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    hiisekine_amcr

    @hiisekine_amcr 雨クリを好みます

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    hiisekine_amcr

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    アイスキングダムをテーマにした幻覚マシマシ捏造話です。雨クリの距離が近い。
    ファンタジー要素が強めです。

    ##IKL

    IKL幻覚雨クリ小説 それは氷に閉ざされゆく世界。いずれすべてが凍りつき、命あるものはみな息絶える世界。
     その中でもまだ人が住まう地域に、人は国と、その国の集まる連合を作り上げた。
     名を「アイスキングダム」という。
     
     *****
     
     新たに、北の国の王が即位した。
     ソラという年若い少年で、先代の北の国の王の弟でもある。「風の力」の詠唱術に長けていると、もっぱらの評判だ。
     即位の挨拶のためにキングダム連合の中央に位置する中つ国に立ち寄ったソラは、連合をとりまとめる王であるクリスと、また中つ国の王であるアメヒコと共に立ち話をしていた。
    「あの小さかったソラが、もう北の国の王になってしまっただなんて」
    「まだまだ小さいと、思っていたんだがな」
    「ちょっと二人とも、身長の話なら余計なお世話だからね?それに、年齢でいったら南の国のショータさんの方が僕よりずっと若いんだよ」
     背の高い二人の王に挟まれたソラは、はあと大きなため息をついた。まだ王の装束を着慣れていないためか、詰襟の前のボタンを煩わしそうに外している。
    「彼も非常に珍しい力を持って生まれましたからね」
    「眠りの力だったか」
    「はい。人の眠りを操ることのできる、非常に稀有な力です。不治の病で苦しむ人が、彼のおかげで安らかに眠りにつくことができました」
     ソラもショータも、ほかの王たちも、みなそれぞれ特殊な力を持っている。それはソラのように風を操る力であったり、ショータのように眠りを操る力であったりと様々だ。その力は、誰もが持ち得るものではない。だからこそ、その力は天より授かりしギフトとして、国民を守るために使われるべしと、王に求められる資質の一つとなっている。
    「稀有な力かあ。僕の力は普通の風の力だからな」
    「それでも、私たちのこの力はそもそも持っている人自体が少ない、貴重なものです。頼りにしていますよ、ソラ」
    「まあ任されたからには、ちゃんと王様やってみせるよ」
     そうやって楽しく話していた三人だったが、ソラがまもなく帰国する時間ということで、泣く泣く別れることとなった。
    「次会えるのはいつになるでしょうか」
     名残惜しそうにソラの去っていった方を見つめるクリスに、アメヒコは落ち込んだような表情を見せた。
    「俺だけでは不満かい?」
    「そんなつもりでは……!……もう。意地悪なことを仰いますね」
     ハッと弾かれるようにアメヒコの顔を見たクリスは、揶揄われていたことに気づき、頬を染めた。
    「すまなかった。あまりにもあいつに熱心に見えてな。……それはそうと、いつものやつ、今からやるかい?」
     アメヒコは、クリスの胸元にトン、と指を置いた。
     
     
     付き人とともに歩きながら、ソラは先程の話を反芻していた。
    (稀有な力、と言ったら、そういえばアメヒコさんもそうだよね。――浄化の力。人に病をもたらす物理的な汚れも、心に潜む闇も、綺麗に浄化してしまう。その力があったからこそ、中つ国の王はアメヒコさんになったと聞いたけど……)
     
     
     そのアメヒコの手が、クリスの胸を滑る。
    「またえらく溜め込んじまったようだな」
    「多くの人の話を聞くのは、連合の王の責務ですから」
     クリスは目を閉じたまま、アメヒコの動きに集中している。
    「そうかもしれないが、マイナスの感情を浴び続けては毒だ。お前さんは特に染まりやすいんだから」
    「感謝します、アメヒコ……。あなたのおかげで、私は……」
    「王を続けていられるって?……やめてくれ。お前さんは本来、こんなこと向いてないんだ」
     クリスの胸に手を置いたアメヒコは、目を閉じて段々と息を荒くするクリスをじっとりと見つめる。
     美しい男だ。そして、清らかな男だ。
     それなのに、こうして抱え込んでしまう。王の責務も、人の持つ心の闇すらも。
     彼は、水の能力を得て生まれてきてしまったがために、こうして王にまつりあげられ、さらには連合全体のトップの座に立たされている。その事実に、アメヒコはやりようのない怒りを覚えていた。
     水の能力は、たしかにこの世界において非常に重要だ。水を生み出し、また消し去る力。そして水の持つその姿を変える力。水を氷に、氷を水に。そんな便利な水の能力を持つ者がいるからこそ、このアイスキングダム連合はまだ人の住む場所を保つことができている。
     そしてこのクリスは、水の力の保有者であるということとともに、その身に宿す力量の大きさを見込まれて王に抜擢されたのだという。しかし。
    「……浮かない顔だな」
    「……お話しても、良いでしょうか」
    「そのために俺がいる」
     穏やかな声色でそう言うと、クリスが泣きそうな顔でぽつりぽつりと話し始めた。
    「王として、力不足と言われまして」
    「誰にだ?」
    「いえ、それは」
     思わず出てしまった怒りの感情に、クリスは焦りを見せた。
    「……その、だんだんと氷が迫ってきていると、外側の住民の方がお困りだそうで。……融解の祈りは毎日欠かさず行っているのですが……」
     クリスの表情は翳る一方だ。
    「やはり、もっと祈りの時間を増やしたほうが良いのでしょうか」
    「それはダメだ。前にやって倒れただろう」
    「ですが」
     クリスは、悔しそうに顔を歪めた。
    「何が王なのでしょうか。こんなにも力不足で。本当だったらもっと氷を溶かして、住む場所を広げていくのが水の力を持つ王のつとめでしょうに、私は……」
     打ちひしがれているクリスは、アメヒコの手に自分のそれを重ねた。
    「……アメヒコ。中つ国には、まだ水の力を持つ子は生まれていないのでしょうか」
     縋るようなクリスの目に、アメヒコは耐えきれず目を逸らした。
    「……見つかったら、必ず報告する」
    「……はい」
     クリスは、悲しそうに目を閉じた。
     それからクリスは何も喋らずに、アメヒコの手による浄化を受け入れていた。

    「掃除完了だ。……どうだ?少しは楽になったか?」
     クリスの胸から、黒い靄のようなものが蒸発しては消えていく。
    「ええ。もうすっかり。いつもありがとうございます、アメヒコ……っと」
     軽く礼をしようと頭を傾けた瞬間、クリスはぐらりと体勢を崩した。そばにいたアメヒコがそっと受け止めたので、怪我はなかった。
    「寝ながらやれば良かったな。今ベッドに運ぶから、楽にしててくれ」
    「何から何まで……」
    「気にしなさんな」
     そう言うと、アメヒコはクリスの膝を抱えるように腕を差し込み、背中をおさえてその長躯を抱き上げた。ソファから数歩ほどあるいたところにあるベッドに下ろし、冠を外して髪を整えてやる。クリスは、気持ちよさそうに髪を撫でるアメヒコの手を受け入れている。
    「アメヒコ……」
    「なんだい?」
    「……いえ、……なんでも……」
     そう言い終わらないうちに、クリスは眠りに落ちていた。
     アメヒコは、深い寝息を吐くクリスの髪を、しばらく撫で続けていた。
     
     *****
     
     ぽこ、ぽこ。 こぽこぽこぽ。
     泡の踊る音が聞こえる。
     
     深い深い青い色。
     上から差し込む光に当たって、小さな泡がきらきらと輝いている。
     
     重力から自由になって、どこまでも行けるような気がした。
     空気を蹴るように足を動かし、前へ前へ、下へ下へ。
     
     あれは魚。体をきらきらと輝かせ、群れをなして泳ぐ沢山の魚。
     あれはイルカ。あれはカメ。クジラ。シャチ。マンタ。
     大きな体の生き物たちが、光を浴びて舞い踊る。
     
     美しい。
     なんと素晴らしい。
     
     つられて踊り出すように、足をもっと大きく蹴り上げた。
     すると、すいすいと進んでいき、さらに深く、もっと深く、底の底までたどり着いた。
     もう光も届かない。
     それでも、すこしも怖くはなかった。
     私の居場所はここなんだ、ほっと安心して、口からこぽりと息が漏れた。ごぼ、とひときわ大きな泡が、ひとつ、ふたつ、遙か上へと上がっていく。
     まるで体の中の空気が全て泡になって出て行ってしまったようで、泡の音だけが耳に響いていた。
     
     *****
     
     目を開けると、見慣れた天蓋が視界に飛び込んできた。
     寝心地の良いベッド。清潔なシーツ。
     王のために誂えられた完璧な部屋。
     窓の外に目をやると、すでに陽は沈んでいるようだった。
    「起きたかい」
     突然の声に驚いて、首を大きく回した。ベッドの傍らで椅子に腰掛ける、アメヒコの姿があった。
    「ア……」
     アメヒコ、と呼ぼうとして失敗した。どうやら喉が渇いていたらしい。アメヒコは苦笑するとサイドデスクに乗せていたポットから水を注いでクリスに手渡した。クリスは一度起き上がり、その水をこくりこくりとゆっくり飲み干した。
    「ありがとうございます、アメヒコ。……ずっとついていてくださったのですか」
    「いや、仕事が残っていたもんで、少しだけ席を外していた。だがもう終わったから、今日はずっと一緒にいられるぜ」
     アメヒコはそう言うと、クリスの頭を再度撫でた。
    「アメヒコの手は、気持ちが良いです」
    「そうかい、これも、浄化の力のおかげかな」
    「さあ、どうでしょう」
     くすくすと笑いながら、クリスはベッドに再び横になり、アメヒコから遠ざかるように身を捩った。
    「良ければこちらへ」
     ぽんぽん、とベッドを手で打つ。隣へおいで、という合図である。アメヒコは一瞬迷ったようだったが、「喜んで」とベッドへ乗り上がった。
     クリスは嬉しそうにふわりと笑った。
    「随分と機嫌が良いな」
    「ええ。良い夢が見られましたので」
    「夢か……どんな夢だったか、聞いても?」
    「ええ、もちろん。……これは、海という、水の中の世界のお話なのですが……」
     クリスはいつもよりも浮き足だった声で、夢で見たものを語り始めた。
     それは、とても広く深い、水の中の世界で、非常に多くの生き物が生きている、楽園のようなものなのだという。
     どんなに冷たくても凍りつくことはなく、命が連綿と受け継がれていく。数えきれないほどの生き物が、自由に、力強く生きている。
     クリスは度々、その夢を見ていた。
    「海、か。聞いたことはあるぜ。大昔の本に書いてあった。大陸の外には、広い水だけの世界が広がってるって。……そいつのことかい?」
    「ええ。本日はその海の、深い深い底まで行く夢を見たのです」
     クリスはその夢を思い出すと、愛おしそうに、空想の中の魚たちを手で撫でた。
    「私の居場所はそこなのだと、いつも思います」
    「行ったこともないのにか?」
    「行ったこともないのに、です」
     クリスは困ったように笑った。
     この氷に閉ざされた世界に、海などというものは存在しない。御伽噺の中の話だ。
     それでも、クリスは時折、ひどく幸せそうに海の話をする。
     水の力を持つ王としての責務に耐えきれずに逃避しているのかもしれない。だがそれでも構わないとアメヒコは思っていた。
    (少しでも笑えるならば。心が楽になるならば)
     穏やかな表情で夢に見た海について語るクリスの横顔を、アメヒコは穏やかな顔で見つめていた。
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