Tennessee Waltz鷲上源一郎×朝日奈唯
昼間は制服だけで過ごせる陽気だが、10月ともなれば北海道の夜風はそれなりに冷たい。
「うう、今度来るときは源一郎君のアドバイス通り帽子を持って来ないとだね」
そう言いながら唯は少し大げさに両手で肩をさすりながら源一郎を見上げた。
「俺がきちんと、横浜に居る時に伝えておくべきだった……すまない」
「源一郎君のせいじゃないよ、今だって源一郎君が風上に立ってくれてるおかげで寒さをしのげてるし」
「ああ、俺は生まれが青森だし京都も冬が厳しかったからな、寒さには慣れている
君の風よけになっているのなら良かった」
そう言いながら風上に立ってくれる彼のおかげで、幾分寒さがましとは言えども、
やはり冬の制服一枚では防寒と言うには心許ない。
「──クシュンッ」
「ッ、大丈夫か朝日奈?」
唯が小さくくしゃみをすると、源一郎は自分の両手で唯の耳を覆った。
「源一郎君?!」
「耳を温めるだけでも、幾分か寒さが和らぐ」
源一郎の体温が、包まれた耳たぶ越しに伝わると唯の心臓は一気に早鐘を打ちだす。
「あの、大丈夫だからこれくらい!」
「いやしかし、こんなに赤くなってしまっている……」
まじまじと耳たぶから首の辺りを覗き込まれる。
普段意識していない場所に注がれる視線に耐えきれず、思わず唯は源一郎の体を押し返した。
「本当に、大丈夫だから!ね、源一郎君!」
「いやしかし……」
そんなやり取りをホテルのエントランスで繰り広げる二人を、ラウンジのソファに座った凛は生ぬるい目で見つめていた。
「ほんっと、あれで付き合ってないって信じらんない!」
「……羨ましいの凛?」
「まあちょっとは……って、そんな訳ないでしょ流星!」
「僕は……羨ましい、かな」
「おやおや、熾烈な先輩争奪戦、こんなところにもライバル登場かな」
「は~、もう何でもいいけど痴情のもつれをオケに持ち込まないでよね」
流星と成宮をジトっと睨めつけると、凜は盛大なため息を吐いて見せた。
─了─