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    桧(ひのき)

    @madaki0307

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    桧(ひのき)

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    未来軸の堅気同士なイヌ武

    花垣武道誕生日記念本 web公開 イヌ武分
    乾青宗(十代目特攻隊長)07~09時の間の出来事。

    #イヌ武
    inuwake
    ##花垣武道BD記念

    何度朝を迎えても その特定の日においてのみ、乾青宗の朝は早い。
     二つ折り携帯から最近変わったばかりのスマートフォンを枕元からそっと持ち出して。微睡む同居人を起こさぬようにそろりとベッドを抜け出した。

     一年の内に数回有るかどうかという早起き。
     学生時代から幼馴染の九井によって世話を焼かれることが当然のように身に沁みついた彼である。乾は謂わば『傅かれ気質』――養育されるという意味での『傅く』だ――と言えた。そんな九井と道を別ってからも、面倒を見られる側である状態は続いたのである。

     面倒見の頗る良い龍宮寺堅と、バイク屋を経営することになったからだ。龍宮寺とは、あの佐野万次郎の面倒を当然のように見て、制御してみせた男。彼にとっての乾は、言い方は正しくないだろうが「手のかからない人」であったのだろう。
     その上、元来の気質故か。それとも乾が弟であったことも関係しているのか。彼は端的に言えば甘え上手であった。

     そんな性質に環境要因も相俟った乾。花垣と交際し、同棲を開始させた今も世話を焼かれることの方が多かった。
     勿論全てを花垣にまかせっきりにしている訳ではない。黒龍十一代目総長の部下となった乾。恋人となってからは余計に二歳年下の花垣を庇護しようとする自覚が出て来たらしい。お互いに家事を分担し、共同生活を成り立たせている。朝は弱いが、食事を用意したり洗濯をしたり。自身とパートナーの身の回りの世話を行うようにもなっているので、これを偉大な成長と言わずして何と言うのか。九井が知ったら嬉し涙を流すことだろう。
     現に、二人でわたわたと生活をしている様子を受けて九井は感極まって号泣し、同僚の一部をドン引かせている。


     低血圧気味で朝に弱い筈の乾が、休日でありながら花垣よりも先に起床した理由は偏に花垣が関係していた。
     持ち出した携帯をダイニングテーブルに置く。誤解が無いように釈明するが、何も恋人の携帯を見ようという訳ではない。いくら恋人だとは雖も、彼もプライバシーは心得て尊重している。たとえスマートフォンの暗証番号がお互いの誕生日で、いとも容易くロックが解除できようとも。そして、メッセージアプリの受信内容がロック画面に表示されているとしても……。
     では何故スマートフォンを持ち出したかと言うと、花垣の誕生日を一番に祝うのは己でなければ我慢ならないからだ。交流が広い花垣であるので日付が変わってすぐにお祝いのメッセージが沢山寄せられているのだろうが、本人が画面を見なければカウントされないと乾は見做している。
     「おめでとう」と直接、そして一番に言うのは己でなければならない。それこそが恋人であり、且つ同棲している乾の特権であるのだから。
     前夜も、誕生日を祝う連絡を彼が取れないようにその手を絡め取ると、シーツへと身体を縫い付けて閉じ込めた。通知の喧しいスマートフォンも気にならない程に熱い夜を過ごしては、互いの情欲を貪り合ったのだから。


     六月下旬ともなれば梅雨に差し掛かり、気分も憂鬱に。そして湿気によって不快な日は続く。だがこの雨続きの季節を乾は然程嫌いではない。寧ろ、愛おしさすら感じるようになった。雨天であるが為、家で過ごす時間が増えるこの期間。愛おしい人と二人きりの世界だけになったようで。ざぁと降る雨の音は、外界のありとあらゆる喧噪を覆い隠し、遮断する。雨であっても恋人の瞳には何時でも蒼穹が広がっているのだから、気分が落ちる筈もないのだ。


     起き抜けに花垣が携帯を見て、誰かからの祝福の文言を受け取ってしまわぬように避難させた乾。冷蔵庫にしまってある麦茶のボトルを取り出すと、グラスに勢いよく注ぎ入れて、呷る。喉を潤した。
     そのまま脱衣所で服を洗濯機に放り込む。シーツも洗わねばならないが、それは花垣が起きてからで良いだろう。どうせ、外の長雨で洗濯物は外に干せないのだ。乾燥機の世話になることにしよう。

     日本人離れした端正な顔立ちは雄としての荒々しさと、恋人をして甘え上手と評価された可愛らしい独占欲が綯い交ぜに。その興奮冷めやらぬ衝動を全てシャワーで流し去る。金糸は湯をかぶったことで濡れて、ぽたりと雫が滴り落ちた。シャワーノズルを捻って水流を止める。
     ゆるりと睫毛が震え、開かれたエメラルドの瞳。そこに情欲は滲んでおらず。朝に似合いの清廉さが戻っていた。



     パンをトースターに突っ込んで。ベーコンをカリカリに焼いて、そのスモーキーな油を纏わせるようにフライパンへと卵を落とす。少しミルクの多いカフェオレを用意して。隠すように仕舞い込んでおいたプレゼントを取り出しておくのも忘れない。
     時刻はもう間もなく八時半になろうかという所。
     フローリングをぺたりぺたりと踏み鳴らす音。情事の気配を色濃く残したままの花垣は眠い目を擦りながら。少しばかりふらついて乾の下までやって来る。
     寝巻の上だけ着たまま、生白い足をすらりと伸ばし、眠たそうにとろりと瞳を蕩かしている。

    「誕生日おめでとう、花垣」

     腰を抱いて、ふわりと穏やかに花垣へ微笑みかけた。乾の、その何と幸せそうな表情であることか。そして旋毛に唇を落とすのだ。
     表情から感情が掴み辛いと言われることが多い乾であるがそれは嘘だ。花垣に向けられる視線は情熱的で。黒龍を初代の頃のような形に立て直したかったという事もそうだが、熱い想いをその心に秘めている。無表情だとか、感情が希薄だとか。彼の可愛らしいところも綻ぶ顔も愛し方も、知っているのは己だけでいい。
     彼の肩口に花垣は耳を赤くさせて額を預けた。恋人の微笑みの破壊力に胸を高鳴らせてしまう。朝の挨拶を掠れた声で。
    「ありがとうございます、イヌピー君」
     祝福への礼を述べて、少し温いマグカップを受け取る。熱すぎないカフェオレが喉を優しく労わった。
     その光景は何処からどう見ても恋人同士の朝の睦み合いである。誕生日であると雖も大それたことはしなくていいと花垣は交際してそう経たない内に頼んでいたのだ。ただ傍に居てくれれば十分だからと述べて。それから毎年、このように乾は朝早く起きて一番に花垣を迎えるのだ。他愛ない幸せを花垣にくれる。
     〝普通〟〝ありふれた〟という日常が、実はどれ程掛け替えがなく得難い幸福であるか。花垣はよく知っている。火事で家庭環境や幼馴染の様子が一変した乾も同様によく理解している。だから二人はその静穏を噛み締めるのだ。

    「イヌピー君、お腹空きました」
     胃が空腹で小気味よい音を響かせる。支えられている状況に託けて乾の背中へと己の腕を回して身体を寄せた。






     甘え上手になったな、と乾は花垣を横目で見下ろす。

     実は乾とは反対に、花垣の内面はかなり早い段階で自立していた。独りで生きることを達観している人間で。それを当初、乾は花垣が一人っ子であるが故だと思って気にも留めていなかった。だがそうではないのだと知ったのは、龍宮寺とバイク屋を経営し始めてからだ。
     龍宮寺は多くを語らなかったが、花垣の雰囲気が関東事変以前と以降で変わった理由を知っているようで。相棒である松野も同様であった。それを知らされていないのは乾ばかりか、と悔しく思った事は一度や二度ではない。
     花垣は最終的に己を頼るのだが、それは周囲からの助言があるからだ。意外と一人で完結させてしまう性格である。特にこの恋人は学生の頃、何処か遠くへ行ってしまいそうな雰囲気を纏っていた。それは死の匂いでは無く、煙に似ていて。いつか空の彼方に消えて、その姿を喪失させてしまうかのような危うさ。

     放っておけなかったのだ。
     彼に頼られたい、帰る場所になりたい。どうしたら、全幅の信頼を寄せてくれるだろうか。目で追って心を砕いていたら、いつの間にか乾は花垣を愛していた。
     二人の間に劇的なものはない。気が付いたら愛がそこに在っただけのこと。交際している今の方が、ずっと熱烈で直接的かもしれない。
     花垣にゆっくりと。甘えるという術を教え、馴染ませた。我ながら上出来だと乾は内心で鼻高々である。

    「朝食にしよう」
     乾青宗の心は全て、花垣武道に与えられる。これまでも、そしてこれからも変わらず。
     何度誕生日の朝を共に迎えても、変わることのない風景は続くだろう。ゆったりと穏やかな世界で愛を交わすのだ。





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    桧(ひのき)

    DONE五十路真一郎×四十路武道……と言いつつあまり年齢操作感の無い真武

    花垣武道誕生日記念本 web公開 真武分。
    佐野真一郎(初代総長)23~24時の出来事。

    ※本の中では4839字だったんですが、ポイピクでは5千字超えてしまっています。
    愛の特権 散々な一日だった。
     近年稀に見る程に、疲れた日であったとも言えよう。

     その地域のレンタルビデオ店のエリアマネージャーであるとは雖も、その日は久方振りの二日間連続での休暇であった。だが悲しい哉、脆くも崩れ去る。
     その店の社員は三人。本来、この日に出勤予定であった社員の家族が緊急入院したのである。良く言えば少数精鋭、悪く言えば人員が不足気味な職場である。故に急遽、花垣が休暇の予定を返上して勤務に入ることになったのだ。

     記念すべき四十歳になる日。世では『不惑』と定められる年齢になったが、物事に惑わされない精神を保つ事は難しく。感情に振り回されてしまうことも屡々。己の精神年齢は成長していないように思えて。ただ無意味に年齢だけを重ねているのではないかと、毎日思う。同棲して既に二十年を越した恋人からの十分大人になったよ、という言葉を胸に、今日も〝大人〟を演じるのだ。
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    DONE人魚の武道は夜の海で、真一郎に武臣に若狭へと会う。彼等は武道に恋をし毎日夜に会いに来て武道と話していたある日、武道は18になると陸で暮らすか海で暮らすか決めないと成らないと言い迷ってると言った。そんな武道には前世の記憶があり、前世から彼等を愛していた

    ※武に前世の記憶がある
    ※真にワカに臣には無い
    ※前世思い出す表現あり
    ※武愛され要素あり
    人魚になった君へ二度目の恋を愛してたそして今でも愛してる。生涯愛するだろう人達を、思い出と共に彼は胸の中に抱いていた。海を泳ぐ今日も忘れられるように。けれどもし希望があるなら。
    ───────彼等に会えるように
    今日も武道は海を泳ぎ希望を胸に抱く。
    武臣と若狭に真一郎は夜の海に走りに来て、他愛無い話しをしながら夜の海を眺めていた。浜辺に座り暫く海を眺めていると、波音を強大に立て海に何かが泳ぐ、魚の鰭だがそれにしては巨大で、また海に潜りを繰り返す。次の瞬間人間の形をした魚の尾を持つ者、人魚が海から顔を出した事に、三人は半立ちに成りながら驚いた。短髪の黒髪を持つ、青い青空のように、昼の澄んだ海のような色をした彼の魚の尾は、腰に透けた水色の布を巻き付かせ、青いパールを纏わせ、胸に白い布を首に潜らせ交差させている。そこには美しい人魚が背を反らせ海から出てきた。
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    DONE最近こちらに投稿してなかったなぁと思って。表向きビデオ屋裏でころしややってる記憶なしみっちとそんなみっちを愛しく思うまいきの話が読みたい…とついったでぼやいて悶々考えた末に出来た産物。まちるだ、せいへきゆがむよね…
    マチルダは微笑む「花垣く~ん?
    またDVDの中身が違うと苦情が来たんですが洋画のコーナーは君担当でしたよねぇ~?」
    答えなくてもわかっていると言わんばかりに年下の店長がねっとりした口調で責め立てる。
    愛想笑いしながらすみません、と頭を下げれば「はいまた口だけぇ~」とあてこすられる。
    謝る以外に道がないが、謝らなければ謝らないで「どうしたんですかぁ~その口は飾りですかぁ~考える脳みそないんですかぁ~」と嫌味が倍増すること請け合いである。
    なんでこんなところにいるんだろ。バイトならいくらでもあるのに。
    でもなぜだかここから離れられない。若い店長は使えない年上のバイトなんかさっさとクビにしたいみたいだが。
    いつも店に最後まで残るのは武道だ。DVDの中身のチェックを終えると一番最後に見るものがある。お気に入りの洋画。腕利きの殺し屋がアパートの隣人の少女を汚職警官から庇い、共に過ごしていくうちに絆が芽生えるストーリー。端的に言えばハッピーエンドではない。殺し屋なんて生業である以上、主人公は幸せになるべきではないんだろう。少女に金を遺し、自分は少女の家族の仇を道連れに死ぬ。
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