孤独─────ョー、─ンジョー!!
遠く懐かしい声が聞こえる。柔らかく、暖かい。もう二度と耳に届くはずのない声が俺を呼ぶ。そんな錯覚をしてしまうほど、俺は君のことを大切にしていたんだね。
腰まで浸かった海水は酷く冷たく、まるで無数のガラスが突き刺さっているかのような感覚を覚える。だけどそれも、慣れてしまえば痛くはない。真冬の海は他者からの悪意にとても似ていた。この冷たさに、酷さに、痛さに。慣れてしまえば感覚なんてなくなる。だからほら、足先はもう浮いているのかきちんと砂を踏めているのかさえ分からない。波が俺だけを攫ってくれないのも、本当にそっくりだ。
「はは…何やってんだろ。俺。」
とぷん、と音を立て潜る。北から吹く海風に当てられた上半身。それでも水中よりは温かかったらしく、空気を拒否した瞬間に凍てつく寒さが全身を包んだ。まぁ、いずれこれにも慣れるだろう。
慣れるのが先か、息が続かなくなるのが先か。
陸に生まれた生物として、自分の肺は水面を目指せと叫んでいる。空気を、酸素を寄越せと。次第にそれは肺だけではなく心臓、脳みそ、手足までが求めるものとなる。
そこでようやく、俺は生きていたいんだ。少なくとも今のこの、俺の体は。と理解する。
ざぱんと大きな音と共に水面へと体を起こした。必死に酸素を求める荒々しい呼吸の音をどこか他人事のように聞きながら、砂浜へと向かって歩を進める。
「今日も俺は生きたいらしい。ごめんね、コーサカ。」
当たり前だろ、なんて声が聞こえてくる…気がする。濡れた衣服は風の冷たさをしっかりと受けとめ離さない。
風邪をこじらせたら其方へ行けるのだろうか。そんな馬鹿な方法だったら、君は怒るだろうか。
「なぁ、俺はいつまで1人なんだ。」
嫌になるほど眩しく照らす月を睨みつけ、今日も俺はあの大きな家に独り帰るのだった。