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    Hino

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    Hino

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    AC6/G3×621♀おちの本編沿い長編
    やっと出会編、まだまだくっつきません

    野良犬疾走日和/1-2ミシガンの執務室に招かれたウォルターと621は再度明日の協働作戦について擦り合わせを行う。今回の指名に反感を抱く者が多いのは承知していて、作戦当日までレッドガン部隊との接触を最小限に抑えるために二人は日が暮れてから基地内に訪れた。
    ブリーフィングが終わる頃には深夜に差し掛かろうという時刻だった。
    「621、すまないが先に戻っていろ」
    621が知るところではないがウォルターとミシガンは旧くからの友人同士である。積もる話もあるらしい。察しの良い猟犬は小さく頷くと「了解」と答えて部屋を後にする。
    複雑な作りの建物ではないからガレージに停泊させている輸送機まで一人で戻れるだろうとウォルターは考えていた。



    しかし物量主義のベイラムの基地は単純な構造ではあるがとにかく敷地面積は広大だった。曲がる場所を間違えると目的地にたどり着かず、しかも夜間帯で廊下の光源は最低限の照明と非常灯のみ。迷子になるには十分すぎる条件が揃っていた。
    正しい道順から一つ奥側の通路に誤って入り、しばらく進んだ頃にようやく間違いに気がついた。621は引き返えそうとしたがそこでも曲がる位置を間違え元いた場所に戻れなくなっていた。
    当然夜間の人員配置は昼間に比べ少なく道案内を頼もうにも人を捕まえられそうになかった。遠くから話し声が聞こえるが正確な位置を把握する術もない。

    人気がありそうな方向へ移動しようと角を曲がる寸前、同じく向こうから歩いてきた人物達と出会い頭に衝突してしまった。
    「ぅ、」
    「おっと...失礼」
    勢いがあった訳ではないが体重の軽い側が吹き飛ぶ。危うく621が尻餅をつきかけたがぶつかった人物が咄嗟に手を引いてくれたおかげでそれは免れる。
    「え、と...迷子か?」
    そこに居たのは驚いた様子の青年と軍属にしては細い体格の男。ウォルター抜きで第三者と関わる機会がなかった621も想定外の他者との接触にどう反応すべきか考えあぐねていた。
    「所属隊員の御息女ですか?」
    頻繁ではないが隊員の家族が基地を尋ねてくる事もある。621は上背も低くせいぜい10代半ばの子供にも見えなくない。
    「違う、独立傭兵レイヴン」
    「...の娘?」
    子供扱いされているというのは理解したらしく621は怒るでもなく訂正にはいる。
    「わたしがレイヴン」
    「はぁ?」
    先程より強くはっきりとした口調で返すと対面の2人の顔は困惑していた。例のログを見る限り熟練の傭兵だと思い込んでいたのも大きく同一人物には見えなかった。しんとした気まずい空気を打ち破ったのは細身の男の方。
    「そうでしたか...私はレッドガン部隊の3番手の五花海。隣は6番手のレッドです。以後お見知りおきを」
    五花海と名乗った男は人当たりの良さそうな笑みを浮かべ簡単な自己紹介をはじめた。握手のために差し出された手をまじまじと見つめたのち、握り返すのがいいと判断した621がその手をとる。独立傭兵レイヴンを語る娘の手は歳の割にごつごつとした触り心地だった。話を半信半疑で受け流そうとしていた五花海であったが幼顔に見合わない操縦桿を握り続けたであろう硬い掌にACを駆る者だと確証を得た。
    「よろしく」
    「ええ、こちらこそ」
    一方レッドはというと突然営業スマイルになった五花海の意図が分からず口を噤んでいた。何もせずいると621の方から握手と挨拶を求められる。「ああ、よろしく頼む」と先輩らしく振る舞ってからちらりと横目で五花海を見ると碌でもない事をしでかす前の顔だった。
    「総長から説明があったとは思いますがナンバーが若い順に上の立場になります。つまり私とレッドは貴女の先輩であり上官です」
    「うん」
    「まだ勝手が分からなくてお困りになる事も多いでしょう?」
    「うん」
    「初対面の方に話しかけるのも気が引けると思います」
    「うん」
    「ですので、お困りのことがあればこの五花海にいつでもご相談下さい」
    ここまでの流れはただの良い上官の仕草だがこれで終わる男ではない。
    「とはいえ直接お会い出来る機会も限られますし、お話しやすいよう個人端末の連絡先交換しましょうか」
    今の一言がなければ良い上官のままだったのにレッドは思った。配属初日に立場が上の人間から個人端末の連絡先交換を提案されて喜ぶ人間はいないはずだ。なのだが。
    「わかった」
    621は驚くほどあっさり端末を取り出す。あまりの素直さにレッドは眩暈がした。この独立傭兵は傘下企業に損害を出しているし悪感情がないとは言い切れないが、顔を知ってしまうと故郷に残してきた幼い妹の顔が脳裏に浮かんで胸が痛くなる。
    「待てG13」
    「レッド」
    上官の暴走と世間知らずな入隊したての部下を止めるため口を挟もうとしたがすかさず釘を刺される。目配せする五花海の目が笑っておらずレッドは『なんでもない』と呟き再び閉口する。こうなると横槍を入れたところで流れを断ち切れる気がしなかった。
    五花海が何を考えているか分からないが、勝手に独立傭兵との繋がりを持ったなどと総長の耳に入ったらシメられそうだなと諦観していた。



    「ありがとう、またね」
    「どういたしまして」
    迷子の621を目的地まで誘導し終えた二人は今度こそ宿舎へ向かっていった。ガレージから離れ他の者の気配がないと判断したレッドが口を開いた。
    「さっきのレイヴンとのやりとりの目的はなんですか」
    「随分ストレートに物を聞きますねぇ」
    「五先輩」
    「隠し立てするつもりはないですよ」
    へらへらとした態度の五花海の纏う空気が変わりピリッとした緊張が走る。
    「レッドは今起きている企業間のコーラル争奪戦をどう見ていますか」
    「どう、と言われても...まだどこも横並びでは」
    「見立てが甘いです」
    独立傭兵とは関連がない話を振られ遠慮がちに答えたレッドの言葉をぴしゃりと否定する。
    「横並びだったのはルビコンに拠点を起き始めた時点までです、今はアーキバスに押され始めています」
    「そんなこと」
    「我々は番号付きが一人脱落しているでしょう」
    「...ハークラー」
    レッドガンが惑星封鎖機構の目を掻い潜りルビコン入りを果たし、やっとのこと活動拠点を築いたばかり。しかし運の悪い事に地形調査の任務に当たっていたG7が惑星封鎖機構の武装ヘリと邂逅、そして撃墜。コーラル争奪戦が最終目的であるが目下対応しなければならないのはレジスタンスのルビコン解放戦線だ。現時点で対抗する戦力が削られているのは手痛い。いずれアーキバスとの直接対決も避けられない事も知っている。早期の段階で番号付きに脱落者が出るとは本社も想定していないはず。
    「その間アーキバスは解放戦線の武装採掘艦を破壊して着実にルビコンでの地盤を固めています。ベイラムはせいぜい解放戦線の拠点砲台を破壊した程度」
    武装採掘艦の撃沈も記憶に新しい。発端はアーキバスの傘下企業であるシュナイダーからのばら撒き依頼。誰があの大型兵器を倒したかは不明とされているが、現場に転がっていた解放戦線のMTから抜き取ったデータや観測班からの報告によれば独立傭兵レイヴンの仕業である可能性が高かった。それもほぼ単独での成果。解放戦線の巨大兵器が陥落した事であのエリアはアーキバスの橋頭堡として占領されたと聞く。
    「上の連中は焦っているんです。目に見えた成果、アーキバスより大きな手柄、そのための作戦行動を起こしたい。しかしいくら物量を誇るベイラムでもこの厳しい監視下では物資も人員も容易に持ち込めません」
    「そう、ですね」
    「で、そんな時に現れたのがG13」
    点と点に思われた話がここで繋がる。散々辛酸を舐めさせられているがそれだけレイヴンの実力が高い事の査証である。大っぴらに物資を持ち込めないが戦力の増強を図りたいベイラムとルビコンで稼ぎたい独立傭兵レイヴン。利害は一致している。
    「こちらの思惑通り動くとは考えられませんが...」
    「首にACの接続コネクタが見えました。それもかなり雑な手術痕。あの言動からして強化人間第四世代、少なからず脳の機能に難があると推測します」
    第四世代の特徴はレッドも良く理解している。近しい者を上げるならG5・イグアス。第五世代より前の施術はACへの適正を高める恩恵と引き換えに脳に多大な負荷をかける。イグアスが感情をコントロールするのが苦手なように、おそらくレイヴンは自ら思考することが不得手だ。飼い主を懐柔出来ずとも飼い犬そのものを手懐ける事は可能であろう。
    「腕も立って扱い易い、そして使い潰してもいい外部のパイロットを逃したりしません。総長がナンバーまで与えたんです、レッドガンのために働いてもらって当然でしょう」
    「...俺にそれを話していいんですか」
    「んー?止めなかった時点で共犯ですよ」
    「はぁ...他の隊員には黙っておきます」
    「よろしい」
    やはり抜け目がない人だと感心したが、こうまで動く五花海の様子にレッドの心は細波を覚えた。
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