おきなわ食事を終えてひと心地。食後酒の余韻の中、片付けを済まそうと立ち上がるのを見計らったかのように呼び鈴が鳴った。
「…どうしたんですか?」
アイマスクで顔が半分隠れているとはいえ、無表情な五条が黙って立っていた。
「僕、これから出張なの」
「はぁ」
「沖縄」
沖縄と聞いて胸の奥底が少しだけざわつく。遠いあの日、ガラス越しに見た深い青空と真っ白な綿のような雲。あれ以来、縁もなく行く機会も意欲もなかった。
…だったらなんだと言うんだ。そんな感傷はもう。
「そうですか。行ってら——」
「行こう」
「は?」
「沖縄」
嫌だとすぐに断ろうとして、依然表情のない五条が気にかかる。五条が何を考えているかなど分かった試しがないが、もしかしたら、もしかすると、同種の感傷を抱いているのかもしれない。
お互いあの空の下で一緒に過ごした人はもう誰もいない。
「私、明日休みなんです」
「知ってる。航空券も宿も手配済み」
「初めから拒否権ないんですね」
見えている口元は来た時と何ら変わらないのに、その眼はアイマスクで見えないというのに、何となく五条が泣きそうに見えて、ため息と共に部屋に促す。
「せめて片付けをさせて下さい。食器を洗うところだったんです」
「…うん」
大人しく七海に続く五条は呼吸を思い出したかのように息を吐いた。