ハッピー?ハロウィン「Trick or treat!!」
「………ミイラ男…?」
「アタリ〜!」
「それ殆ど少し前のアナタですよね」
七海の指摘は最もで、五条が扮するミイラ男は包帯が少ない。手や腕に申し訳程度に巻き付け、少し前のスタイルを思わせるように目元を隠し、頭部にそれっぽく巻いただけの姿だった。
「細かいこと言わないでよ。そんなことよりお菓子ちょーだい?」
トリートトリートとご機嫌に差し出された五条の両手の平を見つめ、顔を見つめ、当然の疑問が湧き上がる。
「なんで教職のアナタがもらう側なんですか」
「生徒にはあげたよ?僕がもらうのは大人からだけ」
それこそ当然、とでも言いたげな五条を見ていると自然と溜息が溢れる。
「アナタに渡すお菓子はありませんよ」
「えっ!今日高専来といて?お菓子持ってないの?!何しに来たの??」
「仕事にです」
至極当然の回答にえーでもさーと不服な声を上げる五条の後ろから楽しげな声が聞こえてくる。
「あ!ナナミン!」
「七海さん!Trick or treat!」
「こんにちは」
学生服のまま頭にツノや背中に蝙蝠羽の生えた生徒たちが口々に七海へ挨拶をする。
「五条先生はナナミンから何かもらった?」
「いんや、くれないからイタズラしようと思ってる」
「そもそもアラサーが年下にたかる図がやべぇ」
「七海さん、この人猪野さんからもらってたんで叱っておいて下さい」
「ちょ、恵」
「五条さん…」
「だって琢真がくれるって!」
「説教はあとでします。君たちにはこれを」
提げていた紙袋からオレンジ色のラッピングがされた小箱を渡す。
「しゃけ」
「ありがとうございまーす!」
「ちょーっとイタズラしてみたかったな」
「それなー」
またそれぞれに礼と別れの挨拶を口にして生徒たちは次の所へ向かうようだ。嵐のような集団を見送っていると五条が勢いよく七海を振り返る。
「お菓子持ってるじゃん!」
「学生用です。それよりアナタは猪野くんからも巻き上げるなんて恥ずかしくないんですか?」
「僕だって流石に遠慮しようと思ったけどばら撒きだからってくれたんだよ」
七海が空になった紙袋を畳むと、本当に自分には何もないと悟った五条が肩を落とす。
「お菓子はありません」
「わかったよ」
「イタズラ、しないんですか?」
「え…なになになにそーゆーこと?しちゃうよ?なんならもらってもする気だったけど」
「もらった時はしないで下さい」
「ねぇ…どこまでシていいの?」
「……イタズラの範疇なら」
にんまりと笑う五条に後悔したのも束の間。
頬に柔らかい感触と近付いて分かる五条のにおい。
「続きはまた後でね」
離れる間際に耳元で熱っぽく囁かれ、俄に体温が上がる。
珍しく可愛い事をしてくれる。
仕掛けたつもりが返り討ちにあった気分だ。
ご機嫌に去っていく五条の背を見送り、そっと息を吐いた。