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    Hino

    夢も見るし腐ってる人。事故防止のためにキャプションは必ず確認してください。

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    Hino

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    エルデンリング/ロジェール夢/金輪草は〜の後日談。

    悩み事はティータイムの間に解決するものあれから2人の関係は少し変わった。顔を合わせれば他愛のない会話もするけれど、元から人付き合いが苦手な星見の彼女はロジェールと目を合わせる事が出来なくなっていた。
    失礼に当たると思ってはいるらしく少女の視線は口元や首筋を見るようにはしている。一方のロジェールはそれに気がつきつつも目を合わせてくれない事に物申したりしない。要するに気まずいのだ。罪悪感すら抱いている。
    「相手に幻滅されていない」という確信を得ているだけで満足していて、それでいて互いに歩み寄れずにいた。



    円卓の書斎で調べ物をしていたロジェールの元へ少女が姿を見せる。ロジェールは手を止めて「どうかされましたか?」と努めて温和な笑みを浮かべ問いかける。
    「あの、探索時の予備薬のストックが欲しいのですが、出来れば自作したいんです」
    「そうですか」
    「なのでレシピをご存知でしたら教えていただきたいです」
    「ええ、構いません。後ほど製法書の写しをお渡ししますね」
    「ありがとうございます」
    少女は軽く会釈してお礼を述べている。側から見れば以前より距離が縮まったように映るのだが、当人達には空気の歪さを感じ取っていた。例えるなら仮面を被って相手の求める自分を演じ合っているのだ。結局この日も踏み込んだ話は出来きなかった。



    少女が書斎から立ち去ると同時に珍しい人物がロジェールの前に現れる。
    「ごきげんよう、D。調べ物かい?」
    「それもある」
    Dと呼ばれた男はロジェールの横の椅子に座り、持ってきた書物をテーブルの上に置く。
    道を違えたとは言え世間話くらいはする仲の2人。普段は足も向かない場所にDが来るという事は何かしらを伝えたいのだろう。
    別に怒っている訳ではないが、仏頂面のDがロジェールを真っ直ぐ射止めている。
    「何?直近で君に被害が及ぶような行為に心当たりはないですよ?」
    いたたまれなくなって口火を切った。その言い草は他所でまた厄介の種を蒔いてるだろ、とDは喉元まで上がってきたがそれを飲み込み本題に入る。
    「俺にはあけすけに物を言うくせに肝心の相手にはだんまりか?」
    ほんの僅か、答えに詰まる。
    「今のDも大概じゃないか」
    涼しい顔をしているロジェールの口元がひくついている事は長い付き合いのDにはお見通しだ。
    「ロジェール」
    「う...」
    煙に撒こうとしたがこうなった時はしつこいのを知っている。咎められるような事はしていない、はずだ。
    「大体君には関係ないだろう?何でそんなに突っかかるんです?」
    「俺達が袂を分つ理由を忘れたか」
    「それとこれとは話が違う」
    不機嫌を隠す事はしなかった。昔の話を蒸し返すなと反論したいが本質は変わらないのを理解しているが故にそういう態度を取るしかないのだ。呆れともとれる長い溜息とともにDの眉間のシワが深くなる。
    「違わんさ。...互いにあの時は最善だと思ったが、結果がこれだ」
    「...」
    ロジェールは振り返った。離れ難いのに共に歩む事はできなくなった行く末を。一度踏んだ轍をまた繰り返すべきではないのだと伝えにきたんだ。Dは昔のよしみで警告しにきている。相も変わらず面倒見のいい奴め。

    憑き物が落ちたようなロジェールの様子を見てDの表情も緩む。言うべき事はこれで終わったと感じた。
    「大事に想うなら相手に伝わるようにしてやれ。手放したくないなら尚更だ」
    「...努力はしてますよ」
    「どう考えても足らんからこうなっているんだろう。一度で懲りろ」
    ぐうの音も出ない正論をぶつけられて流石のロジェールも閉口した。ぐでんと机に突っ伏して戯けて見せる余裕はあったが。これでこそいつものロジェール。飄々としてマイペースな男である。
    「まさかDに色恋沙汰で諭される日が来るなんて考えてなかった...」
    「俺だって好きで口出しなんぞせん」
    「じゃあ何で?」
    「お前らの辛気臭い顔を拝まされ続けるのは御免被る」
    案外近しい人間にはバレていたのかと少しばかり恥ずかしい。お節介焼きな所、昔から変わりませんね、なんて言ったら説教が長引くと察知したロジェールは「気を揉ませてすまない。あとは上手くやるさ」とふにゃりと笑う。
    「...あの娘の前でもそう笑ってやれ」
    Dは本日何度目かの溜息をつく。年上の弟を持った覚えのはないのにと心の中で自嘲していた。



    自室に戻り少女に渡す為の製法書の移しを準備していると誰かが扉を叩く音がした。控えめなノック音はあの子だろうと思い「どうぞ、開いていますよ」と部屋の中に招き入れた。
    予想通り星見の少女だった。しかしいつもより気まずそうに俯き加減でいて、置きどころのない手でローブの裾を弄っているのを見て、これはまた言いにくい相談事を持ってきたとすぐさま把握した。
    気が付いていませんと言わんばりにロジェールは振る舞う。
    「おや、裁縫書の催促ですか?それとも他に頼み事でも?」
    「...あ、はい...そう、です...」
    今にも消えありそうな小声で少女は返答した。ローブを握る手に力が籠っていくのが分かる。急かしてはいけないと見守っていたが二言目が発せない彼女が沈黙に耐えきれないと判断したロジェールは来客用に準備していたテーブルに手招きする。
    「立ち話もなんですから紅茶をお出ししますよ。丁度ローデリカから甘いお菓子をお裾分けしてもらったので一緒にどうです?」
    「ありがとう、ございます...」
    和やかな空気を心がけて接してみるも事態は改善しそうにない。これほど硬い言動を取っているのはあの夜以降なかったのではないか。
    薬のストックを自作したいと言うほどだから恐らく資金についての話だろうと察しはつく。どうやって聞き出そうかと考えていると先に意を決したのは少女の方だった。
    「あのっ...こんなお願いをするのは心苦しいのですが、路銀を融通していただけませんかっ」
    「構いませんよ」
    一番最初に相談してくれてよかったと一瞬思った。次の少女の言葉がなければ。
    「ですので、...えっと...お礼はまた同衾で良いでしょうか...!?」
    「...はい?」
    ティーポットを持つ手が滑って勢いよくテーブルの上に落ちた。割れなかっただけ良しとしよう。
    それよりも少女の言葉を反芻していた。お礼に同衾する?何故そうなる?と内心小波だっている。
    鈍い少女ですら目の前の相手が狼狽しているのを悟られる程である。
    「ロジェールさんが、次があれば早めに相談するよう仰っていたので...直接お願いに来たんです。駄目でしょうか...?」
    「言った...言いましたね...覚えてますよ...」
    昼間に忠告された「相手に伝わるようにしてやれ」という言葉がリフレインしていた。ロジェールとしてはどうしようもなくなる前に相談しろと口にしたつもりだが、少女にはフィアを仲介せずに直接頼めと変換されていたのだ。前回のように娼婦まがいの行為が対価だと考えているんだろう。ロジェールは頭を抱えた。

    いつになく感情が表に出ているのを少女は不思議そうに伺っていた。
    「私、何か勘違いしてますか...?ご迷惑でしたか...?」
    またこんな事を頼んで今度こそ幻滅されたのではないかと不安になっていた。その割にロジェールは「違うんです、そうじゃなくて...」と珍しく少女に素の状態を見せている。
    「ロジェールさん...?いつもと雰囲気が違う気がするのですけど、どうしたんですか?」
    おずおずとそう尋ねると
    「ええかっこしいはやめました」
    吹っ切れたような台詞が返ってきた。頭の中で疑問符が飛び交い少女の方も固まってしまう。
    すぅ、とロジェールが深呼吸して少女の方へ身体を向き直した。
    「言葉が足りなかった事を先に謝罪します」
    「え、あ、はい」
    穏やかな空気には変わりないのだが、こういったからからとした態度を少女は知らない。面食らって目をぱちくりさせていた。
    「それから、今回は私に真っ先に相談してくれて嬉しかった。頼りに思ってくれているのでしょう?」
    「...はい」
    「ただ一つ訂正を。自分を安く売るものではありません」
    「...すみません」
    「ご理解いただけたようで何よりです。ではこの話はお終いです」
    ぱん、と手を叩いて区切りですよという仕草をロジェールはとった。ますます少女はぽかんとしていた。立ちすくんで固まってしまった彼女を見てこれは情報処理が追いついていなさそうだと判断し、その手を引いて席につかせる。
    「とりあえずティータイムにでもしましょう。はい、これは君の分」
    「ありがとうございます...そうじゃなくて!ロジェールさん本当にどうされたんですか?」
    相当な覚悟で部屋にお邪魔したのに軽くあしらわれた上、知っているロジェールとは掛け離れた言動を目の当たりにし続けた少女は遂に疑問を口にする。
    質問された側はまぁまぁとまた受け流してテーブルの上のお菓子の山の形成に取り掛かっていた。
    「急かさずとも今お話しますよ」
    淹れたての紅茶をサーブしてようやく話す準備が整ったようだ。せかせかと作業しているようで少女に手渡された紅茶は澄んだ色をしており丁寧な性分が垣間見えていた。



    「では質問の返答を。先ほども言いましたが見栄を張るのをやめます」
    紅茶を含みながらロジェールは答える。
    「見栄なんて張ってないと思いますけど...」
    少女は素直な気持ちを口にする。それを聞いてロジェールは微笑んでいるのだが、何故だか見透かしているような視線を投げかけている。
    「貴方もそうでしょう?私に隠し通そうとしていた事がありましたよね?」
    「...そうですね」
    つい先日の出来事を指しているのだろう。見栄といえばそうなのかもしれない。情けない部分を見せたくなくて取り繕っていたあの時を思い出す。寸でのところで助けられたからいいが振り返りたくはないものだ。その後の事も含めて。
    「あの時は私も私情を挟みましたのでお互い様ですけど」
    「私情?」
    「ええ。独占欲、...貴方は濁すとまた勘違いするでしょうからはっきり伝えておきます。好きな子が見ず知らずの男に手を出されるのが我慢ならなかったんです」
    「す、好き?私をですか...!?」
    涼しい顔で好意を口にして顔色ひとつ変えないロジェールに少女は動揺した。じわじわと耳まで赤くなっていく。ここ暫く視線が合わなかった少女の瞳がまともにロジェールを捉えた。
    「自分でもまどろっこしい性格をしていると自覚はあったんですけどね。気づいてました?」
    「え、いや、分かりません...?」
    「ふふ、そうですよね。...とりあえず落ち着いてあーんしてくださいね」
    「むぐっ」
    元々キャパシティは多くない少女にとって今日の話は情報の濁流そのものだった。飲み下すまで時間を要しすぎる。急ぐ訳ではないが、このままでは進む話も進まないと判断したロジェールは半ば強引に焼き菓子をねじこんだ。素直にお菓子を頬張る少女を小動物のようで可愛いと微笑ましく思った。
    「という訳です。私がはっきりした態度をとっていなかったのも悪いのですが、先日は焦って強硬手段を取らせてもらいました」
    「ふぁい...」
    もごもごと急いでお菓子を飲み下しながら何とも間の抜けた返事をする。
    「正直嫌われても仕方ないと諦めていたんです。けれど貴方は変わらず私を慕ってくれていますよね」
    「嫌いになんてなりません!」
    食い気味に答える少女にロジェールはまた表情を柔らかくする。やっと互いに素直な感情をぶつけ合えている。初めからこうすれば良かった。随分と遠回りをしてしまったと思う。
    「ありがとう。だからこれからはもっと貴方に伝わるようにしますから」
    おもむろに少女の手を取りその手の甲に口づけを落とす。所作にいやらしさを出さないのがロジェールらしい。
    「これくらい分かりやすく、ね」
    悪戯っぽく笑うその顔にますます堕ちていく感覚を少女は覚えていた。狡い人、ここまで伝えられたら逃げられないやとはにかんだ。


    その後のティータイムの話は弾んだ。気持ちを押し込めないというのはこうも楽なのか。
    今後の予定や旅の同行まですんなり決まってひと段落した頃。ふと少女はロジェールに確認したくなってしまった。
    「ロジェールさん、先日の件はもう怒ってないんです...?」
    ポロリと口から出た疑問は結構な地雷だった。ふふふ、とロジェールは意味深な笑いをこぼして「いいえ?とても腹に据えかねてますよ?」
    しまった、と少女がやらかしを自覚する。
    「今回の事も頭にきてますからね?」
    「す、すみません...」
    分かりやすく態度に出すとは言ったが、目が笑っていないロジェールの笑みは普通に詰められるより怖かった。察しが悪い少女でも伝わるようになったがこれは喜ばしい事なのかと首を傾げたくなる。
    「今度私を怒らせるような真似をしたらアステリアの葉を50枚摘ませに行かせます」
    「体で支払う方向が酷いくないですか」
    「同衾の方が良いと?」
    「う...」
    もしかして嵌ってはいけないモノに掛かってしまったんじゃないかと少女は気づきかけて、思考を放棄した。
    「もう逃がしませんよ」
    ロジェールは当然それを見越して言う。それはそれはいい顔をしていた。
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    pa_rasite

    DONEブラボ8周年おめでとう文
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    「が……ッひゅ……っ」

    喉から搾り出すのは悲鳴にもならない粗末な呼気だ。気道から溢れ出る血がガラガラと喉奥で鳴って窒息しそうになる。致命傷を負ってなお、と腕を手繰り寄せ振り上げる。その右腕に握るのは血の錆が浮いたギザギザの刃だ。その腕を農夫のフォークが刺し貫いた。手首の関節を砕き、肉を貫き、切先が反対側の肉から覗いた。その激痛にのたうちまわるどころか悲鳴さえも上げられない。白く濁った瞳の農夫がフォークを振り回す。まるで集った蝿を払うような気軽さのままに狩人の肩の関節が外された。ぎぃっ!と濁った悲鳴を上げればようやく刺さったフォークが引き抜かれた。その勢いで路上に倒れ込む。死肉がこびりついた石畳は腐臭が染み込んでいる。その匂いを嗅ぎ取り、死を直感した。だがこれで死を与える慈悲はこの街にはなかった。外れた肩に目ざとく斧が叩き込まれたのだ。そのまま腕を切り落とす算段なのだろうか。何度も、何度も無情に肩に刃が叩き込まれていく。骨を削る音を真横に聞きながら、意識が白ばみ遠のきだした。いっそ、死ねるのであれば安堵もできただろう。血で濡れた視界が捉えるのは沈みゆく太陽だ。夜の気配に滲んだ陽光が無惨な死を遂げる狩人を照らし、やがて看取った。
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