無自覚な司くんの話※注意※
・設定読んでから進んでください。
・絵や漫画で見たいけど、自分の画力じゃ無理だから文字にしたやつ。(なので短い)
・司くんがかなりサッパリしてます。類くんが終始混乱してる。
・何でも大丈夫な人向け。
大丈夫ですか?
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(簡易設定)
司くん
・頼み倒されて類くんとお付き合い始めた。
・恋はよく分からない。
・思ったらとにかくやってみる。
類くん
・司くん大好き
・司くんと付き合うのにめちゃくちゃ言いくるめた。
お試しでもいいから付き合ってみようって、割と必死になって、なんとか付き合う。
・当初手を繋ぎたいとかお願いしたけど、「嫌だが」とあっさり断られてお付き合いしてるけど、おてて出せない。
・待てが出来る子
類→→→→→(←?)司
くらいに思って下さい。
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【おててが気になる話】
「類くん!さっきのビュビューンッザザザーッギューンッて、凄かったね!!」
「ふふ、それは良かった」
「あたしもやりたいなぁ」
「おや、それなら準備しようか」
「わーぃ!」
ふと、目の前で繰り広げられるやり取りに目がいった。ぶんぶんと類の手を掴んで振りながらはしゃぐえむは、いつもみたいに瞳をキラキラさせている。先程の演出装置の話だろう。何となく思い出しながら、黙って二人の会話を聞いていた。ぶんぶんと振っていた手が止まって、座る類を立ち上がらせようと引っ張ってる。手元のペットボトルの蓋を開けて、飲み口に口をつけた。立ち上がる類が、えむに手を引かれてステージ裏へ移動していく。それを目で見送ってから、飲み物を喉に流し込んだ。
―――
「司、類知らない?」
「む?先程までそこに…って、いない!?」
「もぅ、だから見ててって言ったのに」
備品の買い出しで商店街まで来たは良いが、寧々がレジに向かっている間に隣にいた類が居なくなっていた。相変わらず、気配が読み取りづらいやつだ。眉を寄せて顰め面の寧々が辺りの店をキョロキョロと見回して、ピタリと視線が止った。普通の雑貨屋を見つめて、そちらへずんずん入っていく。それを呆気と見ていれば、寧々が類の手を掴んで店から出てきた。よく分かるなぁ、と少し関心してしまう。苦笑する類は少し前かがみになりながら寧々の後ろに続いてこちらに来る。しっかり掴まれた手は寧々より大きい。それが遠目からでもなんとなくわかる。
「勝手に居なくなったら困るでしょ」
「面白い雑貨を見つけてしまって、ついね」
「司、次はちゃんと見張っててよ」
「あぁ、そうだな」
目の前まで来た二人がそんなやり取りをしている。それに軽く相槌を打ちながら、掌を軽く握った。パッと開いて、もう一度握る。なんだろうか。胸の辺りが変な感じだ。もやもやというか、ぐるぐるというか、とにかくよく分からんが変な感じがする。パッと離された類の手は、何となく白く見えた。
「………」
寧々と類が話す声を何となく聞きながら、ぼんやりとしてしまう。何なのだろうな、これは。今度はえむを探しに寧々が駆け出した。
―――
「神代先輩」
類と並んで屋上に向かう途中で、類が声をかけられる。先に行っていてくれと言われ、オレは先に屋上へ向かった。ちらりと振り返ると、多分委員会の後輩なのだろう。仲が良さそうに話をしている。珍しいとは思うが、まぁ、初めて見る光景でも無い。類の腕を掴んで何か頼み事だろうか。眉を寄せて何かを言っている後輩に、類が苦笑している。女子の手というのはやはり小さいのだな。何となく目に付いた綺麗な指先に、自分の手をちらりと見る。そのまま、屋上に真っ直ぐ向かった。
お弁当を膝に乗せて、1人で黙々と食べ進める。今日はハンバーグだった。ゆっくり咀嚼して、飲み込む。それを繰り返していれば、屋上のドアが開いた。
「お待たせ、司くん」
「む、遅かったな」
「うん、今日の委員会の係を変わって欲しいって頼まれてしまってね」
「そうか」
隣に座る類を横目に、箸でご飯を一口口に入れる。委員会という事は、今日は寧々と先にワンダーステージに行くことになりそうだ。類を待つと練習時間が遅くなってしまうからな。そんな事を考えながら、黙々とまた食べ進める。当たり前のように隣に座った類は、買ってきたのだろうゼリー飲料のキャップを外した。またそんなのでお昼を済まそうとしているのか。最後の一口を口に放って、ゆっくりと咀嚼する。今度類に弁当でも作ってきてやろうか。いや、面倒くさいことになりそうだからやめておいた方がいいかもしれんな。泣きながら持って帰るとか言い出しそうだ。大袈裟過ぎるくらいの予想なのに、否定ができん。ごくんと飲み込んでから、手を合わせて小さく「ご馳走様でした」と呟いた。弁当箱を片付けながら、隣へ視線を向ける。ゼリー飲料のパックを掴む類の指に目がいった。細長い指がパックに少しづつ沈んでいく。それを見つめてから、片付け終わった弁当箱を隣に置いた。
「なぁ、類」
「ん、なぁに?司くん」
パッとこちらへ表情を向ける類はふわりと微笑んでいる。人好きの良さそうな、優しそうな顔は、類のいつもの表情だ。
「手、出してくれ」
「…手、かい?」
はい、と左手が差し出される。それに「すまん」と一言謝ってから両手で触れた。ふにふにと親指の腹で掌を揉む。柔らかい肌の感触、けれど男らしい固さも少しあって面白い。指はやはり長いな。オレより大きな手が少し羨ましい。少し指先が冷たい、体質だろうか。カサついた感じもなくスベスベしてる気もする。ハンドクリームとか塗らなそうだがな。
「……ぇ、と…司くん?」
「すまん、もう少し待ってくれ」
「…ぁ、うん…」
少し困った様な声が聞こえたが、視線は上げず謝る。もう少しだけ触れていたい。指先もゆっくり撫でて、爪をじっと見つめる。綺麗に切り揃えられていて、指の腹で擦ってみた。機械を弄るからだろうか、こういう所もちゃんとしているんだな。指を絡める様に掌を合わせて握ってみる。大きな手に包まれるような感じに、胸の奥がドキドキした。改めて、類はオレより男らしいのだと思い知らされた様だ。同じ男として憧れてしまったのだろう、音を鳴らす胸を片手で抑えた。
「つ、司くん、…」
「む、…あ、すまん、類…」
パッと手を離して、顔を上げる。すっかり触るのに夢中になってしまった。眉を寄せてへらりと笑う類の頬は少し赤くて、オレは首を傾ぐ。熱でもあるのだろうか。風が冷たくなってきたし、体調管理には気をつけねばな。
「それは構わないけど、急にどうしたんだい?」
「いやなに、ここ数日、お前の手に触れてみたいと思ってしまってな」
「んぇ?!」
ピャッと肩を跳ねさせた類が目を瞬いた。何をそんなに驚く事があるのだろうか。首を傾げて類を見ていれば、さっきより赤くなった顔でオレを真っ直ぐ見つめてくる。
「じゃ、じゃぁ、今度ッ…今度一緒に、手を繋いでくれるかい?」
「………何故だ?」
「恋人同士なら、普通にする事だよ」
ずいっと前のめりに問うてくる類に、少し体を後ろへずらす。近過ぎる距離に、じわりと手に汗が滲んだ。顔が若干暑い気がして、手を頬に当てる。ひやりと冷たい手の温度にホッとした。前にも『手を繋ぎたい』と言われた事があった気がするな。よく分からんが、男同士で手を繋いで何が楽しいのだろうか。むぅ、と眉を寄せてまた首を傾げる。類のしたい事、というのはよく分からん。
「握手と何が違うんだ?」
「手を繋いで歩きたいです」
「歩きづらいから却下だ」
キッパリ言い切れば、目の前で類が盛大に溜息を吐いた。がっくりと肩を落とす様に、ほんの少し胸が痛い、気もする。オレは悪くないと思うぞ。思った事を言っただけだ。何となく罪悪感が残って、視線を逸らした。
「まぁ、司くんならそういうと思ったけどね…」
「そう思うなら聞くな」
「それは、あんな事を言われては、期待してしまうじゃないか」
「……変な事を言ったつもりはないぞ」
カシャン、とフェンスに背中を預けて、類は飲みかけのゼリー飲料に口をつけた。それをちらりと見てから、オレもフェンスに背を預ける。冷たい風が吹き抜けて、暑かった顔が冷やされていく。気持ちがいい。掌を目の前にかざして、じっと見つめる。オレとは違う類の手の感触が、まだ残っているようだった。
「……ん、結構、好きかもしれんな」
「え…」
「類の手は、触り心地が良かったぞ」
思い出して、口元が自然とゆるむ。たまになら、触りたい。今度また触りたくなったら、頼んでみるのもいいかもしれんな。すっきりした気分に、つい鼻歌が零れる。遠くで鳴り出した予鈴の音に、お弁当箱を持つ。
「午後の授業が始まるな」
「ま、待って、司くんっ、今のどういう事だい?!」
「どうもなにも、そのままの意味だろう」
何を言っているのだ。溜息を吐いて、立ち上がる。慌てて追いかけてくる類が隣に来て、「結局なんだったの?」と聞いてきた。なんだったの、と聞かれても、オレにもよく分からん。ただ、えむたちが、あの後輩が、類に触れていて、気になっただけだ。類の手に、触れたいと思った。それだけ。
「委員会活動、頑張るんだぞ」
「ぇ、えぇ……」
まだ何か言いたげな類に手を振って、オレはさっさと教室に入る。自席に座って、弁当箱を鞄に押し込んだ。ざわざわと騒がしい教室で、じっと掌を見つめる。何故だろうな、胸の奥がふわふわする気がするのは。
「……たまになら、繋いでやってもいいかもしれんな」
ボソッと小さな声で呟いて、へにゃりと表情を緩める。また触れられるなら、それも良いかもしれん。類に言ったら面倒くさそうだから、言わないがな。
―――――
「……あれは、ズルくないかぃ…?」
机に突っ伏して、顔を手で抑える。触れたかったって、どういう事?それに、あの時の嬉しそうな顔が頭から離れてくれない。
「………本当に、司くんはかわいぃなぁ…」
好き、なんて初めて言われたかもしれない。いや、僕の演出が好きだと言ってくれたけれど。今回は手が好きって、彼ってそういう趣向でもあったのだろうか。まぁ、彼が好いてくれる理由が一つでも多いのは嬉しいことだけれど。
「意識されてるのとは、違うんだよね…」
はぁ、と今日何度目かの溜息を吐く。殆ど強引に始まった彼との交際。いつになったら、振り向いてもらえるのだろうね。
「…その前に、僕が死んじゃいそう……」
司くんの可愛さで、精神が保てるのか、それが不安かな。
そうしてまた、僕は溜息を吐いた。