Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ここのか

    @d9_bond

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 🐱
    POIPOI 21

    ここのか

    ☆quiet follow

    前に投げた「このあとめちゃくちゃ付き合った」のおまけなつづき。

    このあとめちゃくちゃ付き合った・その後「──全部お前のことだ!
     お前のようなやつが他にいてたまるか‼」

     鴻上了見渾身の叫びは辺り一体に響き渡った。



     その唐突な大告白に、周囲の面々は全員が動きを止めた。もちろん遊作も。付け加えれば広場にいた無関係の何人かも何事かと声の主を見た。
     辺りが静まりかえったせいで、パブリックビューイングで流れるSOLテクノロジーの広告がやけに大きく聞こえる。
     遊作は大きな目で呆然と了見を見ていたが、やがてぱちりと瞬いた。その拍子に涙が一粒だけ光って落ちる。
    「……おれ?」
     呟く。
     それで呪縛が解けたかのように辺りに一斉に物音が戻った。というか各所で発生した。
     美優が歓声を上げるそばで、 Ai が「やっぱりムカつく!」と叫んでこちらに走り寄ろうとしてスペクターと葵に止められる。呆然としたままの遊作の手からコーヒーが落ちたが、すんでの所で仁が横から空中キャッチする。
     テイクアウト分のホットドッグを手際よく包みながらこちらを見やる草薙の、気遣いの混じったなんとも温かい眼差しにかちあって了見は我に返った。
    (しまった……)
     つい感情的になって全部ぶちまけてしまった。
     これではどうあがいても「実は嘘です」が通じはしまい。いや通じるだろう、藤木遊作のみには。そして通じたところで恐らく女性陣から非難を浴びるであろうし多分 Ai に本気の殺意を抱かれきっとこの店に二度と顔を出せないだろう。なにより手ひどく遊作を傷つけるのは明白だった。了見は常々、藤木遊作を傷つける存在には容赦しないと決めている。となれば自害するしかない。いや話が逸れた、と了見は思考を戻す。そう、どんな窮地だろうと考えるのを止めてはいけない。
     ということで遊作へ返答する一瞬の間に鴻上了見は考えた。それはそれは考えた。これまでの因縁、後悔、相対、煩悶、葛藤、過去、現在、この先のこと。考えて考えて考えて人生で二番目くらいに頭を高速回転させて考えて──結局、最善の回答を出すことを諦めた。

     本当は、伝えずにおくつもりの気持ちだった。
     ネットワークの監視者として生きていく、それは穂村尊から示された贖罪の道でもあり異存はない。本望ですらある。
     ただ、それは同時にハノイの騎士としてこの先も裏の世界で生きていくということでもある。
     一方の藤木遊作は過去に決着をつけた今、何者でもない。もう何者とも戦う必要はないし、誰かを追うことも追われることもない。平和な日々を過ごし、少しでも過去を忘れ傷を癒し、苦労した分幸福になってほしかった。
     だが自分のような日陰者が下手に近寄ればきっとその幸福に影を落とす。
     そう思っていたからこそ抱く好意を押し殺し、常連と店員という枠で様子を伺うに留めていた。いつか想いが友愛に代わるならそれで良し、そうでなくとも彼はそのうちに日常に慣れ、陽のあたる場所で世界を広げ、遠くへ行くのだろうと思っていた。いつか彼の結婚式に祝電を打つ覚悟までしていたくらいだ。

     了見は、自身の想い人を探る遊作の意図を理解したとき確かにぐらついた。それでも恐らく、それだけなら耐えられた。気づかないふりをしてそのまま帰せた。
     だが、こちらに向けたあの、濡れた新緑の眼。
     あれがいけなかった。
     苛烈な戦いの最中でも絶望的な状況でも前を向くあの強くも美しい眼差し。その光が翳るのは、彼が心を許した共犯者や相棒のためだけだと思っていた。
     それなのに、あんな風に傷ついた様を無防備にさらしたりするから。
    (いや──お前のせいにするのはお門違いか。私の本性がどこまでも自分本位だった、それだけのことだ)
     自嘲して、肚をきめる。

    「……そうだ」
     呆然としたままの遊作を睨みつけるようにして、地の底から響くような声で頷く。今になって頬が熱くなってきた。
    「いや、しかし」
    「しかしも何もない。間違いなくお前のことだ、藤木遊作」
     何やら言いかけた遊作を遮り、繰り返す。彼の自己認識がなってないどころかまったく機能していないポンコツなのはもう分かっている。変に曖昧に言えばまた妙な思い込みを招きかねない。
    「だって、か、顔がいいとか、いい奴だとか色々言っていたじゃないか」
    「事実だ」
     そっとその手を取る。
     遊作は驚いたのか小さく肩を震わせたが、手を振りほどこうとはしなかった。それをいいことに了見は優しく、しかし逃さないよう握りこむ。



    「──遊作」
     呼ばれて遊作は目を伏せた。この男は顔だけでなく声まで良い。
    「私が想う相手はお前だ。ずっと、お前しかいない」
     握られている手が熱くて、それが伝染したみたいに一気に顔が熱くなっていく。
     たぶん今の自分は耳まで真っ赤だろう、と遊作はぼんやり思った。まだ色々と追い付かない。こんなことになるなんて、少しだって思っていなかったから。
     だって、とてもかなわないと思っていた恋敵が、実は自分のことだったなんて。了見はなんと言っていた? 容姿が良くて、人が良くて、落ち着いていて、ネットワークに強くてデュエルも強くて。なんでもできる人みたいじゃないか。おまえには俺がそんな風に見えていたのか。
     そろりと目線を上げれば了見は真っ直ぐに自分を見ている。
     どうしたって好きだと思う。
    「了見」
     呼べば、握られている手にいくらか力がこもる。見つめる先で浮かべられた微笑は今までで一番に優しくて、過ぎる歓喜に胸がぎゅっと詰まるような、泣きたいような感覚がする。
     そんな遊作の胸中をどこまで知っているものか、一層に目を細めて了見が問う。
    「……遊作。私にもひとつ聞かせてくれ」
    「なんだ?」
     小さく首を傾げれば、了見の笑みに楽しげなものが混じる。
    「──『今、好きなやつがいたりするか』」
    「……」
     了見の言葉に遊作はぱちりと目をまたたいた。
     それからすぐに気が付いて、相好を崩す。
    「──おまえだ。俺も、ずっとおまえが好きだった」
     告げれば了見もまた笑って、その手を引き寄せ遊作を思いきり抱きしめた。



     二人が、ここがパブリックビューイングのあるいつもの広場──公衆の面前だったことを思い出すのはもう少し後のことだ。



    ■■■
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘🙏❤❤❤😭❤👏👏👏😭😭❤❤❤💙💚💙💚🎉🎉💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    かほる(輝海)

    DONE逆転裁判
    成歩堂龍一×綾里真宵
    ダルマヨ。完全恋人設定。

    ナルマヨが好きなかほるさんには「さよならの前に覚えておきたい」で始まり、「ほら、朝が来たよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
    #書き出しと終わり #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/801664
    サヨナラの前に覚えておきたいことがあった。キミと過ごした時間と、その思い出。そして、その肌の温もりと匂い。ぼくはもう、誰かをこんなに愛することなんてないと思っていたから、心に刻みつけておきたかったんだ。でも、「お別れの前に、最後の『ふれあい』を……」なんてお願いするのは、男としてどうかと思ったし、実際そんな余裕もなかった。みぬきを養子として迎える手続きに、自分の弁護士資格の手続き。マスコミ対策も苦労した。
     あの頃、真宵ちゃんは何度かぼくに連絡をくれていてた。でも、タイミングが合わず、折り返しを掛けることも忘れ、少し疎遠になっていた時期もあった。ちゃんとゆっくり話をできたのは、全ての手続きが終わった後だったように思う。真宵ちゃんは、泣けないぼくの代わりに泣いてくれた。だから、ぼくは真宵ちゃんに「あの日の真実」と、今は姿が見えない黒幕について、ありのままを話したんだ。
     これで全てが終わったと思った。ぼくは表舞台を離れ、地道にぼくの道を行く。真宵ちゃんは、家元として堂々と陽の当たる道を歩いていく。だから、ここでお別れだと……。でも、実際は想像していたものと全く正反対の反応だった。
    『よか 1359

    beni_0082

    DONE紅のカラプラのお話は
    「きっと仕方の無いことなのだ」で始まり「本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った」で終わります。
    #shindanmaker #こんなお話いかがですか
    https://shindanmaker.com/804548
    (締めの文変えてます申し訳。発想だけ貰ったような形)
    (第1部読んだ人向け)
    (婚約者確定している)
    (文がド下手)
     きっと仕方の無いことなのだ。私は王族で彼は騎士。そもそも結ばれることすら難しかったはずの恋だもの。だから今こうして彼と密接な関係を持つことができているだけでもありがたいことだと。これ以上を望むのは浅ましいことだと。ざわつく心に何度も何度も言い聞かせる。
     でも。それにしたって。

    (そろそろハグくらいはしてみたい……!!)

     は、はしたないかしら!?こんなことを思ってしまう王女なんて。でもカラムと正式な婚約者になってもう一ヶ月になるのに!一緒にお茶をしたり散歩をしたりすることのみに留まっているのは流石に、流石にペースが遅いのでは!?
     もちろん、王族としてちゃんと弁えてはいるつもりだ。本当の夫婦になるまでは身体を、身体を!か、かっ……さねるところまでいくのは!よろしくないことだってわかっている。……でもハグくらいまでなら、もう進んでしまっても大丈夫なのではなかろうか……?うぅ、なんとなく落ち込んできた。カラムのことは信じているのに。私に魅力がないとか、そういうネガティブな理由で手を出してくれないわけではないことだって、わかっているのに。
    2666