Have a good one!源一郎お誕生日SS
八月二十七日金曜日、横浜の朝は今日も蒸し暑い。
「ちょっとコンミス、朝からそんな辛気臭い溜息吐くのやめてくれない?!」
浜辺に打ち上げられたくらげのように萎れて、盛大なため息と共に食堂の机に突っ伏す朝日奈の姿に、凜は露骨に眉間に皺を寄せた。
「コンミスちゃんどうしたの~、悩み事でもあるんさ~?」
「はあ……どうせ明日、鷲上の誕生日にあげるプレゼントが決まらないとか、そう言う事でしょう」
「う゛ッッ!」
「三上さん の 口撃 こうか は ばつぐんだ」
「流星、なにポケモンみたいに実況してんの」
「鷲上さんなら、先輩がプレゼントすれば何でも喜んでくれそうですけどね……ちなみに俺も、先輩からのプレゼントなら何でも大歓迎ですよ」
「本当、お前は隙あらば自分をねじ込んでくるんだな、成宮」
「でも分かる、プレゼントってさあ俺の為に選んでくれたって気持ちが嬉しいじゃん」
「ま、まあ俺は誕生日プレゼントなんて無くても良いが、まあそうだな、貰えれば嬉しいものだ」
「……いや、俺は不要なものを贈られても迷惑だな」
「う゛ぅッッ!!」
「はいはい、今のは唯ちゃんにクリティカルヒットしたみたいだから、笹塚はちょと黙ろうね」
「はは、そんなに悩む位なら本人に聞いてみるのが手っ取り早いとは思うがね」
「つーか鷲上だったら、あんたがくれるもの何でも尻尾振って喜びそうだけどな」
「でも羨ましいわあ、こんなに朝日奈さんに悩んでもらえるなんて……ちょっと妬けちゃうわね」
あれやこれやと、朝日奈が囃し立てられているところに、朝練を終えた渦中の人物が現れた。
「おはよう……どうしたんだコンミス、そんな浮かない顔をして」
「わ、源一郎君ッ!」
その姿を見て、朝日奈は飛び上がらんばかりに突っ伏していた顔を上げる。
「悩み事か、俺で良ければ話を聞くが?」
「むしろあんたの事で悩んでるみたいだけどな」
「俺の事……ですか?」
「ちょっと笹塚さん、余計な事言っちゃ駄目ですって」
「う、ううん、なんでもない!何でもないんだよ源一郎君!」
三上に口を塞がれている笹塚を朝日奈は背中に隠しながら、朝日奈は慌てて捲し立てた。
「そ、そうか……なら良いんだが」
「うん、そうなの、だから気にしないでね!また練習でね!じゃあね!!」
そう言って朝日奈は逃げるように食堂から飛び出して、
残された源一郎は、所在なさげに立ち尽くす他なかった。
「全然何もなくないだろう、あの態度は」
「もういっそ、コンミスがプレゼント~とかで良いんじゃね?」
「それならコンミスちゃんに綺麗なリボン巻いてあげんとね~」
「南が思っている様なものじゃないとは思うが、まあそう言う事だな」
「あんた達、朝っぱらからそう言う話やめてくれない?」
そんなこんなで、源一郎の誕生日前日は過ぎて行ったのだった。
翌日、スタオケメンバーによるサプライズバースデーパーティーは大成功の内に幕を閉じた。
たすきをかけられ、クラッカーの洗礼を浴び、顔ほどもあるケーキに、チキンロースト
そんな絵に描いたような祝われ方をして、少し照れ臭いながらも源一郎は嬉しそうだった。
「全く……すごい騒ぎだな、まあメンバーの誕生日を祝うのもオケの結束を深めるいい機会ではあるが」
「おいおい、パーティーの主役が片付けなんて野暮な事すんじゃねえぞ」
銀河と篠森も加わったパーティーは宴もたけなわとなり、源一郎と朝日奈はさっさと食堂を追い出されてしまった。
「その、朝日奈……少し庭でも歩かないか」
源一郎の申し出に、朝日奈は頷いた。
夜の中庭は、静かで頬を撫でる風が少し先の秋を思わせる。
「源一郎君が来てから、花壇の花が増えたよね」
「ああ、御門のお屋敷の様にはいかないが、やはり花がたくさんあるのは良いものだ」
そう言って朝日奈を見つめる源一郎の表情はいつにも増して穏やかだった。
「誕生日パーティー、楽しかった?」
「ああ、実家でも御門のお屋敷でも誕生日を祝ってもらっていたが、こんなにも賑やかなのは初めてだ、その……とても嬉しかったよ」
「ふふ、良かった、それでね源一郎君!」
朝日奈は勢いに任せて、隠していた包みを源一郎に押し付ける。
「これは……開けても良いだろうか?」
こくこくと首を縦に振る朝日奈を見て、源一郎は可愛らしい包装紙を丁寧に開封する。
中に入っていたのは、藍染めの手ぬぐいだった。
「源一郎君に何をあげたら喜んでくれるかなって、考えて……素振りの時とかに手ぬぐいを使ってたから、これだったら使ってもらえるかなって」
「ああ……嬉しいよ、ありがとう」
その手ぬぐいの柄に源一郎は見覚えがあった。
何度か、浮葉の使いで訪れた京都の染物屋のものだ。
「良かった~」
「君だと思って、肌身離さず大切に使わせてもらうよ」
安堵の溜息を洩らした朝日奈の前に、源一郎はおもむろに跪いた。
「その……もう一つ、誕生日に欲しいものがあるのだが、良いだろうか」
「うん、もちろんだよ!」
朝日奈の言葉に、源一郎はほっとしたように微笑むと朝日奈の手を取った。
「その、君が良ければ、これからも君の隣を俺にくれないか」
朝日奈は自分の手を源一郎の手に重ねた。
「そんなの、言われなくても源一郎君のものだよ」
「ッ、ありがとう」
その言葉に源一郎は思わず朝日奈の体を強く抱きしめる。
「ちょっと源一郎くんッ…苦しいッ」
「あ、ああ……すまない」
慌てて源一郎が力を緩めると、思わず二人は見つめ合いそして同時に吹き出した。
「源一郎君」
「どうした?」
「ハッピーバースデー!」
そう言って朝日奈は背伸びをすると、源一郎の頬に触れるだけのキスを落とした。
─了─