ルキ探現パロ作業進捗大きな館。広い中庭。木陰にあるベンチ。そこで肩をくっ付けて本を読む。木の葉の揺れる音に混じって皆の喧騒が聞こえるんだ。馴れ合ったって一銭にもならない。昔は、ルキノさんに会う前は、そう思っていたけれど。聞き慣れた声がページを捲る音に混じっているのは、想像よりずっと心地良かった。
不意に隣を見上げるとルキノさんもこっちを見てくれて。集中していても僕を気にかけてくれてるんだって思うとすごく嬉しかったんだ。
「ん……」
突然の眩しさに意識が浮上する。霞む瞳を擦って辺りを見回せば、カーテンを開けたばかりのルキノさんと目が合った。
「ノートン、おはよう」
ん？ なんでルキノさんがいるんだ？ 僕、いつの間に寝たんだっけ。昨日、何してた。確か、倒れて。それから、ああそうだ。そう。ルキノさんがいて鍵を貰ったんだ。その後泣き疲れて眠ってから……目覚めてない、はずなんだけど。
「えーっと……」
「ここは私の家だ。大学からとても近い場所にある。君が目覚めないから運ばせてもらったよ。もうすぐ君の家になるのだから構わないだろう？」
悪戯っぽく笑う姿にドキッとした。そうか、ここはルキノさんの家なのか。もうすぐここで僕も、寝るんだ……って、いや、違う部屋で寝るかもしれないんだけど。うん。
ルキノさんの寝室は落ち着いた雰囲気の家具で統一されている。大人の男、みたいな部屋だ。ベッドが広い。やたら広い。キングサイズだ。これなら、ふ、二人で、寝ても……僕はまた何を考えてるんだ。一人で寝るに決まってるだろ。いい加減にしろったら。
「あれ、服が……」
不意に視線を下ろすと、昨日とは違う服を着ている事に気が付いた。白いシャツ。サイズはぶかぶか。どう見ても、これは……
「す、すまない……私の服だ……着替えさせたが、やましい事はしていない。君に誓う」
「いえ！ 大丈夫です！ 何からなにまですみません！」
顔に熱が集まった。ぽっぽっと火照って熱い。なにもなかったんだけど。なにもなかったらしいけど。ルキノさんの反応が、こう。わかるだろ。今すぐ走り出して窓枠を越えたい。
「……はぁぁ。だから君な、そんな顔をされるとだな……」
「えっ」
そんな顔ってどんな顔ですか。変な顔ですか。そう問うつもりが、大きく溜め息を吐いたルキノさんの瞳に、ちらりと欲が滲んでいるのを見てしまう。お腹の奥がずくりと疼いた。
「〜〜〜〜ッ、本日も講義が、ある。クソッ。まさか教鞭を執るのが嫌な日が訪れるとは……っ」
ルキノさんの舌打ちが響く。こんなに取り乱した姿を見るのも随分久しぶりだ。でも僕は、内心ほっとしていた。
……嬉しすぎて死んでしまいそうだから。
うん？ 講義？ ちょっと待って、今日って何曜日だっけ。昨日はバイトが休みだったから。そうなると。
「あーっ！ 僕も今日は一時限目から授業があるんだった！」
「君！ その体調で授業を受けるというのかね！？ 休みなさい！」
「駄目なんです！ 単位落とす！ 留年なんてしたら金が！」
今何時だ！？ うわっこんな時間！？ で、でもルキノさんも大学から近いって言ってたから間に合う！ 頑張れ！
「君はまた金！ 少しは身体を優先させなさい！」
「わかったわかったお説教は後で聞くから！ ルキノさんも遅刻なんですよ！ ほら急いで！」
ベッドから飛び降りてルキノさんの背中をぐいぐい押し、洗ってくれていた服に着替える。人生二週目だというのに二人して子供のように大慌てで支度をした。
まるで戦争だ。なんて少し、本当に少しだけ笑ってから、焼いてもない食パンを咥えて玄関のドアノブを捻った。眩しい朝日が視界に飛び込んでくる。今日も、きっと素敵な一日になるんだろう。
……遅刻はするだろうけれど。