現パロ無鉄(彫刻家×貧乏美大生)その3 土曜日。講義もなく、予定もなく、外は快晴。正に洗濯日和だった。それで朝から洗濯機を回して広めのベランダに干していれば、昼過ぎにはもう乾いていた。たまにはと洗ったシーツやらデカブツを先に取り込んでいき、細々した衣類は一旦カゴへまとめる。
洗濯物を全て回収し室内へ戻った俺は、カゴの中身を三人がけのソファーへぶちまけた。ここから細分化して収納していくのだ。ソファーの前に胡座をかき、仕分け作業を開始する。
これは俺の靴下、こっちは無頼漢の。デカい。これは俺のシャツ、こっちは無頼漢の。デカい。これは俺のパンツ、こっちは無頼漢の。デカい上に派手。
いや、派手過ぎる。彼のパンツは数種類目にしているが、どれもやれ黒地に謎の炎っぽい模様だとか、真っ赤な生地に金のラインが入っているだとか、派手の定番である豹柄だとか、洗濯物の山に埋もれていてもひと目で発見してしまうくらいには主張が激しいのだ。勝負下着かと思う程の力強さ。そうなると毎日勝負していることになるが、ちょっとそれはそれでかっこいい精神だななどと思ってしまう。いや、誰との勝負なんだ。
出来心で俺のと並べてみる。圧倒的サイズ差。そも俺がトランクスで向こうはボクサーだから布面積は俺の方が多いはずなのに、むしろ無頼漢側の方が布量が多いまである。
「…………」
俺は一体何をやっているんだ。急に我に返る。馬鹿なことなどせず仕分けを続けねば。そう思い並べていた無頼漢のパンツを手に取った時である。
「なぁにやってンだあ?」
「うわっ!!!!!」
音もなく無頼漢が真後ろに忍び寄っていた。いつの間に。今日は朝からアトリエに篭っていたはずだが、作業着用にしているジーンズと白シャツが少し汚れているので、休憩がてらリビングに出てきたのだろうか。俺は咄嗟に握りしめていたド派手な布を誤魔化そうとしたが、こんな戦闘力の高い猛者を隠し通せるはずもない。無頼漢からいつもの笑い声が響くのはすぐだった。
「ガハハ! なんでぇ、お前さんむっつりだなあ」
「……ッ!? 違う! なぜそうなる! 俺はただ……!」
「俺はただ?」
「…………規格外にデカいなと……あと、派手過ぎる……何と戦っているんだ……」
しょうもない一幕を見られた羞恥で顔を逸らす。からかうのはこれくらいにしてくれと内心願っていたが、背後の気配は確実に近づいてきていた。
にゅっと視界に太腕が過ぎる。思わず目で追えば、彼の手には真っ赤なボクサーが一枚。そしてドカッという音と共に、無頼漢は俺の後ろへ開脚して座り込んだのだ。逞しい脚が俺の胡坐を囲うように伸びている。
「お前、トランクス派だったよな?」
「うん……? ああ、そうだが」
「ボクサー派に鞍替えしねえか? 動きやすくていいぜ! 筋トレにも打ってつけだ。穿いたことあるか?」
「いや……無いが……」
「じゃあサイズ測んねえとなあ」
何を、と抗議をする間もなかった。
「あ、え」
気が付けば無頼漢の両腕が後ろから回ってきて。
「ちょ、」
大きな左手が俺のシャツに潜り込み、腰を掴んで。
「ん~……まだまだ細っせえなあお前」
ド派手な戦闘服を俺の股間に乗せて来たのだ。何だこれ、なに、訳が分からない位に恥ずかしい。着衣の上から下着を重ねられるのもそうだし、体格の違いが浮き彫りになるのもそうだし、何より……腰に触れている手がごつごつしていて、熱い。冷え性の俺にとっては火傷してしまいそうなほどの熱。
「SかMか……腰は細いが下腹部は肉付きいいし、Mか?」
「え、えむ」
「やっぱMだよなあ……どうした? 妙に固まっちまって。体つったか?」
「か……かもな……少し休憩したら残りも畳んでおくから……」
「いや、いつも鉄にやらせてばっかなのもな。仕分けだけでもしていくぜ。気分転換にもなるからな!」
そう言って無頼漢は俺を後ろから包み込む体勢のまま作業を始める。おい、嘘だろ。何だこの同棲したての甘カップルみたいなイベントは。逃げ出そうにも体がつったなどと適当に返事をしてしまったためそれも叶わない。
冬の清けき昼下がり。暖房をきかせた室内は、じっとりと汗をかく位には暑いのだった。