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    41rau0

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    彰冬/ファンタジーパロディです。騎士×庶民設定。限定カードの絵柄にインスパイアされてしまいました。好き勝手書いてます。

    #彰冬
    akitoya

    似たもの同士かもしれない 大陸の南東部に、その王国はあった。
     自然豊かな土地を走る街道をすすみ、外門をくぐれば、初めて訪れる者はその街並みの美しさにため息を吐くという。
     白と青を基調とした、洗練された空気漂う住居群。人々の賑わいで活気溢れる噴水広場の向こう側にはフレンチ・ルネサンス建築の城が威風堂々とそびえ立つ。外交・貿易が盛んで諸外国の重鎮や商人の出入りも珍しくない城門は、夜間は固く閉じられている。その両脇にはいつも、城お抱えの騎士たちが常駐している。
     街並みと同じ色の団服を纏う騎士たちは、王家に忠誠を誓い、日々鍛錬を重ね、国の平和を守るために尽力している……アキトも、そのひとりだった。
     爵位を持たないが画家の父が大成したお陰でそれなりに裕福な家の生まれで(いわゆる成金である)、なんでもそれなりにうまく事を運ぶことができる質だった。剣術も苦手ではなく、むしろ同年代の友人たちより実力は抜きん出ており、その技量を買われて騎士団に入団した。まだ新人の類に属するが、漸く城下の見回りを任せられるようになった。
     鍛錬は、嫌いではない。
     街にも、それなりに愛着はある。
     だが少し、退屈に感じる。
     街を歩いていたらふと、そんな思いが頭を過ぎる。
     自分はまだまだ騎士と呼ばれることも憚られるようなひよっこだから、国の明暗が分かれるような案件には携わらせてもらえないことは重々承知だ。国が背中を預けられる騎士となるには、地道に、より長い年月を費やし経験を積むほかない。頭では理解している。先輩だって、果ては今の団長だって、誰もが通る道だと。それなのに……騎士団の華やかなイメージに置いてけぼりにされている気がするのだ。
     美しい姿勢で、街を闊歩する騎士。幼い頃はそれだけでも憧れの対象だったというのに、いざ自分がそのひとりになってみると、自分が虎の威を借る狐のような気がして喉元が痒くなってくる。
    「ありがとう、騎士様!」
     転がってきたりんごを拾ってやると、おさげに結えた幼女が羨望のまなざしでアキトを見上げる。もう落とすんじゃねーぞ。と頭を撫でてやり、近くで顔を真っ赤にしてお辞儀をする母親のもとへ送り返した。俺もこういう目をしていたのだろうか。理想と現実のギャップに鳩尾を殴られながら歩を進めると、白と青ばかりの街の中に一点の赤と茶が混ざり合った色が浮かんでいることに気がついた。ああ、もうそんな場所に来てしまったのか……とため息を吐く。
     異質な存在を放つそこの正体は狭い路地で、通称『ビビッドストリート』と呼ばれていた。明るい城下町の中で唯一明度が低く、アンダーグラウンドで……刺激的な場所だ。騎士の務めとして踏み込んだことは数度あるが、未だによくわからない。しんと静かで雑然とした空気のなか佇む喫茶店や菓子・茶葉の店などには興味が湧いたが、幼い頃は「入ってはダメ」と親から口酸っぱく言い聞かされていたためいささか抵抗があり、非番の日にわざわざ訪れようとも思わない。賭博の拠点もあるとも聞くが……この空間に関しては治安が良いとは言えないので、あながち嘘の噂でもないのだろう。
     一歩足を踏み入れると、鼻から入ってくる空気がすっと変わる。澄んだ空気が、嗅ぎ慣れない湿った空気に変わる。
     これも、嫌いじゃない。
     なんて思ってしまえば、騎士失格だろうか。
     自嘲気味に頬を上げた。
     すると、ふと異音が耳に入り、反射的にぴたりと足を止めた。
    (……これは、歌か?)
     耳を澄ませる。かすかに漏れ聞こえる音は、意味をなす歌詞を綴り続けている。透明感のあるテノールだ。高音になるとアルトにも聞こえ、相当な技術の持ち主だと悟る。そんな……こんなところで、どこから? ぶわりと全身が熱くなり、鎧の下で汗が滲む。アキトは任務を忘れ、からからになった喉を唾液を飲み込むことで潤しながら、路地を進んだ。柄にもなく血まなこである自覚はあるが、どうしてもこの歌声を、より近くで聞きたくて仕方がない。
     耳を頼りに建物と建物の隙間のような道を何度か曲がった。そのたび歌声が、歌詞が、息遣いが、より明瞭になっていく。
    「あ」
     随分と奥まったところにたどり着いた頃、寂れた店の前でひとりぽつんと立つ青年が突如現れたアキトの姿に驚き、口を噤んだ。その瞬間、あれほどまでアキトの脳内を支配していた歌声がぷつんと止んだ。
     いざ発生源をたしかめてみると全く声が出ず、代わりに彼をしげしげと眺めた。歌声に勝るとも劣らない透明感を湛える青白い肌と、色合いが違う青のツートンカラーリングがされた髪が印象的な男だ。
     なぜかばつが悪そうな顔をしたその青年は、これまたなぜか「すみません、騎士様。騒がしかったでしょうか」と謝罪した。後に、名をトーヤと名乗った。

     トーヤはこの城下町に居を構える音楽一家の末息子らしい。父親の名を聞いて、アキトは驚いた。国内外に名を馳せる実力者だったからだ。何なら、王家とも交流があるほどの。
     城に出入りしていた、眉間にしわを寄せた痩せ型中年の男性を思い出す。あの男の息子か。世間は狭いものだと思った。
    「騎士様も……食べますか」トーヤは傍に置いていた紙袋を探り、丸いライ麦パンを差し出してきた。「パンです。騎士様のお口に合うかはわからないですが。俺は、美味いと思います」
     アキトはトーヤとパンを交互に見て、
    「自分のために買ったんじゃねーのか?」
     とたずねた。
    「もうひとつ、あります。お気になさらないでください」
    「……。これ、代金は?」
    「いえ、そんな。俺がそうしたくて、しているだけですから」
    「なんかそれさ、騎士の威光を笠に着て、善良な市民からむしり取ってる、って思われても仕方ねーなって思うんだけど」
     そう言うと、切長の目をかすかに丸くするトーヤ。
    「難しいですね。ほんの軽い気持ちだったのですが」
     見回りにかこつけて何日かこの路地に通い続け、それなりに会話もした。彼の性格もなんとなくわかった。彼は一言で言えば真面目で、なんでも真っ直ぐに受け取ってしまうらしい。
     少し、意地悪をしてしまったか。
     アキトは肩をすくめ、トーヤからパンを受け取った。
    「いーよ。誰も見てないし、俺もそんなことで目くじら立てるほど高潔な生まれでもない。ちょうど小腹空いてたし、ありがたくいただいておく」
    「そうですか」
     パンにかぶりつくと、トーヤはほっと安心したような表情をする。
    「お気に召したら、良いのですが」
    「……マジで美味いな。これ」
     まだほのかにあたたかいライ麦パンは外はカリカリ中はふわふわ、噛むたびに香ばしさと甘みが口内に溶けていく。トーヤはアキトの反応を見て、表情を綻ばせた。
    「よかった。そのパン屋さん……冷めても美味いんですが、焼き立てがそれはもう格別なんですよ」
    「へえ。菓子パンはある?」
    「菓子パン?」
    「うん。甘いやつ」
    「ええっと。クリームパン、メロンパン、チョココロネ……は、あった気がします。すみません。普段買わないので、記憶が朧げで。今度、買ってきましょうか」
    「いや、なら連れてけよ。そっちのが早い」
    「えっ。しかし、俺のような身分の者が騎士様の隣を歩くのも……」
    「いつもンな目立つ服着てるわけじゃねーよ。お前が構わないなら、俺が非番の日にでも行こうぜ。たぶんびっくりするぞ、フツーの服着てるから」
     それならいいだろ。と言うと、トーヤの瞳がふるっと揺れる。何と返せば良いのか、思案しているのだろう。
     ……嫌な肩書きがついてしまった。内心ため息を吐く。
    「あのさ。ちょっと前から思ってたんだけど、俺のこと名前で呼んでくんね? 敬語もいらねーし」
    「それは、」
    「言ったろ。俺は、そんなことに拘るような高潔な生まれじゃない。つまり、騎士じゃなくなれば、お前と肩並べて歩いてたって、何の不思議もない人間なんだ。馬鹿らしいと思わねーか? ま、どーせ誰も聞いちゃいないんだし、それ以前に俺本人が許可してんだ。かしこまらずに、気楽にやってこうぜ」
    「気楽に……いや、しかし、騎士様は騎士様です。物心ついた頃から、騎士様を敬うべき、感謝すべき、忘れてはならぬと……」
    「別に肩肘張った態度ばかりが、それを示す材料にはならねーと思うけど?」
     トーヤは顎に指を当て、視線を落とし考え込んでいる。アキトはむっと口を曲げる。この男、どうやら融通も利かないらしい。
     はぁ、と深いため息を吐いた。トーヤはちらりと視線を上げる。
    「すみません。煮え切らず。騎士様が仰っている意味が、わからぬわけではないのですが」
    「息苦しそうな顔をずっとされてんのも、なんか嫌だ」少し膨らんだ紙袋を抱くトーヤの手が、ぴくりと震える。「もう友達、のつもりだったんだけど。俺は」
     ともだち……と、トーヤの薄い唇が糸で紡ぐように声に出す。
    「俺が自惚れているわけじゃないなら」トーヤはしっかりとアキトを見据えて、頷いた。「あなたに……お前に、迷惑がかからない範囲で、友達として振る舞いたい。それでいいだろうか? アキト」
     アキトは、トーヤの肩が少しなだらかになっていることを認めた。それこそ強要になってしまっただろうか、と内心焦燥していた気持ちは、ふわりと霧散した。
    「いいに決まってんだろ」
     思わず肩を抱くと、トーヤは「わ」と小さく声をあげてまた固まってしまった。
    「す、すまない。同年代の人間との接触が新鮮で……嫌なわけじゃないんだ。安心してくれ」
     なぜか頬を染めるトーヤにつられて調子を狂わされ、じわりと身体が熱くなった。ああ、そう、悪い。トーヤの肩は薄くて、腕は引き締まってはいるが筋肉質とは遠く、肉と骨を感じる。騎士連中の肉体とは違って新鮮だった。

     出逢った時からあくる日も、あくる日も、トーヤはビビッドストリートで歌を歌っていた。たまに観客がいて、彼の歌声に聴き惚れていた。アキトは、彼がわざわざ人気のないこの場所で歌っている理由を訊ねた。
    「逃げ出したんだ」パンを見つめたまま、トーヤは呟いた。「家で指南を受けているうちに、音楽との向き合い方がわからなくなってしまった。ずっと、一番身近にあった、愛したものだったはずなのに、気を抜くと、軽い気持ちで触れられない、異形のものに見えるのが、怖くなった。だから、音楽を嫌いになってしまう前に、逃げた。逃げた先が、ここだった。理由はわからないが、ここは白い街よりもほんの少し息がしやすくて、歌っていると気持ちよかった。かつての純粋な感性を、取り戻したような気分になれた」
     他の役者や大道芸人のように白い街で歌えないのは、感覚が逆戻りしそうな気がして怖いから。いつかはそんな度胸と心の余裕が戻ればいいが。意外にも事情を話してくれたトーヤに驚きながら、じっと見つめた。
    「叛逆精神のようなものも、あるのかもしれないな。レッスンをサボタージュして、ひとりで立ち入るなと口酸っぱく言われていたこの場所に来ているのも、本来目上の者であるアキトと、こうして話すのも。『いけないこと』を少しずつ犯していくのは、ちょっぴり気持ちがいい」
    「お前……」
     度胸は、本人が思っているよりも備わっているのではなかろうか。
    「……。愛したからこそ離れる、か。俺は、そんな熱い気持ちになれるもの、見つからなかったな」
    「そうなのか? 騎士になったのは、なぜ」
    「成り行きみたいなモンだよ。周りより剣術の才能があった。でも、飛び抜けてもいない。俺くらいできるやつ、騎士団に入ればごまんといる」
     今度はトーヤがアキトの横顔をじっと見つめる形になる。
    「井の中の蛙大海を知らず、ってやつだな。やると決めたからにはやり遂げたいと思ってはいるが、他の奴らみたいに騎士の誇りも才能も、俺にはないことがわかった。なんでもやろうと思えや普通以上にはできるけど、中途半端なんだよ。悪い意味で」
    「なんでもできるというのは……俺には羨ましいが。俺は不器用だから」
    「そうかあ?」
    「そうだ。得意でないものはたくさんある。自信を持てるアキトは、すごいと思う」
     純粋な気持ちで言ってはくれるが、すごい、という賞賛の声は生きていればたくさん聞こえた。
     唯一無二の何かが欲しい。
     ふとそう感じて喉が枯渇するほど、胸を掻きむしりたくなるほど、想いはアキトのなかに滞留する。
    「……でも、悪いことばかりじゃねーんだ。騎士団の連中にもどうしようもねーっつか、一周まわって面白いやつもいるし」
    「そうなのか。例えば?」
    「稽古や鍛錬が面倒でぜんっぜん顔も見せねーのに愛嬌と剣術の腕で居場所を保ってるやつとか、王子様と一緒になってやたらやんちゃして、ほぼ毎日大目玉食らってる発明好きのやつとか」
    「そんな人たちもいるのか。少し、意外だな」
    「由緒正しき出の人間は多いが、騎士団は実力主義の集団だ。俺みたいな成金一家の息子もいれば、流れ者だっている。こぞって頭垂れるのも馬鹿らしくならねーか?」
    「いや、国を護ってくださっていることには変わりないんだ。馬鹿らしいとは思わないさ」
     トーヤは切長の目を細め、ふわりと笑う。その想いには一点の曇りもない。
    「あ、そ」
     ため息のようにそう言った。何かが解けた……そんな気がした。
    「……歌」
    「ん?」
    「俺にも、歌えるかな」
    「もちろんだ。音楽に敷居はない」
    「じゃ、教えてくれねーか。またここに来るからさ」
    「ああ。満足に教えられるかはわからないが、善処する」
    「あー、でもその前に……パン屋」
    「そうか。それも楽しみだ」トーヤはふふ、と笑みを浮かべた。「白昼堂々、アキトと肩を並べて歩くことができる」
     ふたりきりの路地に「アキトの好きなパン、見つかるといいな」という、こもった呟き声が響いた。
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    41rau0

    DONEみゆりょ/涼さんが物理的に大きくなる話
    20240505イベントにて配布した無配ペーパーの本文です。ありがとうございました!
    おっきくなっちゃった! 今朝の涼ちんは確かにいつもと同じ、俺とほとんど同じ目線に立っていたはずで、大学の理系学部棟の前で別れた時も「いってきまーす」とにこやかに手を振っていたはずだった。間違いなかったと思う。いつも通りの何の変哲もない日常だった。だが夕方になんとなく見たネットニュースの速報記事でなんとなく嫌な予感がして、俺は西新宿の河川敷へ急ぎ向かった。
     見出しは『新宿の河川敷に巨大人類あらわる』。異常で、突飛な内容だった。写真すら用意されていないし、きっと何かと見間違えたんだろう。それが何か、って言われたらちょっとわからないけど、とにかく裏取りも不十分な誤報だと思った。俺だって、そんなニュースにいちいち踊らされるほど純粋でもミーハーでもないし、どうせ時間が経ったら風化するネタだろうなって俯瞰した見方ができるはずだったのに、根拠のない胸騒ぎで自然と足が動いた。不自然なほど鮮やかなオレンジ色に染まった空の下、記事に載っていた河川敷には人だかりができていて、その後ろから土手の下のほうを覗き込む……までもなく、よく見慣れた後ろ姿が見えた。
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     慣れない闇に向かって目を凝らしてみる。リビングの電気は点いていないみたいだ。じゃ、やっぱりみんな寝てるかな。よいしょ、と呟きながら靴を脱いで、足音に気をつけながらひたひた廊下を歩く。パチンとリビングの電気を点けると、案の定誰もいなかった(いや、強いて言えば、にゃんこたろうがキャットタワーのてっぺんでで丸まり眠っていた)。誰も見ていないとわかると余計に気が抜けてしまって、固くなった肩を手で揉みながらキッチンに入った。お客さんに酒類を山ほど提供したけど、俺自身は特段水分補給をしていないことに気づいたから。自覚するともう喉がカラカラで仕方がなくて、ごくんと喉を鳴らして唾を飲み込む。食器棚から適当に取ったコップに浄水を注いで、一気に飲み干した。ちょっと冷たくて、歯がじんと滲むように痛んで、思わず顔をしかめてしまった。
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