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    meemeemeekodayo

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    meemeemeekodayo

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    彧嘉。

    #彧嘉
    yuga

    酒よ、彼の望みの悦びよ凛とした横顔、綺麗な形の鼻先、長い睫毛、血色のよい唇。どれも自分にはないものだと、酔いが回り始めた頃に郭嘉はそう思った。己のことを醜いと感じたことはないし寧ろ顔面の良さは自負しているが、彼とは少々毛色が違う。
    手を伸ばせば、少し体を傾ければ触れられる距離にいる。荀彧のその美しい横顔を肴に酒を飲めばいつもの酒もとびきりの美酒に変わるようだった。甘くとろりと口に入り、だけど喉から落ちるときには辛みが襲ってきて喉を焼く。じんわりと食道を通るのが分かる。心地いい。なんとも心地いいのにどこか物足りなくて、わざと音を立てて杯を置いた。
    「ほら。そんなに飲むからですよ」
    「ん……何が?」
    「もう手元が覚束ないのでしょう。貴方の酒好きは理解していますが決して強い訳ではないのですからね……」
    視線をこちらに向けた荀彧は呆れた口調で郭嘉の杯を遠ざけた。小言が始まるかと思いきや黒い瞳は案外優しい。
    酒宴の真っただ中。どこもかしこも賑やかで今夜ばかりは寡黙な将も大人しい文官も各々楽しんでいるようだった。まず主君が声を上げて笑っているし、その身内の人々もよい具合に酒が回り始めているのか負けないくらい大声で話をしていた。豪傑たちの笑い声、華やかな楽の音。かちゃかちゃと鳴る器の音さえ愛しい。始まってからいくらか経っているが終わりはまだ先だろう。
    自然と仲の良い者同士で集まったおかげか、郭嘉の近くには荀彧以外にも顔馴染みがいて三者三様に宴席を過ごしていた。誰も彼も顔が赤い。程度の差はあるものの皆、酔っ払いだ。
    場の空気に圧されてか、いつもなら嗜む程度の荀彧も今夜ばかりは一杯、二杯と重ねていた。話し声がやや大きく、よく笑う。それでも顔色は変わっておらず口振りも乱れていないから案外荀彧は酒に強いのかもしれない。
    「明日に残るといけませんからその辺にしておいた方がよろしいのでは。先日も体調を崩していましたし」
    「まだまだ、夜はこれからだよ。せっかくの宴なんだから」
    離れた杯を取り返そうと手を伸ばす。力を抜いて笑い掛ければ盛大なため息が返ってきた。生真面目で清廉で怠惰には眉を顰める荀彧だが郭嘉の行動には目を瞑ることが多い。時折本気の雷を落とされることもあるが基本的に、彼は甘い。本人にはとても言えないが郭嘉がひとつ微笑めば荀彧は仕方ないと首を振りながらも大概許してくれるのだ。
    それが憐れみでないから郭嘉もまた甘えていられる。少しでも同情の類が見えたらこちらから突っぱねるだろうが荀彧は決して可哀想な目では見てこなかった。この身の虚弱さ、密かに蝕む病を知りながらも憐れんでこないのは何とも心地よい。酩酊と同じくらいの好さがあった。
    「……あと少しだけ、ですよ」
    郭嘉の手首を掴んで引っ張った荀彧は耳元で囁くようにそう言った。騒がしいから耳打ちをしてくれたのだろうが突然鼓膜を震わす彼の声に肌が粟立つ。引く腕にも少々荒っぽさがあって、やはり荀彧もまた酔っているのだと確認できた。
    「うん、分かってるよ」
    「……ふふ、郭嘉殿は、いいこですね」
    ほら、ごらん、貴方も酔っているじゃない。
    口にしたもののすぐに荀彧が離れてしまったから彼の耳には届かなった。喧騒に紛れてしまって虚しいことこの上ない。
    手酌で杯を満たす。気づけば荀彧は郭嘉から視線を外し向こうに座る人たちと話し始めていた。
    途端に寂しさを覚えて一気に飲めば甘く蕩けて、けれども辛みがしつこい程に喉に張り付いてなかなか消えてくれなかった。
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