宣材写真のはなし「少しイメージと違う」
カメラマンとディレクターと思われる人達が先生の作品を撮影しながら、困っていた。先生の作った作品とモデルさんを並べて何度も撮影しては、写真をチェックして決めかねているようだった。
今日は先生の作品のイメージフォト撮影があるというので、どんなもんかと先生について見学にきていた。
当然のように美しくてスタイルの良いモデルの男女が作品と一緒にポーズをとりながら何枚も何枚も写真に収められていく。
素人の僕からすれば、どの写真も完璧に美しく何でこれがダメなのかまったくわからない。
「モデルさんて大変ですねえ」
「それが仕事だからな」
「そうですけど、何かダメなんですかね?」
と先生を仰ぎ見れば、先生の眉間に寄った深い皺と恐ろしい形相でディレクターを睨んでいる視線で悟った。
ああ、これは先生が気に入ってないのかと。
「先生、顔こわいですよ」
「…すまん、だがどうにも面談で見たときと印象が違う」
「まあ、体調とかあると思うので?」
「知らん、プロならそれぐらい管理しろとしか思わん」
とはいえ、あまりに先生の顔が恐ろしいので気の毒になってくる。
「そろそろ僕帰ります…明日も学校だし」
と声をかけたところで、ディレクターが僕の存在に気付いた。
今まで先生の殺気に気押されて僕には気付いてなかったみたいだ。そしてハッとして僕に声をかけてきた。
「あの、君!そのちょっとモデルと変わってみてくれないか?」
「はああ?」
先生と僕と同時に素っ頓狂な声がでた。
「すいません、そのロンベルクさんから聞いていたイメージとこちらの方の雰囲気がとてもあっているような気がして、その無理にとは言いませんが試しにでもいいので!」
そう言われて先生の方を向くと意外にも先生は怒ることもなく、何事か思案していた。そして僕の方を向くと
「悪いが坊や、ちょっと立ってみてくれないか、あそこに」
とモデルと先生の作品が並ぶ、セットの真ん中を指さした。
「無理無理無理です!そんなの無理!」
「立って俺を見るだけでいい」
しばらく押し問答を続けたが先生はまったく折れず、結局僕はしぶしぶ、照明の眩しいセットの中立った。
言われたとおりに、そこから先生を見た。
先生もこちらを見ていて、滅多ないないようなすごく優し気な顔で見つめられて自然と頬が緩む。その瞬間にフラッシュがたかれて1枚写真が出来上がった。
先生がその写真を確認すると、僕の方に歩いてきて無常にもこう言い放った。
「坊や、悪いが衣装に着替えてメイクとヘアセットもしてもらってこい」
「いやですよ!試しっていっただじゃないですか!」
「試した結果、坊やが最適解だっただけだ」
しれっと傲慢この上ないことを言われた。
30分後、衣装であるスーツを着てがっつりとメイクされて髪をきれいにセットされた姿でスタジオに戻れば、なぜか先生もスーツ姿で髪をきれいにセットした状態で待っていた。
疑問符が浮かぶ中で、撮影が開始されて様々な要求をされながら何枚も写真を撮られてモデルさんの仕事の過酷さを実感する。
「じゃあ、次はロンベルクさんも入ってください」
「はあああ?」
いけしゃあしゃあと先生もフレームインしてきて、僕の腰を抱き寄せた。
驚く間もなくフラッシュが焚かれて僕たちの姿が写真に収められていく。
「ちょっと先生!」
「まあ、遊びだと思ってな?」
人前だというのに、物凄い至近距離で先生の顔が迫ってきて、寸でのところでパット離れた。
「早く帰りたいだろ?俺もなんだよ。だから協力しろよ」
その後、何枚か先生ととてもセクシャルなお写真を撮影されて、ようやく解放された。ぐったりとする僕をメイクも衣装も落とさぬままに先生にお持ち帰りされたというのが正しいのだが。
2か月後に、先生のお店に伺うと、あの時にとった写真の1枚がメインイメージと称されてデカデカと飾られていた。先生の顔がメインで僕の顔は判別できない感じに加工されていたから先生を殴らずに済んだけど、心臓に悪いので、もう二度とやりたくない。
沢山あったはずのその他の写真はどうしたのかと聞けば、全てその場でフィルムから買い取ったそうだ。
「流出なんかしたら、あの場にいた全員物理で消さなきゃならんからなあ」
「だったら最初からやらないでくださいよ」
先生が捕まらなくて本当によかった。