恋は前傾姿勢王都からの出張の帰りの馬車の席順はいつも決まってる。
エルヴィンの隣にリヴァイ。
ミケの隣に私が定位置だ。
だけど今回はミケがいないからエルヴィンの向かいに私とリヴァイが座った。
まあ当たり前だ。エルヴィンは上官だし、身体のサイズからしても私とリヴァイで2人掛けが妥当だから。
それなのに、普段なら別に気にならないことが今は、すごくすごく気になっている。
馬車が揺れるたびにぶつかる体温や軽く香るリヴァイの匂いが落ち着かない。
昨夜、3兵団幹部の懇親会で午前様だったエルヴィンはお疲れ顔で、目を閉じたまま束の間の休息を取るモード。
そう、すべてが絶妙なタイミングの夜だったのだ。
エルヴィンは不在。ミケは欠席。
私たちは珍しく自由時間をもらい、
ハメを外すのにはちょうどいい夜で。
だって私はリヴァイに興味があったし、彼もきっと私に少しは興味があったんだろう。別に手を伸ばしたって、その挙句にシちゃったって、その関係性に何ら影響はないと思っていたのに。
好奇心の先にあった、知らなかったリヴァイの欠片にたくさん触れたような気がして、無かったことになんてできなさそうな自分を持て余してる。
上官に倣い、リヴァイも移動時間を休息にあてることにしたらしい。目を瞑ってると、童顔がますます幼く見える。
リヴァイは私の横で平気でうたた寝できる位だから、気にしてないのかな。まぁその方が助かるけど。
私もとりあえず忘れよう。シてしまったことはもう元には戻らないけれど。
思い出せば思い出すほど、恥ずかしいことばかりだもの…
少し休もう。目を閉じたら自然に軽い溜息が漏れた、
その時
節くれてて、硬いけど柔くて、熱くて冷たくて、昨夜私を翻弄したあの手のひらが、私の右手を確かな意志を持って包んだ。
…えっ
思わず目を開けてリヴァイを見つめる。
…狸寝入りかよー!クソチビーっ!
リヴァイの表情は変わらず目を閉じたまま。
慌てて向かいのエルヴィンを見る。
未だ夢の中のようだ。気付かれてはいない。
これはどういう意味?
無かったことにはしないの?
もう少しだけの勇気が
もしあるなら 何かが変わるの?
私も目をもう一度閉じた。
そして、私の意志を乗せて
彼の手を握り返した。
失敗しちゃってもいいじゃない。
だってもう戻れない。
あと数分だけ。
エルヴィンが目を覚ます数分だけ。
悔しいけど、
君に前のめり。恋は前傾姿勢。