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    まみや

    @mamiyahinemosu

    好きなように書いた短めの話を載せてます。
    現在は主にDQ6(ハッ主)、たまにLAL。

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    まみや

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    DQ6、ハッ主。EDを迎えた後に主のことが好きだと気づいてしまったハの話。若干R18っぽい場面があるものの全く大したことないので年齢制限はつけませんが、お苦手な方はご注意ください。

    ##6(ハッ主)
    #ハッ主
    masterOfTheHack

    秘密 サンマリーノに遊びに来ると、レックはいつも桟橋に佇んで、海を眺めている。
     そんなレックに駆け寄りながら、オレが「おーい、レック!」と声をかけると、レックはすぐにこちらを振り返る。そして、笑いながら、「よう、ハッサン!」とオレの名前を呼んでくる。
     レックの笑顔を見たその瞬間、オレの脳裏に、昨日見た夢の光景が浮かんだ。
     キスをした瞬間、恥ずかしそうに少し逸らされた赤い顔。いいか、と聞いたらこくりと頷いてくれたから、ベッドに押し倒した時に見下ろした、上気しながらも少し不安そうな顔。オレがどこかを触るたびに上がる、色っぽい喘ぎ声。
    『あ、あ…っ! ハッ、サ……! ん…』
     そこまで思い出してオレはぶんぶんとかぶりを振った。
     やめろ、こんな所で思い出すんじゃねえ!
    「? どうしたの、ハッサン?」
     いつの間にかオレの近くまで来ていたレックが、オレの顔を不思議そうに見上げてくる。
    「へっ!? い、いや、なんでもないぜ!」
     オレが慌ててそう言うと、レックは首を傾げながら、「変なハッサン」と言った。
    「そっ、そんなことよりよ、今あっちに珍しい屋台が出てるんだよ。海鮮焼きだったかな? 一回食ったけど、結構美味かったぜ」
    「へえ、そうなの? オレも食べてみたい、あっち?」
    「おう、そうだぜ」
     レックが嬉しそうに笑って、屋台の方向へ向かって半歩先を行くのを見ながら、オレはレックにバレないようこっそりとため息をついた。
     ああ、クソ、なんだって昨夜に限ってあんな夢見ちまったんだ!



     事の発端は、デスタムーアを倒し、旅が終わって少ししたころのことだった。
     実家に戻って、大工修行に明け暮れる日々を送りながら、オレはなぜか、ずっとレックのことが気になっていた。
     旅の間、いつもオレの隣にいたレック。大事な相棒で、兄弟分。色んな困難を一緒に乗り越えて、こいつほど信頼できる相手はもうこの先一生現れないだろうと思うくらいの。
     旅を終えて、いざレックと離れてみると、これまで当然のように隣にいたレックがいない事実に、オレはなんだか心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになってしまった。
     面白いもの見つけた時とか、いいものが作れた時とか、そういう時に、なあレック、って話しかけようとして、ああそうだ、いないんだった、と思って、なんだか妙に寂しくなる、みたいな。
     ……あいつとは違う道を進むって自分で決めたのに、湿っぽいっつうかなんつうか。なんだか情けねえ。レックに知られたら呆れられちまいそうだ。
     頑張ってレックのことを考えないようにしようとしたら、これが不思議なもんで、そうしようと思えば思うほど、逆に、今ごろ何してるんだろうなとか、一人でちゃんとやってるのかなとか、なんだかやたらと気になり始めて。町や港でレイドックの王子様の話が聞こえようもんなら、つい聞き耳を立てたりして。
     そうなると、さすがにちょっと、これはいくらなんでもレックのことを気にしすぎじゃねえか、と自分でも首を傾げ始めた、ちょうどその頃。
     ある日のこと、ミレーユから、グランマーズの館に招待された。水晶玉で夢の世界のバーバラが元気でやってる姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。館には懐かしい顔ぶれが皆揃っていた。その中には当然レックもいて、久しぶりにその顔を見たらなんだか、胸がいっぱいになって、つい色々喋りかけて、休みの日にふたりで遊びに行こう、という約束もした。それがとにかく楽しみで、その日を指折り数えていたある日の夜、オレは夢を見た。
     夢の中でオレはレイドック城の中にいて、城の見張りの任務についていた。どうもオレはレイドックの兵士として働いているらしい。
     ……見張りなんて、夢の世界でもついぞしたことがなかったな。ずっと旅に出てたし。
     平和な城の見張りは新鮮ではあったが、なかなか退屈だった。ふわあ、とあくびを噛み殺しながら、妙なことが起こってないかきょろきょろと辺りを見回して時間をつぶし、やっと交代の時間になったので、交代要員が待つはずの兵士控室に行くと、そこで待っていたのは。
    「レック!?」
     控室の椅子に暇そうに座っていたのは、見まごうはずもない、レックだった。もしかして、オレと交代するの、レックなのか!?
     そうか、オレとレックが兵士になった夢、まだ、見られるのか。この世界にいたのはそこまで前の話じゃないのに、もう懐かしくて、なんだか嬉しいような、泣きたくなるような、不思議な気持ちになる。
     レックはオレに名を呼ばれるとこちらを振り返り、ぱあっと顔を輝かせるとオレに近づいた。そして、
    「ハッサン!」
    と言ってオレに抱きついてくる。オレはなぜか跳ねる心臓に、自分で驚きながら、レックの体をぎゅっと抱きしめ返す。
     そしてレックはオレをじっと見上げてきた。どきりとしながら見返すと、レックはまた口を開いた。
    「なあハッサン、見張りが終わったらすぐ行くから、どこかで暇つぶしでもしてて」
    「へ? 行くってどこへ」
    「え? 何言ってんだよハッサン、今日は見張りが終わったらもう明日までお互い非番だろ? ……終わったらデートしようって言ってたじゃん」
     レックはそこまで言い終えると、「ハッサン、ちょっと屈んで」と言ってオレの頬に手を当てた。
     何もかもを全く理解できないまま、オレがレックの指示通りに体を低くすると、レックはなんと素早くオレの頬にキスをしてきて、オレはその柔らかい唇の感触にさらに心臓が跳ねた。
     動揺して、一気に顔に血が上るオレに、レックはにっと笑いかける。
    「じゃ、後でな!」
    と言って、おそらく城の見張りをしに、レックはオレを置いて駆け出していって、……オレは、そんなレックの後ろ姿をぽかんと口を開けたまま見つめて。
     ……と。
     そこまで見て目が覚めて、オレはベッドの上でひとり、呆然とした。
     何だ今の。
     ……何だ今の!?
     ゆ、夢……だよな? オレもレックもレイドックの兵士として一緒に働いて、……でも、デートしたり、キスしたりする仲ってことは。
     恋人同士、という単語が頭をよぎり、オレの顔にさらに血が上った。
     オレとレックが? 恋人? ……ひょっとしてオレはレックのことを、そういう意味で、好き……なのか!? いやいや、そんな、……そんな、いや、でも、…………何しててもずっとレックのことが頭から離れねえこれは、もしかしたら、友情じゃなくて、恋って、やつなんじゃ……?
     そう気づいてしまったオレはベッドの上でひとしきり悶絶した。そう意識し始めると、つい、夢の中なのに妙にリアルだった、抱きつかれて頬にキスまでされた感触をよせばいいのに反芻しちまって、心臓がばくばくいって止まらない。
     でも。
     レックのことが好きだって、気づいたところで、今更、どうしたら。
     サンマリーノとレイドックの間には定期船が走っているから、レイドックの噂はよく耳に入ってくる。大魔王を倒して帰ってきた王子様の評判がとんでもなく高いのも、人気があるのも、……即位や結婚はいつになるのか、皆が注目してるのも、よく耳に入ってくる。オレがレックと一緒に旅してたってことを知ってる奴なんかはオレにそういうことを聞いてきたりまでする。いつも聞かれるたび、そんなの知らねえよって言ってるけど。
     好きだって、告白する? レックに? 貴族や王族でもない、ただの大工の、男のオレがレック王子様のお相手なんて、そんなの、お門違いも甚だしすぎるだろう。レックだって、そんなことオレに突然言われたって、迷惑に決まってる。
     ……いや、でも、ひょっとしたら。
     夢の世界のことだから、レックも同じ夢を見てたりする可能性が、あったりしねえかな? 夢の世界にあれだけ入り浸ってたオレとレックなら、そういうことももしかしたら、あるかもしれない。夢の中のレックに、オレと同じように、現実のレックの意識があって、それであんな風に振る舞ってるんだとしたら。あいつも、オレのことが実は好きだったり、するかもしれねえ。まあ、たとえ好きでも、やっぱりオレが相手だと色々迷惑な可能性はあるけどよ。でも、もし、両思いだったら結構、……いや、めちゃくちゃ、嬉しいし。
     そんなわけで、レックに会うのを楽しみにしていた気持ちに、更に緊張が加わった状態でその日を指折り数え続け、そして、とうとう、当日。
     サンマリーノにやってきたレックと飯を食いつつ、それとなく、恋人同士とかそういうのは伏せて、夢のことについて探りを入れてみたら、返ってきた答えはこうだった。
    「へ? 夢? ……オレとハッサンがレイドックで一緒に兵士をやってる? へえ、楽しそうな夢だな、それ。あの夢の世界の続きみたいな感じ? いいなあ、オレも見たい」
     きょとんとした顔でオレの話を聞いていたレックは、話を聞き終えた後、ニコニコと笑いながらオレにそう言った。それを聞いて、オレは、ああ、と内心でため息をつき、落胆する。
     ひょっとしたらって思ったけど、あれは現実のレックが夢の中であえてそう振る舞ってたわけじゃなかったんだ。……ただの、オレの中の都合のいい夢だったんだ。そりゃそうだよな、夢の世界はもう出入りできなくなっちまったんだし、夢の中で会えるなんてそんな都合のいいこと、あるわけない。
     考えてみれば当たり前なのに、勝手に期待して勝手に落ち込んで、……バカだな、オレは。
    「…どうしたの、ハッサン? オレ、何か気に障るようなこと言った?」
     落ち込んでるのが顔に出てたのか、レックが心配そうにそう聞いてきて、オレは更に自己嫌悪に陥った。ああもう、バカすぎる。レックは何も悪くねえのに心配かけてどうすんだ!
    「そんなことねえよ! 何も……そうそう、そういやさ、最近、サンマリーノにいる奴らがお前のことよくオレに聞いてくるんだよ。いつ王様になるのかとか、結婚しねえのかとか。余計なお世話だし、知らねえって言ってるんだけど」
     慌てて別の話に変えようとして、うっかりそんな話題を振ってしまい、オレは、自分で言っておきながら、しまった、と内心で舌打ちした。
     レックは目を丸くしてオレを見た後、苦笑しながら口を開く。
    「そっか、それは……ごめんな、迷惑かけて。即位はもう少し先かな、なんせ記憶が戻らないから、オレ、王族の仕事とかしきたりとか、そういうのがまだよくわかんなくってさ。もうちょっと勉強してからかなって。結婚も、まだ……まあ、好きな人は、いるけど」
     オレはそのレックの言葉を聞いて、心の底から驚いてしまって、思わず、「えっ!?」と大声で叫んでしまった。飯屋の客が全員オレたちの方を驚いたような顔で振り返り、オレは思わず赤面し、縮こまる。そんなオレを見て、レックはおかしそうに笑った。
    「何だよ、そんなにびっくりして」
    「いや、だって、その、す、好きな人って」
    「いいだろ別に、オレに好きな奴がいても」
    「…………だ、誰なんだよ」
     心臓が嫌な感じで速いリズムを刻む。オレがそう聞くと、レックは困ったように眉をハの字にして、オレの顔をまじまじと見ながらこう言った。
    「それ、聞いてどうするの?」
     逆にそう聞かれてしまうと辛いものがある。ひょっとしてその相手はオレじゃねえのか? なんて、ちょっと流石のオレでも聞きづらすぎるし。
    「や、その、……ちょっと、気になっただけだ! ほら、オレは一応、お前の、兄貴分だし…」
     オレがだらだらと背中の辺りに冷や汗をかきながらそう返すと、レックはまた苦笑した。
    「うーん、……ハッサンに、教えたいのはやまやまなんだけど、今、オレ、面倒くさい立場だからさ……結婚する前にどこかにバレて相手に迷惑かけても困るし」
    「え、……け、結婚まで、考えてんのか、その相手と」
    「……まあ、できたら」
     そう言うレックの顔は少し、恥じらうように赤らんでいて、それを見て、オレは手のひらにまで嫌な汗が滲んでくるのを自覚した。
    「…………付き合ってんのか? その相手と」
    「う、…うん、まあ、そんな感じかな…」
    「そ……そうか、そりゃ、上手くいくといいな」
     ああ、なんでオレはこんな話をレックにしちまったんだろう。
     こんな、……気持ちを自覚して、すぐに失恋するなんて、笑い話にもなりゃしねえ。
     いつそんな相手と知り合ったんだろう。
     旅をしてる最中はそんな相手はいなかったはずだ。……いや、ひょっとして、ミレーユとか……でも、それなら2人ともオレに限らず、皆に教えてくれそうなもんだし、違うような気がする。
     まあ、レックは王子様だし、男前だし、優しいし、人気もあるし、そりゃあ、狙ってくる相手は多いだろう。結婚も考えてるっていうんなら、……どこぞの、貴族の娘とか、お姫様とか、そういうやんごとない相手と、何かで会って気に入ってとか、そういうことも、あるかもしれねえし。
     もしも。
     もしも、オレがもうちょっと早く、この気持ちを自覚してたら。せめて、旅をしてる間に、気付けていたら。
     そしたら、レックは、オレのものに。
    「ハッサン?」
     レックに名前を呼ばれて、はっと意識が浮上した。
    「へっ……な、何だ?」
    「いや、なんか、怖い顔してるから」
     ほら、眉間に皺が、と言って、レックがオレの眉間を指差してくる。
     オレは誤魔化すように笑って、それで。
     その後は正直、レックと何を喋ったんだか、全く覚えてない。ショックすぎたのか、とにかくぼうっとしちまって、レックに「ハッサン、大丈夫?」ってちょいちょい心配されてたのだけは少し覚えてる。あと、また遊ぼうぜって、次に会う約束をしたことも。
     そもそも、レックとどうこうなろうなんて、それこそ夢みたいな話だったんだ。そうだよ、早めにわかってよかったじゃねえか。長い間期待するだけして、結局ダメだった、とかになるよりはマシだろ。
     そう自分を納得させて、もうレックへの想いは忘れようと思ったが、そうは問屋が下さなかった。
     それ以降、夢の世界でレックとたびたび会ったからだ。週に1回くらいは夢に出てきたから、忘れるどころじゃない、むしろよけいに想いが募るばっかりだった。
     夢の中でオレとレックはやっぱりレイドックの兵士で、休憩中にこっそりイチャついたり、たまの休みにデートをしたりした。付き合ってからそこまで日が経ってないようで、回を重ねるごとにやることの親密さが増した。夢の中のレックは、いつでも無邪気にオレのことを好きだと言ってきて、オレも、現実では言えないぶん、レックに散々好きだと言った。
     現実のレックとも、夢の中のレックと会うほどの頻度じゃないが、たまに会って遊ぶようになった。たいがい、レックの公務がない休みの日に、レックがサンマリーノにやってきて、一緒にどこかへ出かけて、お互いの近況を報告しあって、飯を食って。
     レックは、レイドックにいるとずっと王子様の顔をしていないといけないから、ハッサンと一緒に出かけるとただのレックに戻れてほっとする、と言って、会うたび嬉しそうにする。オレはそんなレックを見るといつも、切ないような、…でも夢の中で勝手に妄想のレックとイチャついてて申し訳ないような、なんとも言えない気持ちを抱いた。
     そして、昨夜、オレはまた夢を見た。
     お互いに、たまたま、休みの日が重なったからって、前日の夜に酒場に行って、それで、せっかく翌日は休みなんだし宿屋に泊まるかって話になって、……もうそうなったら、そうなっちまうっていうか、レックは嫌そうじゃなかったし、オレもレックとそうなりたかったし、そんなわけでまあ、ついに、一線を超えてしまった。有体に言うと、セックスをした。
     初めてオレのものを中に挿れられて、少し苦しそうだったが、レックは一言も嫌だとは言わなかった。あまつさえ、『うれしい、ずっと、ハッサンにこうされたかった』って泣きそうな顔で言うもんだから、…つい、こっちも張り切っちまって。
     オレのもので何度も奥を突かれて、嬌声を上げながらイって、そのまま気絶するように寝たレックを腕の中で抱きしめながら、オレも眠気に負けて、そして。
     ふと目が覚めたら、朝になっていた。
     夢の中で達したせいか腰は妙にすっきりして、……それだけならまあ、よかったんだが、問題は、その夢を見た翌日が、ちょうど現実の世界のレックと会う日、……つまり、今日だった、ってことで。



    「なあハッサン、屋台ってあれ?」
     そう言ってレックが屋台を指差しながら、こちらを振り返った。少し離れたところからでもわかる、色んな海産物の焼けるいい匂いが漂ってくる。
    「おう、そうだぜ」
    「へへっ、楽しみ……っ、わ!?」
     レックが突然悲鳴を上げて、足をふらつかせた。目の前で顔から転びそうになるレックを見て、オレは驚いて、咄嗟にレックの体に手を伸ばし、抱き寄せる。
    「……っ! あ、っぶねえ」
    「あ…………ありがと、ハッサン」
     レックが呆然としたような口調でオレに礼を言ってくる。きっと突然のことでびっくりしたんだろう。
    「いや、……怪我はねえか?」
    「う、うん……」
     どうも驚いたのか、レックは固まってしまったように、オレの腕の中でじっとしている。その体を抱いていると、どうしても昨夜の夢が思い出されて、オレはつい赤面してしまった。
     まずい、このままじゃ不審に思われちまう。
     名残惜しいが、腕を離すか、と思って何気なく腕の中のレックを見下ろして、そして、オレは驚いた。
     目の前のレックはいつの間にか顔もうなじも真っ赤になっていて、恥ずかしそうに俯いている。
     怪訝に思い、よくよくレックを見てみれば、レックのネックレスのもっと下のあたり、背中の方に赤い跡がついていた。
     ……あれ? これ、オレが、昨日、確か。
     夢で、レックとしてた時に。
     いや、最初は、鎖骨のあたりにキスマークをつけようとしたら、こんなところにつけたら見えちまうだろってレックに怒られたから、それなら背中の方に、つけてやろうと思って。
     …………ん?
     オレは思わず、腕の中のレックの上着の襟のあたりを少し掴んで、レックの背中を覗き込んだ。
    「ちょっ…! は、ハッサン、やめろよ!」
     レックが慌てたようにそう言う声が聞こえたが、オレはやめなかった。
     なぜならレックの背中には、確かに昨日の夜、夢の中でオレが付けたのと同じ所に、いくつもキスマークがついてたからだ。
     ……もしかして、さっき、何もないところで転びそうになってたのも。
    「……………おい、レック」
    「…………………………はい」
     何かを観念したような口調でそう返すレックに、オレは確信した。
    「これ、オレが、昨日夢の中でつけたキスマークだよな? てことはやっぱり、オレが夢で会ってたの、お前だったんだな? おい、何で最初に聞いた時にそう言ってくれなかったんだよ!? 知らないふりなんかして…!」
     オレがそう聞くと、レックはしばらく黙りこくった末に、ぼそりと呟いた。
    「……悔しくて」
    「へ? 悔しい…?」
     オレがそう返すと、レックはきっとオレを睨むように見上げ、口を開く。
    「そうだよ! オレは…っ、オレはずっと前から、2人で一緒に旅してた時からずーっとハッサンのことが好きだったんだよ! でも、ハッサンは別にオレのことそういう感じで好きなわけじゃなさそうだったから、好きだって言っても迷惑だろうと思って、本当に、ずっと秘密にして黙ってて、それなのにさあ! 今更何なんだよ、もう! 現実じゃ無理だけど夢のハッサンと恋人になれたと思ったら突然現実のお前が夢に乱入してくるし! どうせあれでオレのこと好きだって気づいたとかなんだろ!? それなら普通に言えばいいのに下手な探りなんか入れてきやがって、お前の考えることなんかお見通しだっての! ていうかいくらなんでも鈍感すぎる! オレはずーっと片思いして苦しかったのに、少しくらいこの苦しみをハッサンにも分かってもらわなきゃ割に合わない! もう腹立つからしばらくバレないように黙っててやろうって思ってたのにこんなに早くバレるなんて、あーもう、マジで悔しい!! もうちょっと厚着してくるんだった!!」
     そう言って、顔を真っ赤にしてオレの腕の中で暴れ出すレックを、オレはぎゅっと抱きしめた。レックはそれでもしばらく暴れていたが、やがて暴れるのをやめ、大人しくオレの腕の中におさまった。
    「……すまねえ、鈍感でよ……自分でもそう思うぜ」
    「そうだよ、……ハッサンのバカ」
     そう言うレックの口調は内容に反してずいぶん甘く、オレは思わずにやけてしまう。
    「悪かった、……詫びといっちゃなんだが、今日は何でもレック王子様の仰せの通りにするからよ、機嫌直してくれよ」
    「え、ほんと? じゃあとりあえず屋台で何か食べて、それから…」
     さっきとは打って変わってにこにこしながらオレにそう言ってくるレックは、夢の中でオレとデートをしてた時のレックとまるっきり同じだ。オレもそんなレックに、夢の中でしてたみたいに、とびっきりの笑顔を向けた。
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