嗚呼、愛しき工房の日々66.
歩く廊下の先、工房の入り口から飛び交う朝の挨拶。
皆が声をかけあうのは良いことだ。鼻歌でも歌いだしたいくらい気分が良かったけれど、隣を歩くムルソーが首を傾げそうな気がして思いとどまる。そんな軽い足取りを転かすように黄色い旋風が駆け抜けていく。
<うわっと!>
「おはようございまする管理人殿ー!! と、ムルソー君!」
<おはようドンキホーテ、そんなに走らなくても間に合うよ>
「おはようございます。今は……朝礼の10分前ですね」
そういえば彼女は本来いつも時間ギリギリに来る。電車を降りてから事務所までの道を急ぐのが習慣になっているのかもしれない。元気の良い挨拶と共に急ブレーキをかけたドンキホーテは向き直り、いつもの5割増しで光を蓄えた瞳を輝かせる。
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