鹿介と○○バーガー(一氏とみつきと鹿介) 夏はまだまだ終わらない!!
秋の空気が薄らと感じる様になってきたなと思っていた矢先の、夏をぶり返した様に気温が高く暑い日となったとある一日の出来事。
学校帰りの道中、暑さに耐えられずコンビニで買ったアイスを手に、歩く三人の高校生の姿がそこにあった。
「うーん、やっぱアイスはバニラに限るー!」
一人の少女はカップのバニラアイスを片手にうきうきと道中を歩いている。
「相変わらず元気なのな…みつき」
「うるせえだけだ、あんなの」
先頭を歩く少女、みつきを見て鹿介は素直に感想を言う。
一方でそのみつきを見て辛辣な事を言ったのは、鹿介の友人でありみつきの幼なじみでもある一氏である。
一氏は手元の二本に分かれるアイスを二つに割り、うち一つを鹿介に手渡した。
鹿介の方も一氏からアイスを受け取ると、自分が持っていたかち割り氷のカップアイスを一氏の方へ向ける。
「あー!ずるいぞ二人とも!!勝手にアイスシェアしてるなんて、俺にも分けてくれよ!」
後ろの気配を察知したみつきが、二人に駆け寄るが時すでに遅し。
一氏が持ってたアイスは鹿介とシェアされてしまったし、鹿介が持ってるかち割り氷も残り少ない。
「お前も欲しかったらシェア出来るやつ買えば良かっただろ」
そう言って一氏は、手に持ってた残り少ないアイスを吸い出して完食する。
「まあまあ、一氏。じゃ、みつきにはこれやるからさ、勘弁してくれよな」
鹿介はそう言って、みつきに残りのかち割り氷のカップを渡す。
「サンキュー鹿介!やっぱり鹿介は優しいなー、どっかの誰かさんと違ってな?」
みつきは一氏の方を見て軽くからかうが、言われた当の本人は何処吹く風である。
「お前に言ってんだぜ?か・ず・う・じ君?」
「あ?何が?」
「まあまあお二人さん、仲がいいのは十分わかってるからその辺にしときませんか?」
「別に」「良くねぇ」
幼なじみ二人のいつもの会話に、いつものように制止をしたら、やっぱりいつものように同じ言葉が二人同時に返ってきた。
そんな道中、みつきがとある場所を見て目を光らせた。
「おー!まだ売ってたんだー!」
と、みつきがその店に向かって走り出したので、二人も慌てて追い掛ける。
「おい、みつき。いきなりうろちょろすんな」
「どしたの?何見つけたのさ、みつき」
「おっそいぞ二人とも。ふふん、これこれ!」
みつきが指さしたのはライスバーガーや、照り焼きの味に定評があるハンバーガーチェーン店のメニューだった。
今頃の季節ならば、秋らしい新メニューが売りに出される頃であるが、ここはサマーキャンペーンとしてスパイシーな商品を期間限定で販売していた。
「まだ売ってたんだな、これ」
「辛いの好きだもんねーみつきはさ。って、まさか今から食うの?」
「見てたらお腹空いてきたし、一緒に食おうぜ!」
「いやー、俺さ今日は辛いのより照りチキの気分かなー」
「俺、トマト無理だから横のチキンにする」
「なんだよー、二人ともヘタレだなー。ま!食うんだったらさっさと入ろー!」
店先での会話もそこそこに、みつきは二人を店内へ引っ張る。
店内に入るや否や、みつきは限定のハンバーガーのポテトセットを注文すると早々に席取りに向かっていく。
鹿介は照り焼きチキンのハンバーガーのサラダセットを注文し、一氏は限定販売のチキンと、オニオンリングとポテトが一つになった、サイドメニューとドリンクを注文してみつきの後を追う。
「お前、晩飯食えなくなっても知らねぇぞ」
「大丈夫、大丈夫!晩飯もしっかり食えるからよ 」
「それだけたくさん食っても太らねぇって、やっぱすげぇよみつきは」
「へへっ、ちゃんと運動してるからな!」
運動をしてるのは同じ部に入部してる二人も同じだが、みつきは特によく食べるのでなぜそれで太らないのかと、少し羨ましいところがある。
「うーん、これめっちゃうめー!」
「食いながら喋んな。汚ねえ」
「勢い余って詰まらすなよ?」
みつきの食べてるハンバーガーは、ソースがたっぷりと入っているのでソースが溢れて包み紙の中にたまってくる。
横で座っていた一氏はそれを見るとみつきにある物を渡した。
「何?あれ、スプーンじゃん」
「どうせソースも食うだろうと思って貰っといた」
「へー、たまには優しい事すんのな一氏」
「うるせぇな…」
「まぁ、たまにはいい事すんじゃん。ありがとな、かずうじ」
「だからうるせぇって…」
この店のハンバーガーはソースがたっぷりな事が多く、余すことなく食べてもらうためにレジで店員に言うとスプーンをくれるのだ。
一氏はみつきの行動を予測してあらかじめスプーンを貰っていたのだった。
二人に茶化され一氏は少し照れるが、すぐにいつものぶっきらぼうな表情に戻った。
そんな様子を見ながら鹿介もハンバーガーを頬張る。
(うん、やっぱり美味い!)
いつ食べても飽きのこない照り焼きソース。
通常ならビーフやポークパティで食べる事が多いのだろうが、ここでは店で焼き上げるチキンで食べられる。
ここでしか味わえないから、たまにはここに食べに来たくなるのである。
鹿介がハンバーガーを堪能していると、目の前に座る二人が何やら会話してるのが目に入った。
「なぁ、かずうじー、そのチキンさ一口くれよ」
「はぁ?なんで?自分で買って来いよ…」
「いーやーだ!今欲しい!一口くれ!俺のハンバーガーも一口やるからさ」
(え、なんだ?何か揉めてる……?)
鹿介はハンバーガーをもぐもぐさせながら二人の様子をとりあえず眺める事にする。
「それトマト入ってるし、別にいらねぇ」
「いやいや、これそんなトマトマしねぇから!だから一口だけチキンくれよー」
みつきの押しに折れたのか、鹿介は一氏がため息を付くのが見えた。
そして、その後の二人の行動は鹿介を軽いパニック状態にさせることになる。
「…しゃーねぇな。ほら、一口だけだぞ」
そう言って一氏は持ってたチキンをみつきの方へ向けた。
ちなみにそのチキンは、既に一氏が一口食べている。
「サンキュー!」
そう言ってみつきは一氏から向けられたチキンを一口、ぱくりと食べたのだ。
(ん?え、はいっ??えええ!)
鹿介は目をぱちくりと瞬きを繰り返す。
「ほーら、かずうじも。一口な!」
今度はみつきが一氏に、持ってたハンバーガーを食べやすいように向けている。
こちらもみつきが既に一口食べている。
一氏はそのまま、器用に顔だけ向けて持っていき、そのハンバーガーを一口食べた。
(おいっ!ちょ!待てって!待てって!なぁ!)
鹿介は今度はその様子を、目を見開いて凝視している。
この二人、この二人はしれっと──
(か、関節キスなんじゃねぇの!今の!なぁ!)
「なぁ、これ美味いな!もう一口ちょうだい?かずうじ」
「お前の言った通り確かにトマト大した事ねぇな。もう一口くれ、みつき」
そして、無言の動揺をしている鹿介の前で、二人はお互いの食べている物に再び齧ろうと動きを見せた時、鹿介が我に返りガタンと勢い良く立ち上がる。
「お前ら…」
「何?」
「何だよ…」
二人はなんで鹿介が、自分達に向かってわなわなしているのか検討がつかないようで、訝しげな表情を浮かべるが、鹿介はそんな二人に構わず続ける。
「お前らのパーソナルスペースはゆで卵の薄皮よりも薄いのかっ!?なんでっ!なんで…そんなしれっと…っ!」
「パーソナルスペースって何?」
「何が言いたいんだよ。はっきりと言え鹿介」
「お前らしれっと関節キスしてんじゃねーよ!!」
ここまで言われて初めて二人は事の次第を理解したようで、お互いに顔を見合わせた。
「で?」
「何だよ急に。別に俺ら普通にシェアしただけじゃん?」
「で?じゃねーよ一氏!俺への当て付けか?目の前で急にイチャつくなよ!みつき、お前もだ!パーソナルスペースくらい少しは意識しろって、自覚無さすぎだろ!」
二人の素っ気ない反応に鹿介も火が付いてついまくし立ててしまった。
大きくため息をついて鹿介は席に着く。
「なぁ鹿介」
「なによ…」
「俺ら別にこれいつもの事だぜ?」
「へっ?」
「だから、日常茶飯事」
「一氏?」
二人の返答に鹿介は頭の中でバグが起きそうだった。
(え、俺の常識がズレてんの?………いやいやいや!ズレてんのこいつらだって!いくら幼なじみっていっても、距離感近すぎの自覚無しはヤバいっしょ!)
「ま、そっか。鹿介は彼女いないもんなー。今のお前、なんか顔赤いし?」
「なんだ。俺達を見て勝手に照れてただけかよ」
「…そういうお前らは付き合ってんのかよ?」
「いや、全然。俺がかずうじと付き合うとかありえねー」
「むしろうるせぇ位にこいつがくっついて来るんだが」
(こいつら……っ!こ・い・つ・ら!)
鹿介は思う。
こいつらマジでなんかしらズレてる。
幼なじみ補正があったとしてもズレてると。
(あ、なんか頭痛くなってきたなー…)
鹿介はこの二人をまるで違う生き物を見るような気分になり、無理矢理自分を納得させようとした。
とりあえず、何でもいいからお前ら爆発してくれと強く鹿介は思う。
無意識にずっと飲んでいたのだろう、ジュースが切れた音がカップから鳴る。
鹿介はスっと席を立ち
「ちょっとジュース買ってくるわ」
と、その場を去るのだった。
レジに着いた時、ちょうど店内を懐かしい曲が流れる。
今現在は二人で活動しているアーティストの、かつて三人で活動していた時代の、これぞ夏!といえる軽快な楽曲である。
鹿介はその曲を聴きながらふと思った。
(俺もラジオに投稿しよかな…)
この楽曲の中でも投稿してる様に、ラジオネームを決めてラジオ番組にでも投稿してやろうと。
価値観がズレまくりのあの二人に、どうすれば恋愛感情を芽生えさせる事が出来るのかと。
後日、とあるラジオ番組にて【R.N 恋したいこじかちゃん】の、相談内容が読み上げられたのかどうかは、ご想像にお任せするとしよう。