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    ぬけがら

    @nukegara31

    物書き。絵も描けるようになりたい。

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    ぬけがら

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    付き合ってない五と社畜七の始まりそうな春のお話。57FESTA2の展示作品でした。パスワードはずしました。

    #五七
    Gonana

    『ハルノヒ』「ひょっとして、死のうとしているとでも思っていますか」
     暦の上では春だとしても雨の夜は肌寒い。七海が帰宅して間もない室内は、人間が二人居るのに寒々としている。無造作にローテーブルに置かれたエアコンのリモコンが、ぴ、と音を立てる。微かなエアコンの稼働音に混じって、七海は無表情で外套を脱いだ。室外からは雨の音。冷えた部屋には空調の揺らぎ。その中にぽつりと七海の声が、混じる事なく放たれた。
    「え? ゴメンもっかい言って」
     五条は術式のおかげで濡れてもいない衣服を、それでも確かめるように撫でてからソファーに腰掛けた。テレビスクリーンの真正面に置かれたソファーの、向かって左側。右側には七海が座る。七海は五条の存在を無視しようとして、出来なかった。そんなことを試みる方が面倒くさいと学んでしまっているのかもしれない。呪術界から離れて何年も経つというのに。今のところ毎週金曜日の訪いが突然に始まり、そして三週連続で続いている。七海は問われた事に答えないまま珈琲の準備に向かった。聞こえなかったのならばそれはそれで構わないとでもいうように背を向ける。目元の隈は濃く、立ったままでも眠れそうな具合だ。
    「死ぬの?」
    「……気配を消さないでください」
     五条はソファーからキッチンの背後へ音もなく移動して声を掛けたが、七海の目が驚きに見開かれる事はない。喋り出しに一拍あったのみ。
    「で?」
    「死にませんよ」
     忌々しい、面倒臭い、が全面に出た声は自死への否定を口にするが、死にます、と言われても分からないくらいのひんやりとした声色だ。はやくシャワーでも浴びて休息したいのだが、それでも無意識なのか五条へとわざわざ淹れた珈琲はあたたかい。五条はそれを受け取るや否や、シュガーボックスから角砂糖を幾つもいれていく。勝手知ったるキッチンでの振る舞い。それもそのはず、珈琲、紅茶用の砂糖がこの家にないと知るや否や五条が自ら持ち込んだシュガーボックスなのだった。言外にお疲れでしょ、を込めてひとついる? と角砂糖を摘めば、無下には出来ない。いただきます、と珈琲カップを傾ける。ソファーに向かいながら、じゃあさ、なんで? と再び五条が問えば、また七海の額には面倒そうに皺が刻まれていく。
    「やけに拘りますね」
     まぁね〜と珈琲、とは言えなくもないギリギリの甘い液体を啜りながら五条は、はいコレ、と大振りの袋を七海に渡してくる。横文字の印字にフランスパンのイラスト。パン屋の袋だ。ありがとうございます、と受け取ってから、七海は目隠し越しの五条を訝しそうに見詰めた。毒なんか入ってないよ、僕が毒味でもする? と言えば、間髪入れずにそういうことではなく、と断りを入れる。五条の一人称の変化については、再会時に鸚鵡返しにするくらいには驚いた。僕、と。やわらかな物腰がすっかり板についていて七海は何故だか物悲しい気持ちになったのだった。最強であっても人は変わる努力が出来る。くらべて私はどうだろうか? と。七海はストライプのブラックスーツ。前回、久々の再会から二度目にして家に押し掛けられた時には前ボタンを開けてネクタイを外し首にだらりと掛けていた。今は外套を脱ぎこそすれスーツのボタンは留めたまま、ネクタイは結び目固く結ばれたままだ。七海は買ってきたパンには手を付けずに角砂糖がひとつだけ入った珈琲をひと口飲んだ。
    「……最強が、私に構っている暇あるんですか」
     最強が、とわざわざ指し示したのは何故だろう。不意の再会から三週間連続で顔を合わせている事により高専時代のあれこれを強く思い出しているのかも知れない。もっとも七海は一度も忘れられずに生きているような人間ではあるけれども。
    「あるよ」
     五条は五条で尖り過ぎていたあの頃よりは思慮分別を覚えたらしい。最強、ね、と刺々した声音に嫌味がのって返されると思ったけれども、五条はそうしないを選んだようだった。それはそれとして最強は事実なのだが。七海は息を全て吐き切るみたいな長い溜め息をついて濃い隈の目元を揉んだ。学生の頃ならば、平行線ですね、時間の無駄です、で会話が終わっただろう。会話を強制終了しないのは、何かしらの情があるからなのか、それとも、そうするだけの気力がないのか。覇気のない生き物は流され続けたらやがて滝壺、という水のなかであっても目を閉じて流されていく。果たして自分がそうなのだろうか。『ちゃんと寝れてんの? 元気?』卒業以来はじめて再会した雨の夜に、勢い軽口混じりに聞かれた。あの時、七海は何と答えたのだったか。あれから会うのは三度目。だが七海は不思議でならない。どうして貴方が、私なんかに構うのだろう? その気持ちがどうしても消えない。
    「動向を見張る義務があるにしたって貴方が出向く必要はないでしょう。暇があるなら休んでください」
     五条は、休めているのか気になった後輩に休んでください、と言われてどっちが、と口を尖らせそうにもなる。
    「僕がどうしようがお前に関係ないだろ」
    「そうですね……住む世界が違います」
     沈黙。雨の音。帳が降りたみたいに雫に遮断されていく世界。中々あたたまらない冷たい室内。五条は言い方を間違えたことにすぐ気が付いたけれど、今夜は詰みだ、と思った。
    「今日は帰るわ。珈琲ご馳走様」
    「ええ」
     沈黙に次ぐ沈黙。五条はテーブルに置いた珈琲カップを洗い場に持っていくか、いかないか、自分の分だけ洗うか洗わないか、逡巡を見せていた。ソファーから立ち上がる仕草ひとつさえ意識してしまったようにぎこちなく玄関へと向かう。結局カップは置いたままにして。七海はこんな態度の五条を今まで一度も見たことがなかった。玄関先まで七海は行かない。おやすみなさい、と声を掛けようか迷って結局なにも言わずにおいた。ひんやりしたマンションの廊下に雨と夜が染み込んできている。

       ◇

     五条が来なくなって二ヶ月くらいになるのか、と七海がぼんやりカレンダーに目をやったのは久方振りの休みの朝だった。柔らかなブロンドが中々にひどい寝癖を付けているのが手触りだけで分かる。くぁ、とあくびをしながら脱衣所へ向かい、顔を洗って、歯磨き粉を付けた歯ブラシを咥えたまま、ぼんやりと窓辺に移動する。服装は寝起きのままの白いスウェットだ。七海は証券会社へ勤めてからというものスーツのままソファーで寝落ちる事もままあったが最近では少なくなっている。帰宅してソファーに一度座ったら終わりだ、という事実にいつか気付いたのだった。終わり、というのはそのまま気付いたら朝で、何も食べずに出社、を意味する。体力はある方だから身体がしんどい、ということよりも、日々すり減っていく何か。それとスーツの皺がそれなりにストレスだった。七海がソファーで寝落ちて出社すると何故だかいつも社長に絡まれるのだった。出社時に鏡で確認するのだけれどもスーツの着方が僅かに違うのだろうか。身なりにうるさい社長のことだ。きっとそうなのだろう、と度を越した距離の近さを思い出しながら七海は、もう一人の度を越した距離感の人間を思い出していた。起き抜けの視界に朝日が眩しい。七海はマメに水遣りをしなくても割に丈夫な多肉植物の幾つか並ぶ窓辺に立って霧吹きを手に取る。前回の水遣りから何週間か経過している気がするがギリギリ大丈夫な範囲だろうと無心で水を吹き掛けた。果たして自分は死のうとしているように見えるのだろうか。例えそうだとしてもあのひとには関係がないだろうに。呪術界に取っても七海が生きるも死ぬも関係がないだろう。理解が出来ない。戻れとでも言うのだろうか。それこそあり得ないだろうと七海は思う。自分が戻ったところで、なんら足しにはならない。焼け石に水、という言葉が頭をよぎって、その水すらも足りないのは事実なのだろう、と思う。だが何故一度逃げた自分に拘るのか。それもいつもの気まぐれなのだろう、その証拠にもうなんのコンタクトもないのだ。七海は、五条からなんのコンタクトもないその事が安堵なのかストレスなのか分からないでいた。ストレスとは何なのか。中途半端に心を乱したからか。呪術高専を卒業してから一度も会う事なく声も聞いていなかったのに往来で突如出くわして何故だかそのまま牛丼屋に引き摺り込まれた。出くわした場所から三メートルくらいの場所にあったからだろうか。七海はその日、朝食昼食と食べはぐれていたのもあって特盛を食べた。後は眠るだけだというのに血糖値は爆上がりだ。胃袋もいい迷惑だっただろう。チェーン店の牛丼はうっかりすると涙が出るくらいには美味しく、付け合わせの白菜に七味を掛けて食べたのがまた美味しかった。七海が誰かと食事を共にしたのは年単位で久し振りのことで、その相手が五条であるという事実がまた可笑しかった。逃げた七海が逃げる選択肢のない世界に生きる五条と食事を共にしてわらっている事実が。牛丼屋の店内にいる五条、という絵面もだいぶ面白かった。牛脂の匂い、牛丼のつゆの匂いの中できらきらしている髪を見て七海は思わず白髪ネギ、と思って豚汁で咽せたのだった。そこまで思考してから、どうも朝から五条のことを考え過ぎているのでは、と七海は思う。
    「おひさ〜!」
    「!?」
     自分の術式は思い描いた人物を具現化するものではなかった筈、と現実逃避してしまうのも無理はなかった。マンションの高層階、窓辺の多肉植物、その向こうにやっほー! とご機嫌に浮かんでいるのは五条悟そのひとだったのだ。
    「悪いね」
     言いながら脱いだ靴を手に持ち窓から侵入する五条。悪いと思う素振りは1ミリも感じられない。五条は靴を玄関に置いて勝手に脱衣所へ向かい手を洗っている。手ぇ洗わせてね、ときちんと断りも入れられ、お帰りくださいの隙がない。結局不審者の侵入をまんまと許し七海は珈琲を淹れるべく湯を沸かすのだった。だが、五条が時間を割くべき相手ではない、という思い。訪れ始めていた平穏をまた乱されている苛立ちもある。七海はペーパードリップの準備を進めている自分の手にも苛立ち、あの、と五条に声を掛けた。だが五条の方でもあのさ〜、と同時に声を出していた。
    「お先にどうぞ」
    「いや、おまえから言いなよ」
     双方譲り合って数秒沈黙があった後、七海は長い溜め息の後、時間って有限なんですよ、さっさとしましょう。では私から手短に、と言った。
    「あー、うん。僕おまえのそういうところすきよ」
     何を言ってるんだ、という胡乱な目付きのまま七海はハァ、とどうでもよさそうに言ってから、どうして私に構うんですか。上への定期報告が必要なら私から報告をあげます、貴方アドレス変わっていませんね? と一気に捲し立てる。五条は口をむぎゅっとして黙り込んでいる。
    「で、あなたのおっしゃりたいことは」
    「あー……うん、報告とか、おまえの動向とかはぶっちゃけ関係ないんだよね。おまえが辞めた後ジジイどもに呼ばれてさぁ、傑みたいにならない保障はあるのかとか、ごっちゃごちゃうるさいからさ。その時は僕が責任持って殺すってキレたらあとなんも言ってこないよ」
     七海は長い溜め息が常駐化してしまったらしい。その溜め息の後、知らないところで勝手に私の命をどうこうしないで下さい、と苦味走った顔をする。当の五条はへらりとしているが。だが七海には納得がいく話ではない。ならばどうして呪術師を辞めた人間の元へ通い詰めたり、かと思うと突然来なくなったり、そうしてまた不意に現れ七海の心を乱すのかと問いたいのだ。だが七海としても心が乱されていると認めるのは多少の悔しさがある。五条相手に今更ではあるが。両者の間に一瞬沈黙が降りたのを幸いにして、で? と短く七海は問うた。五条は見たことのない諦めと清々しさの入り交じったような表情をして、うん、そうなるよね、とちびちび飲んでいた珈琲を飲み干した。再会からこうして五条の知らない顔をよく見ている気がする。七海も五条も大人になったということだろうか。だが五条が飲み干したのは夥しく砂糖の入った珈琲だ。七海は自分が飲んだわけでもないのに、口腔内にじゃりっと砂糖を感じる心持ちになる。マグカップの底から1センチ以上が砂糖なのではないだろうか。それにしてもよく飲めますね、と七海が軽口を挟もうとしたのは、珍しく五条がそわそわとして何かを口にするぞ、という緊張感を感じ取ったからだった。一体何を言われるというのだろう。皆目見当がつかないでいると、僕さぁ、と声がやわらかく七海の耳朶に届く。

    「僕さぁ、お前のことが好きみたい」

     このひと、今なんて? 七海は数秒フリーズしてから、は? と声を出すのが精一杯だった。
    「あ、いや他意はないよ。だから突っ込みたい♡ とか今すぐ付き合って♡ とかは言わないから」
    「言ってますし下品ですしやめてください」
     七海は、淡々と言葉を返しながら、五条のなかで私は抱かれる側なのか、と冷静に考え驚いていた。驚くところはそこなのか、という感じもある。そんなことを冷静に考えている時点でとっくにキャパオーバーに違いなかったのだが。
    「……言わないけど思ってるんですか」
     どうして自ら墓穴を掘った、と思わなくはないのだが、七海は以外と気が短い。どっちかはっきりしない事は嫌いなのだ。そんな心情から思わずそう聞いてしまった。怒涛の返しにすぐさま後悔したのだけれど。五条は、よくぞ聞いてくれました! の顔をしている。目隠しはしているけれどはっきりと分かる。面倒くさいやつだ、ということも。
    「正直めちゃくちゃ思ってる! だってオフの時のお前の服エロすぎんだもん! 普段きっちり着込んでるヤツがちょっと喉元ゆるいスウェットとか! いきなりガードゆるいのダメだよ! こっちがノーガードで殴られるやつじゃん! あと久々に会ったらあのスーツ! 似合う! ストライプスーツ、足の長さが際立ってどこのモデルよ!? 誰の見立てよ!? ってなる。こんなサラリーマンが居てたまるか!? 不健康そうな隈がまた色気をプラスしちゃってんじゃん! 社内大混乱だろうが! そんなひどい隈して、眠れないのか七海……とかって目元触られちゃって、眠れないんです……今夜眠るまで側に居てもらえますか……? とかって伏し目がちにお前が言ったらもう大乱交スマッシュブラザーズだよ! いや大乱交スマッシュブラザーズってなに!?」
     五条は白熱してきて勢いよくソファーを立ち上がったが、七海は途中から五条のテンションの高さが面倒になってきて読みさしの本を読み出すところだった。
    「あーッ本読むなよ聞けって。いや、全然聞かなくていいんだけどさ…………」
    「どっちですか……」
     勢いよく二メートル弱の五条がまたソファーに沈み、ぶつくさ独り言を言うので、七海は尚も、このひと、余程お疲れなんだな、かわいそうに、と思う。それでも自分が戻ったところで何の足しにもならない、という気持ちも変わらないけれど。
    「やっぱり付き合って……心配で夜しか眠れない」
    「それはよかった」
    「よくないよ」
     付き合って、だなんてそれこそ明日には忘れる気まぐれだろうと七海は思う。今夜、特に五条が疲弊しておかしくなっているのかもしれない。元々おかしいところの多い人ではあるけれども。疲弊しているにしても自分が逃げた事で過度な皺寄せが五条にいくとも考えられない。私一人で世界の均衡はなんら変わらないのだ。それでも、あのとき任務の尻拭いをさせてしまったのは事実で。でも。けれど。是、と返事をすることを七海は贖罪のように見做した訳ではなくて。変えようのない過去、逃れられない現実は依然として七海の眼前に横たわる。ただ、再会したあの日に、共に食べた食事がとても美味しかったのだ。本当に涙が出そうなほどに。食事に味がある、と実感したのは本当に数年振りのことだった。そんな心情から、つい悪ノリみたいにして言ってしまった。多分、七海の疲弊もそれなりだったのだろう。一人、まっさらの知らない世界で、重い過去を背負いながら生きていることが。
    「じゃあ私、眠れないので側に居てもらっても?」
    「エッ!?!?!?」
    「冗談だったんですか」
    「違う違う大真面目だよ僕マジで」
    「……あの日、貴方と食べた牛丼、本当に美味しかったんです」
    「うん」
    「そういう意味で好きかは分かりませんけど、それでも良ければいいですよ」
    「えっ大乱交……」
    「それは一旦忘れて。というか複数人でするのがお好きなんですか。私そういうのは好みません」
    「あっ、うん、そう、それは僕もそう……じゃあ、いいですよって言う、のは、」
    「お付き合いしましょうか、と言う事です。疲れた貴方の妄言であっても構いませんが、受理されたことが不服であるならば忘れてください、では」
     休日の朝から頭を回して五条とやり取りをしているのだ。もうこれは休日出勤でいい。残業代をもらおうと七海は思う。
    「まっ、待って待って待って、七海。僕とお付き合いしてください!」
    「ですから、はい、と申し上げました。よろしくお願いしますね」
     五条がなんかちがくない? 甘酸っぱい感じがなくない? あれ? と混乱しているが七海の脳内では既にタイムカードが切られていた。
    「では、折角の休日ですので、もう一度寝ます。貴方も寝ますか?」
     寝室に向かいながら振り向けば、いいの!? と五条は逆に動揺している。
    「同意も無しに妙な事をしたら7:3でブッタ切ります。良いですね? どこを、とは明言しませんが分かりますよね」
     くぁ、とあくびをしながらぞんざいに言葉を送れば、新しいなにかに目覚めそうだからやめてよ……と五条の声がする。目が覚めてまだ五条が居たならば、一緒に美味しい食事を摂りたい、と七海は思う。居なければ関係性は保留としても月一で焼き肉くらいは奢らせようと。久し振りの空腹感。枯れかけた多肉植物が土から葉に水を蓄えるように。美味しいものが食べたい、という人間らしい欲求が身体に満ちていく。生き物は生きている限り、いきる。あたたかい春の日だ。シーツも干したいけれど睡眠が先。目が覚めた時、居て欲しい。居てくれたらいい。七海はそう思いながら目を閉じた。

                         


                         春の水底 /脱殻 @nukegara31 
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     暦の上では春だとしても雨の夜は肌寒い。七海が帰宅して間もない室内は、人間が二人居るのに寒々としている。無造作にローテーブルに置かれたエアコンのリモコンが、ぴ、と音を立てる。微かなエアコンの稼働音に混じって、七海は無表情で外套を脱いだ。室外からは雨の音。冷えた部屋には空調の揺らぎ。その中にぽつりと七海の声が、混じる事なく放たれた。
    「え? ゴメンもっかい言って」
     五条は術式のおかげで濡れてもいない衣服を、それでも確かめるように撫でてからソファーに腰掛けた。テレビスクリーンの真正面に置かれたソファーの、向かって左側。右側には七海が座る。七海は五条の存在を無視しようとして、出来なかった。そんなことを試みる方が面倒くさいと学んでしまっているのかもしれない。呪術界から離れて何年も経つというのに。今のところ毎週金曜日の訪いが突然に始まり、そして三週連続で続いている。七海は問われた事に答えないまま珈琲の準備に向かった。聞こえなかったのならばそれはそれで構わないとでもいうように背を向ける。目元の隈は濃く、立ったままでも眠れそうな具合だ。
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