記別 その1中野くんはね、僕の観音様だな。
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四日続けて市外の家具配送が続いたと言い、中野くんは座椅子から立ちあがるのもしんどいという顔をしていた。
今夜誘われたステージも見に行けないかも、と。
やっと訪れた、晴天の休日。
僕は僕でこの二ヶ月間、期日の迫る卒論と取っ組み合いをし、寮には着替え、洗濯をしに行くだけ。
ゼミ室に住んでいる。
ここへお客が訪問する際は、確実に、変な匂いがしているだろうな。
ストレスたまると勝手に分泌される臭い?名前付いてるのかな。
あと寝袋、夏から洗ってないから……。
活動はクリスマス辺りまで一旦休止。
併せて単位確保の戦いがある美代子も、刑務官のような担当教授に日々鞭打たれると嘆いていた。
例えがキツい上、淫猥だ。
今日は文化の日。
さて、たまに構内を飛び出したところで、金が無い。
卒業と引き換えに、いっときの貧困を耐え抜く。うちの学科では誰しもが通る道だ。
電車賃を払い、残金八八〇円。
コーラ自販機の前、TSUTAYAレンタル旧作・九〇円デー、ぎょうざの満洲、吉野家、ファミマ、おかしのまちおか、ときどき行く理美容室、パチ屋、中古楽器店、古着屋…。
駅西口を徘徊しても、全く心が躍らない。
とうとう、雑居ビル脇にある車止めに、勝手に座り込んでしまった。
タバコの吸い殻を踏んづけた。
ケツポッケに刺さった携帯に気がついて、腰を上げた。
バイト先に顔を出すかな?いや夜まで便利なタダ働きの悪寒が。
左脇から、初々しい、薄い化粧をし、かわいらしい指輪を付け、賑やかに笑い合う女子中学生、その三人組が目前を通り過ぎた。一年生だねえ。
はぁ。
僕から、…を取り上げたら、残るはこの、寒々しい。
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孤独な青春に溺れた僕。カナヅチだ。いそぎ救助隊を呼んでほしい。
いや、そんな便利に扱ってよい訳がない。
脈略もなく一人で飛び出してきたのが悪いのだ。
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「とりあえず、どこかで風呂かなあ。」
僕は武蔵野線に乗り換えた。残金はゼロに近づく。
ホームで受話器を取った。
今日は、お兄さんの仕事の車を借りてきたという。
北嶋くんを拾って、あと二人に声を掛けているが、捕まるかな?
駅の近場で一度車を降り、返事をのんびり待とうとなった。
「あの、僕さ、中野くん。」
「腹減ってない?」
「減ってます、だけど、」
「お小遣いないッスか。」
本当にすみません。カツアゲのし甲斐がなく。
「ハハハ。らしくないねぇ。夏の間は、なんでも仕切ってくれる頑張り屋さんだったのに。」
「うん、冬を前に、諸々力尽きた昆虫です。」
「無事にセックスして、子孫は残せたかい?」
「……。今年はあいにく。」
ニコニコ笑っている。
街道沿いのスパ銭に入った。
駐車場は中々の混雑である。
(続く)