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    みゆりょ/涼さんが5分後に爆発する話
    ※5/3 スパコミにて頒布した無配ペーパーです。

    #みゆりょ

    爆発するね「深幸くん、オレ五分後に爆発しちゃうかもしれないんだ」
     出し抜けに現実離れしたことを言う涼を見て、自覚できるほどにぽかんと口を開けた。何かの比喩だろうか。思考を巡らせたが、
     ……思いつかない。
    「えっと、爆発って?」本音を言えばあまり話題を広げたくないが、このまま放っておくのも忍びないので恐る恐るたずねる深幸。
    「爆発。エクスプロージョン。ビッグバンだよ」
     涼は説明にもなっていないことをのたまい、空に向かって両手を伸ばす。つられて空を見上げた。雲ひとつない快晴だ。
    「………………。むしろ平和じゃね? それとも、嵐の前の静けさってやつか?」
    「そうだね。今は星がよく見えないから……ちょっと静かかも」
     会話が繋がっているようで、少しズレた平行線をゆったりと辿りはじめている。それに気がついた深幸は呆れて肩をすくめた。
    「おいおい、空の話じゃねーだろ。涼ちんが、爆発しそうなんじゃなかったっけ?」
    「そうだった」
     我が身に危険が迫っているというのにひどく呑気なものだ。もし本当なら、涼だけではなく隣にいる深幸や、すれ違った往来の人々も危険に晒されているのではないだろうか。
     平日日中の大学通りは、暇を持て余した学生に散歩やショッピング等の目的で訪れた母子にと、意外にも賑わっている。札幌の大学周辺は静かで落ち着いた、悪く言えば閑散としたものだったので、上京したばかりの頃はカルチャーショックに見舞われたものだが、都内有数のマンモス大学だから必然的に人口密度も高くなるのだと知ってからは、これも地域性かとスムーズに受け入れることができた。
     空きコマが被ってるなら一緒に散歩でもしよう、と暇そうにしていた彼を連れ出したのが運の尽きだったか……と自分を呪いながら「うーん」と唸った。
    「こんなこと話してるうちに、結構時間経っちゃったな。あと四分くらいで涼ちん爆発しちゃうんじゃない?」
    「そうだね。あと三分四十秒……三十九秒」
    「三分台になると、結構短く思えてくるよな。なんかちょっと焦ってきたわ」
    「なんとなく、わかるかも。不思議だよね。……三十四秒」
    「いや、ずっと会話してんのに正確すぎるだろ。体内時計どーなってんだよ」
    「三十秒……」
     歩道をゆっくり歩きながら、少し腰を屈めて顔を覗き込んでくる涼。もの言いたげに口を尖らせているのは気のせいだろうか。思わずふふっと笑いが漏れてしまった。
    「あー……俺、涼ちんが爆発していなくなったら嫌だな。どーやったら助かるの?」
     正直、本当に彼が爆発するとは思っていない。しかし何かを察して欲しそうに見つめる涼が大きな愛玩動物のように見えてきて面白かったので、話に乗ってみることにした。案の定、涼はふふんと満足そうに微笑んだ。
    「あのね。オレの宇宙エネルギーが、今……枯渇しています」
    「うん?」
     立ち止まって祈るように手を組む涼に、より突っ込んだ説明を求めた。早くしないと爆発してしまうというのに、もどかしいじゃないか。
    「補充しないと……爆発する。定刻通り」
     十四秒……。と呟く涼。ちらりと上目で深幸の様子を窺ってくる。また宇宙エネルギーかぁ、と内心頭を抱えながら横髪を耳にかける。涼の言葉選びや感性は独特で、たまに意思疎通に際して骨を折ることがある。そこが面白いのだが、難航するたび、出会った頃は本気で頭がおかしいやつなのかもしれないと恐れていたことを思い出す。
    「宇宙エネルギーねぇ」
    「三分切っちゃったよ」
    「わかった、わかった。パフェとパンケーキ、どっちがいい?」
     涼はだいたいの場合、甘味に宇宙を感じている気がする。
     と思ってとりあえず提案してみる。予想は当たっていたようで、涼は夕焼けと夜空の間のような色の瞳をキラキラと輝かせて頷いた。
    「パンケーキ。雲みたいなやつがいい」
    「メレンゲ使ってるやつな。近くに食べれる店あるかわからないから調べるね」
    「うん」
     スマホを取り出して、まだ何も食べてもいないのにご満悦のご様子の涼を見やって、はたと重大な見落としに気がつく。
    「あ、待て。食べる前に三分過ぎるじゃん。涼ちん爆発するよ」
    「あと二分だよ。……でも大丈夫。カウントは止まったから。深幸くんのおかげで地球が平和になったよ。ありがとう」
     なんだか壮大な話に昇華されている。
    「じゃあパンケーキはいらない?」
    「それはダメ……カウントが再開する」
     神妙な面持ちで深幸に言い聞かせる涼がおかしくて、スマホに表示された位置情報を確認しながら吹き出してしまった。なんと都合のいい宇宙だろうか。
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    41rau0

    MOURNING那由多+賢汰/那由多の何気ない日常回です。(2024/12/15イベントで頒布したペーパーの内容です)
    夜明けは訪れる ひゅう、と穴に落ちたような浮遊感とともに、脳みそが一瞬青白くなる。反射的に瞼をひらく。次の瞬間には、視界いっぱいに見慣れた自室の光景が広がっていて、思わず安堵の息を吐くと、浅かった呼吸が次第に落ち着くのがわかった。
     重たい身体をゆっくりと起こした。シーツが自分の体温で生ぬるい。下を向くと、頭が脳震盪でも起こしたかのようにぐわんぐわんと揺れて吐きそうになった。ドクドクと喉の奥が脈打つ。ひゅう、と喉が鳴った。
     無音の部屋を見渡す。たまに猫用の扉から入り込んだにゃんこたろうが寝ている間にベッドの隅で丸まっていることがあるのだが、今日は彼女の気分ではなかったらしい。
     ――嫌な夢を見た気がする。
     寝覚めが最悪だったのでそう確信したのだが、内容が思い出せなかった。無理矢理思い出そうとすると傷つけて擦り切れたVHSのごとく、モザイクがかかった映像がプツプツと途切れて頭の中で再生される。その不気味さをただただ不快に思った。スウェットと肌の間に熱気がたまっていて、じっとりと汗を搔いているのがわかった。指で少し襟元を開けると冷たい空気が直接入ってきて、ぶるりと震えた。
    3076

    41rau0

    DONEみゆりょ/涼さんが物理的に大きくなる話
    20240505イベントにて配布した無配ペーパーの本文です。ありがとうございました!
    おっきくなっちゃった! 今朝の涼ちんは確かにいつもと同じ、俺とほとんど同じ目線に立っていたはずで、大学の理系学部棟の前で別れた時も「いってきまーす」とにこやかに手を振っていたはずだった。間違いなかったと思う。いつも通りの何の変哲もない日常だった。だが夕方になんとなく見たネットニュースの速報記事でなんとなく嫌な予感がして、俺は西新宿の河川敷へ急ぎ向かった。
     見出しは『新宿の河川敷に巨大人類あらわる』。異常で、突飛な内容だった。写真すら用意されていないし、きっと何かと見間違えたんだろう。それが何か、って言われたらちょっとわからないけど、とにかく裏取りも不十分な誤報だと思った。俺だって、そんなニュースにいちいち踊らされるほど純粋でもミーハーでもないし、どうせ時間が経ったら風化するネタだろうなって俯瞰した見方ができるはずだったのに、根拠のない胸騒ぎで自然と足が動いた。不自然なほど鮮やかなオレンジ色に染まった空の下、記事に載っていた河川敷には人だかりができていて、その後ろから土手の下のほうを覗き込む……までもなく、よく見慣れた後ろ姿が見えた。
    4581

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    4581

    41rau0

    TRAININGみゆりょ/りょぅさんが疲れているみゆきくんを起こすだけの話
    みゆりょ「ただいま〜……」
     と、なんとなく、ひっそりと、シェアハウスの暗い廊下に声を投げかけてみた。予想はしてたけど、返事はない。夜も更けてるし、流石にみんな寝てるか。それか、那由多か賢汰は起きてるかな? 俺に気づかないだけで。礼音くんは、たぶん寝てる。体内時計がそこそこ規則正しいタイプだから。涼ちんは……よくわからない。自分の部屋ですやすや寝てる時もあれば、早朝に近い時間にガラクタを持って満足気な顔で帰宅する時もある。宇宙人だから仕方ないのかもだけど、あいつは一番行動パターンが読めない。
     慣れない闇に向かって目を凝らしてみる。リビングの電気は点いていないみたいだ。じゃ、やっぱりみんな寝てるかな。よいしょ、と呟きながら靴を脱いで、足音に気をつけながらひたひた廊下を歩く。パチンとリビングの電気を点けると、案の定誰もいなかった(いや、強いて言えば、にゃんこたろうがキャットタワーのてっぺんでで丸まり眠っていた)。誰も見ていないとわかると余計に気が抜けてしまって、固くなった肩を手で揉みながらキッチンに入った。お客さんに酒類を山ほど提供したけど、俺自身は特段水分補給をしていないことに気づいたから。自覚するともう喉がカラカラで仕方がなくて、ごくんと喉を鳴らして唾を飲み込む。食器棚から適当に取ったコップに浄水を注いで、一気に飲み干した。ちょっと冷たくて、歯がじんと滲むように痛んで、思わず顔をしかめてしまった。
    3003

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    3003