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    20210701 告白が好き この後見送りのち空港で踊るのこらえる成人男性が見られる ランガはたぶん今のところ好奇心が一番強いぞ!頑張れ愛抱夢、興味をひき続けてゴールインするんだ!

    ##明るい
    ##全年齢

    振り向かせたまま走り抜けてよ ギリギリの時間に現れた男は上下する肩どころか全身を落ち着かせもせず、掠れきった声もそのまま一息に捲し立てた。
    「全員どこかに行って彼と僕を二人きりにしてくれ」
     当然怒涛の反発が始まったが、男と同じく疲労困憊でありながら頼む頼むとその場に伏す勢いで頭を下げるスネークに一人また一人と降参し、結局今は皆少し離れたところで自分達を待っている。ぼんやりと動いているのは何だろう。手を振っているようにも見えるし、逃げろのジェスチャーにも思えた。多分大丈夫だよと心の中で返す。男はようやく真っ直ぐ立てたところだし、何より彼が自分に何かするとは、それもこんな大事な時をわざわざ狙ってくるとはどうにも思えない。自分達の間には言葉に出来ることから出来ないことまで色々あったが何だかんだ良好な関係は築けてきたはずだ。
    「……はー」
    「大丈夫?」
    「ああ」
     そうは言いつつ繰り返す深呼吸は止まる気配すらない。
    「いやこれは問題ないんだ。準備というか」
    「準備?あなたが、何の?」
    「僕だってするさ。こんな時くらい」
     溜め息混じりに返答され言い方を間違えたと気付く。彼がどうと言うより今何の準備をと聞きたかったのだが。
     訂正するべきだろうかと悩む間に男が軽く唇を曲げた。
    「……ん、違うな。すまない。今のは僕の勘違いだ」
    「あ、うん。こっちこそごめん」
    「いいよ……あはは、余程緊張しているらしい」
     動転しすぎだ、参ったな。そう苦笑する顔には、確かに彼にしては珍しい汗がうっすらと浮かんでいる。
    「ランガくん」
     気安いのにどこか遠い大人の発音。これを聞くのも最後になることを思うと少し寂しい。
    「今から大事なことを話す」
    「……そう」
    「だが生憎僕はこんな有り様だ。場合によっては支離滅裂――あー……めちゃめちゃな、意味の解らない言葉の羅列になってしまうかもしれない。だけど聞いて欲しいんだ、君に」
    「わかった」
     大事か。何だろう。
     ランガくん――もう一度名前を呼ばれて、やっぱりやけに寂しくなった。
    「君が好きだった」
    「……そっか」
     好きだったらしい。
     言い終えた愛抱夢の頬がほんのり赤く染まっているのは、明らかに疲労のせいだけでは無かった。それくらいのことは流石に解る。彼が自分をそんな風に思っていたことは、一切解っていなかったけど。
     好きだと言われたならこれは告白か。なら返事をしなくてはいけないのか。
     ――いや。
     ここ数年で磨いた日本語力が冴える。だった、つまり過去だ。好きだではなく好きだった。であれば、おそらく彼はもうこちらを好きではない。なら返すべきははいいいえではなく。
    「ありがとう」
     素直に感謝を伝えると、花開くように彼が微笑んだ。愛情深い男。随分振り回され、けれど助けてもらった。あの不可思議な言動行動の数々には彼のそういった愛が含まれていたのだろう。教えてもらえればと思う反面、それは欲張りな仮定だとも理解していた。
    「最後に言ってもらえて良かった。じゃあ」
     記念撮影でもしてもらおうか、後で送ってもらって――そう言いながら皆のところに向かおうとした身体が、動けずその場で止まる。
    「……愛抱夢?」
     そういえば彼のこれには毎回新鮮に驚かされていたっけ。鍛えられた筋肉とおそらく天性の才能が重なった抜群の拘束能力はこんな時でも絶好調らしく、袖をただ掴まれているだけだと言うのに一歩も前に進まない。
     感情の読み取れない表情で愛抱夢はぽつりと呟く。
    「聞かないのか」
    「何を?」
    「理由だよ。何で好きなの、とか」
    「……聞いていいの」
     返事代わりに首が縦に振られた。
    「好きだったんだ」
    「ああ」
    「いつから?」
    「……かなり前。勘違いも含めれば、最初に出会った時から」
    「MIYAと戦ったあと?」
    「違う。君が初めてSに来た日」
     会ってない。
    「僕は会った」
    「……そう。気付かなかった」
    「そりゃあ君は鈍感だから。そんなところも好きだったが」
    「……」
    「ほら、他には?時間がないよ」
    「……何で好きなの」
    「良い質問だ」
     彼の言ったことをそのまま使っただけだが、待っていたとばかりに何度も含み笑いを溢す。聞かれたかったらしい。
    「答えるとね……」
     言葉を区切り愛抱夢は上を向いた。思わず動きを合わせ二人しばらく間抜けに天井を見る。そのままたゆたう思考に身を任せていたがいや何の時間だと我に返ったその時、勢いよく顔を戻した彼がにぱっと笑い――首を捻った。
    「改めて考えてもよく解らないな」
     掴まれていなければ倒れていたかもしれない。その一言のためにこれだけの時間を使う必要はあったか。ただでさえ残り時間は僅かだというのに。
    「そ、それだけ?」
    「ああ。けれどまあ色々ありすぎて解らないだけかもしれない。例えば――」
     指差す男は、してやったりと言う顔で。
    「君が今の時間に予想したであろうあれやこれも、間違いなくそのひとつ」
    「……」
     そうだそうだ、そうだった。こんな感じだった。謎の展開に巻き込まれたと思えばいつの間にか彼の好きに誘導されている。自分達の間には度々こういうやり取りがあった。
     それら全ても今のこれも――そのうち己の中で、懐かしい出来事とひとくくりにされてしまうのだろうか。
    「わかった。どうも。じゃあ」
    「待て」
    「聞いたよ?」
    「肝心なことがまだだ。君だって気付いてるだろ」
     聞きたくない、では終われないようだ。
    「……過去形なんだね」
    「ああ」
    「いつまで好きだったの」
    「さっきまで」
    「えっ」
     雰囲気を壊せる程度にはすっとんきょうな声が出た。目だけでごめんと謝るものの、驚いてしまったことは仕方ないと思う。意外と近いな。
    「君が旅立つ前にと思ってたんだ。結局ここに来る間際までやめられなかったけど」
     ならこの男は初めて出会った時から今の今まで自分を好きだったと、そういうことになる。それだけ長い間、自分のことを。
    「言えば良かった」
     無意識に出た言葉が正しいのかどうかも解らず、ただ彼の困ったような薄ら笑いを見て僅かに後悔した。
    「言ったら受け入れてくれた?」
    「……わからない」
    「だろうね、そういう正直なところも好きだった」
    「……なんか、すごい好きだね」
    「そうだよ。すごい好きだったんだ」
     繰り返される言葉に胸が痛む。知らなかった。それで済ませるにはこの数分だけで得た多大な感情をどう消費すればいいだろう。
    「……愛抱夢。もうひとつ質問いい?」
     何をなんて聞かれなかった。彼だってきっと話していけばここに辿り着くことを知り、そのうえで今日ここへ来ているはずだ。なら自分もきちんと聞いて、彼の恋をきちんと終わらせてあげたい。せめてそれくらいは。
    「どうして?」
    「……意味がないから」
     意味。
    「何の意味?」
    「好きでいる意味」
    「そんなの」
    「必要なんだよ。僕にとっては」
     訴える声にはどこかこの男らしくない必死さが混ざっている。
    「もう会えないなら、好きでいる意味がない」
     彼の考えは、時折ひどく寂しい。自分はそれを残念に思い結局数年仲間として過ごしても同意することができなかった。今も父を愛する身としては今回もまた。
    「……そっか。わかった」
     けれどもう、彼の言うように自分達は遠く離れ――もしかすれば二度と会えない可能性もある。最後に対立し嫌な記憶で終わらせるのも何だろう。
     それに、ここで反論するということは「会えなくなっても俺のことを好きで居てくれ」と言っているように聞こえやしないだろうか。
     そんな気持ち少しもない。
     改めて向き合っても一際目立つ男だと思う。様々な人が行き交うこの場所ですら特異な存在感を放つのだから当然あの照明照らす廃鉱山においても、彼は誰より輝き自由だった。それを縛り付けるような真似はなんとなく嫌だ。
    「何度もごめん、ありがとう。あなたに会えてよかった」
     唇は何か言おうと揺れては止まり、やがて横に引かれ。
    「……い」
    「い?」
    「いいのか」
    「いい」
     もう時間だ。最後にもう一度皆にお別れが言いたいがスネークが止めてるようだからこちらから行かなくては。足さえ進めば。そう思えど一切進む気がしなかった。それなりに力込めてるんだが。単純な力だけなら今後一生彼には勝てる気がしない、もっとも勝ち負けなんてもう二度と決まらないけど。
    「愛抱夢……」
     長時間掴んだままのせいか手は随分震えている。早く止めてしまえばいいのにと思った。
    「袖、離して」
    「いいのか」
    「いい」
    「いいのか」
    「いい……」
     何度聞かれたって同じだ。もういい。彼が決めたなら自分だって決めた。たった数分の会話に気付かされかけているこれから目を逸らしたまま別れとする。不満はない、そもそも今日この時まで思いもしていなかったのだから。彼が自分を。自分が、彼を――。
     強く振り、ようやく手が外れる。袖を掴む形のまま動かない腕の持ち主はとても奇妙な表情をしていた。見たことがないはずのそれを知っている。言いたいけど言ってはいけなくて、思っていても口には出せない。けれど次の瞬間には耐えきれなくなって、彼が喋ってしまうことも。どうしてか自分には解ってしまった。
     ふと思い出したのは秘密だった。隠す気はなかったのに本当に誰も気付かなくて、結局互いだけにぼんやりと存在していた小さな秘密。
     ――俺達って少し似てるね。
     負けず嫌いで頑固。好奇心が強くてスケートに救われて。そしてとても、寂しがり。
    「いやだって言わないの」
     言わないと言えば話はここで終わり、自分達、特に彼は何事もなかったかのように別れを済まし全く違う日常を歩んでいくのだろう。それはもう充分選択可能な未来だ。背を向けるだけでいい。散々繋ぎ掴み振り回し知らない世界に連れ出そうとしてきた手は、もう離れている。だから。
    「――いやだよ」
     不思議な気分だ。彼の思うがままだった自分が今、彼の運命をひとつ変えてしまうような、大胆な選択に踏み出そうとしている。
    「俺は言った、あなたも言って。俺のことどう思ってるか」
     関係は想像していたよりずっと良好で、けれどこれからの展開によっては今ここでさよならするより余程酷い終わりを迎えるかもしれない。それでも辿り着かなきゃ解らないならとりあえず行ってみるのも良いだろう。
     彼が口を開く。自分達の関係に改めて名前がつこうとしている。それじゃあ二人で始めよう。はじめての遠距離恋愛、何だか少しわくわくしてきた。
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