嗚呼、愛しき工房の日々 幕間2「ダンテぇ〜? 良かったじゃな〜い?」
新規開拓した取引先との打ち合わせ帰り、うりうりと小突かれ顔をあげた。
<うん? うん、そうだね。難度も低いし、割のいい案件だと思うよ>
外勤者育成にも安心して使える良い仕事だ。さっそく資料の準備をと書きつけるために開かれたノートはニヤニヤと笑うロージャの指先によって閉じられてしまう。
「違うわよ〜! ムルソーとのこと」
彼女と、そしてグレゴールにだけは本当のことを話していた。上司である恩人と特に親しい友人を欺き続けることは現実的に不可能で、また心苦しくもあったからだ。
「『工房での無用な誤解を避けるため』って言ってたけど……上手いことやったじゃない」
<うん。まさか私もムルソーがいいって言ってくれるとは思わなかったよ……>
3173