いちごジャムの話「そういえばさ」
朝食のパンにイチゴのジャムをたっぷりとのせながらアムロは突然話し始めた。
「俺いちごジャムがすごく好きでさ」
知っているよ。
「子どもの頃はいちごジャムを瓶からそのままスプーンで掬って食べるのが好きで」
……それは、いけないな。
「父さんに見つかってすごく怒られた事があったんだ」
そうだろうな。
「勿論それからは隠れて食べるようになった訳だけど、いちごジャムは何故かいつも沢山ストックがあってさ」
ふむ。
「まぁ父さんが買ってきているんだけど」
そうだろうな。
「この間同じやつをスーパーで見つけたんだ」
ほう。
「それがこれなんだけど」
君にしては珍しく美味しいものを選んだものだと感心していたところだ。
「いっちばん高いやつだったから驚いたよ。家にはこれが十も二十もあったもんだからさ、こんなに高いなんて知らなかった」
なるほど。いいお父様じゃないか。
「いやでも殆ど家に居なかったんだぜ。でも、まぁ一応色々考えてくれてたのかもって」
アムロは横を向き窓の方を見ながら少し寂しげにそう話した。
私はジャムの金色の蓋を開け、スプーンの先で中身をほんの少し掬い彼の口元に寄せた。彼は少し驚いたものの、素直に口を開けジャムをスプーンごと口に含んだ。
それから、ふふっと笑ってから、「そう、この味」と嬉しそうに呟いた。
お味はいかがかな?と聞けば、そのまま食べるなんてあり得ないな、甘すぎる。と返ってきた。
たくさんのジャムに囲まれた幼い彼のことを思い、もう二度と寂しい思いなんてしなくて良いのだと、そんな気持ちを込めてキスをした。
勿論いちごジャムの味が私の口にも広がった。