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    まみや

    @mamiyahinemosu

    好きなように書いた短めの話を載せてます。
    現在は主にDQ6(ハッ主)、たまにLAL。

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    まみや

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    DQ6、ハッ主。ED後少し後〜数年後設定、モブ視点から見たふたりの話。

    #ハッ主
    masterOfTheHack
    ##6(ハッ主)

    「おい、ハッサン! 馬鹿野郎、そっちじゃねえ、壊れてんのはあっちの屋根だ!」
    「へっ!? あれっ、こっちの方向だと思ったんだけどな」
     教会の屋根の上から、威勢のいいやりとりが聞こえてくる。
     声の主を見たいと思ったけれど、屋根の上は外からじゃ高すぎて見えない。諦めて、私は教会の中に入り、ベンチに座ってお祈りするふりをしながら、上の方に耳を傾け続ける。
     賑やかな声はしばらくするとやみ、やがて、カンカンと何かを打ち付けるリズムのいい音が聞こえてきた。
     釘を打ってるのかしら? それとも…
     私が考えながらその音を聞いていると、ギイ、と音がして、教会の扉が開いた。
     なんとなくそちらを見てみれば、男の人がひとり、教会に入ろうとしてくるところだった。
     見かけない人だわ、と思った。
     サンマリーノの人じゃない。勇者様が魔王を倒してから、魔物が出なくなって、サンマリーノにはそれまでよりも、色んな人が来るようになったから、旅の人かもしれない。旅の人はよく、無事を願ってお祈りをするものだから。
     その男の人は、ゆっくりと足音を立てないように歩いて、神父様の所へお祈りをしに行ったようだった。そして、神父様やシスターとなにか一言二言お話をした後、また妙に静かな歩き方をして、なぜか、私の隣に座った。
     そして、上をじっと見上げた後、目を閉じた。耳を澄ましているみたいだった。
    「……あの」
     気がついたら私はその人に喋りかけていた。普段ならそんなことしないんだけど、なんとなく、この人は、もしかしたら私と同じことをしているんじゃないかという気がして、あと、なんとなく、優しそうな雰囲気だったから。
    「…ん? あ、オレ?」
     その人はなんだかびっくりしたみたいな顔で私の方を見た。私は頷いた。
    「お兄さん、あの音を聞いてるの?」
     私がそう言って天井を指さすと、その人は目を丸くしてまじまじと私の顔を見たあと、にっこりと笑った。
    「よくわかったね、そうだよ。この席が一番近くてよく聞こえそうだったから」
    「やっぱり! 私もそうなの」
     私がそう言うと、その人は、へえ、と感心したように相槌を打つ。
    「大工仕事の音、好きなの?」
     そう問われて、うん、と言うと、そうかあ、と言ってその人は笑った。
    「この近くに、大工さんのおうちがあるの。私のおうちはもう少し港に近いところ。私、いつも、大工さんのおうちから聞こえてくる音が好きなの。勇者様が魔王を倒してから、勇者様と一緒に旅をしてたハッサンっていうお兄さんが帰ってきて、そこのおうちの大工さんが2人になったのよ。それで、そこから聞こえてくる音がもっと賑やかになってね、聞いてるとすごく楽しい気持ちになるの」
    「へえ、そりゃいいなあ」
    「2人のね、出す音が少し違うの。それも面白くて」
    「そんなの聞き分けられるの? 凄いね。そうだよなあ、そりゃ人が違えば音も違うよな」
     その人は、私の話を真剣に聞いてくれた。そして、私の言うことを、わかるよ、と頷いてくれて、私はすごく嬉しくなった。
    「そうだ、お兄さんもこの音が好きならサンマリーノに住むといいよ、毎日聞けるから」
    「そう……うーん、それは確かになかなか魅力的だけど、残念ながら、そういうわけにもいかないんだよな。オレ、別のところに住んでて、やることもあるからさ」
    「どこに住んでるの?」
    「レイドック」
     だから今のうちにしっかり聞いて帰るよ、と言って、その人はまた天井を見上げた。嬉しそうに少し微笑みながら天井を見上げるその人の横顔はきれいだった。ステンドグラスから入る光が、その人の青い髪を照らして、透き通っているように見えて、それもきれいだな、と思った。
     やがて音がやむと、その人は、じゃあね、と言って私に笑いかけると、足早に教会を出て行く。
     私も慌てて教会を出ると、その人とハッサンさんがふたりで仲良く、楽しそうに何かを話しながら、大工さんのおうちに向かって歩く後ろ姿が見えた。


     さて、時は経ち、その数年後。
     ハッサンさんは引っ越して、サンマリーノからいなくなってしまった。
     かつて勇者様で王子様だった、現レイドック国王様が、お城を修復させるために、有名な大工さんになったハッサンさんをレイドックの国に呼び寄せたからだ。
     だからハッサンさんは今、レイドックの国で自分のお店を持って、お城の修復もしているんだとか。
     あのころ、まだまだ子どもだった私にはわからなかったけど、今になって思うことがある。
     私があの時、教会で会ったあの人は、きっと、勇者様だったのだ。そして、ずっとあの音を近くで聞いていたくて、ハッサンさんを、自分が住んでいるレイドックに呼んだのだ。
     ……いや、やっぱり、正確には、違うかな。
     これは、私の、ただの予想だけど。
     勇者様はきっと、大工仕事の音が好きだったわけじゃなくて、ハッサンさんが出す大工仕事の音のことが、本当は好きだったんだ。
     あの時のあの人の横顔はきれいだった。
     好きな人のことを想う顔をしていた。
     そういえば、レイドックの国王様は、近々婚約発表をするらしい。相手が誰なのかはまだ伏せられていて、どんな方なのかと皆が注目しているけれど。
     きっとハッサンさんだよね。
     というか、そりゃあ、それくらい重い覚悟でいてくれなきゃね。そのくらい、私からあの素敵な音を奪った代償は重いんだから。
     サンマリーノの大工仕事の音がふたりぶんからひとりぶんになって、小さくなってしまって、すごく寂しい。
     でも、私と同じか、それ以上にあの音が好きそうだったあの人が、いつもあの音を聞いているのなら、まあ、悪くないかな。
     私の分まで、ずっと、あの音を聞いていてね。
     あの時の、青い髪の、優しかったお兄さん。
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