍾離の顔が普段より近く、やはり猫の姿でも緊張してしまう。猫の姿でなければ今すぐ逃げ出してしまっていた所だろう。鍾離の胸に爪を立てないように、出来るだけ丸まって腕の中に収まるようにした。
     鍾離は椅子へ座り直し、膝の上へ魈を置いた。頭を撫でられ、喉に触れられると身体の力がどんどん抜けていってしまう。こんなつもりで猫になった訳ではないのに、猫の姿になっているからか、なんだか酷く思考が覚束なく、眠くなってくる。撫でられている背中が心地良く、うっとりして目を閉じてしまう。鍾離の太腿が温かくて、段々意識が遠のいていってしまう。猫は一日中暇さえあれば寝ているイメージではあったが、なるほど……。これは確かに心地良い眠りを誘うと思いながら、もうそれに抗うことはできなかった。
    「今日はいいものが見れた。わざわざお前は猫の姿になってまで撫でられにきたのか? 普段のお前だって、いくらでも撫でてやるというのに。猫の日に感謝しなくてはな」
     魈が次にはっと目を覚ました時には、望舒旅館の自分の寝台で寝転んでいた。いっそ猫が望舒旅館にいたのは夢だったかのように、その影はなくなっていた。もちろん鍾離の気配も、望舒旅館のどこにも感じることはなかった。

     後日鍾離に猫の日のことを尋ねてみたのだが、なんの事だ? とはぐらかされてしまった。
     しかし鍾離の部屋には、あの時衣服についていた黒い毛を集めて密かにしまってある木箱が存在している。そのことを魈が知るのは、もっとずっと後のことである。
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    sayuta38

    DONEしょしょドロライ10回目
    (お題9回目)ホワイトデー
    ホワイトデー「この日に手伝いを頼みたいのだが、空いているだろうか」
     鍾離が指しているのは三月十四日だった。特に何の疑問も持たずに二つ返事で魈は了承し、当日鍾離の家へと訪れていた。
    「朝からすまないな。装具を外して上からこれを羽織り、そこの紙袋を持って俺と共に璃月港を回って欲しいんだ」
    「……承知しました」
     凡人に扮して鍾離の手伝いをして欲しいということなのだろう。手伝いならばといそいそと葬具を外し、身の丈程の長い外套を羽織った。紙袋はいくつも用意してあり、確かに鍾離一人で持ち歩くには大変そうだった。
    「では行こうか」
    「はい」
     璃月港を鍾離と共に歩く。何処へ向かうのかと思ったが、三歩程歩いたところで鍾離が女人に話し掛けていた。魈の知らないただの凡人へ、鍾離は紙袋から一つ包みを渡し手短に会話をした後、別れの挨拶をしていた。そして、また三歩程歩いては別の女人へと声を掛けに行っている。何用で女人へ話し掛け、何用で包みを渡しているのか、魈へ説明がなかったので想像もできなかった。これは一体どういうことだろうか。疑問を口にしたくても次から次へと鍾離は女人に包みを渡すべく声を掛けているので、口を挟むこともできなかった。
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