「貴方がいつまで経っても殺してくれないから、私は思い立ったのです。貴方がむしろ殺したくなるようなことをすればいいのだと」
寂雷は眉をひそめた。これは執着だ。それも相当厄介な、粘着という名の執着。
極端な愛情は一種の執念に変わる。彼の捻じ曲がった究極の羨望の眼差しは、もはや自分へ関心を向けられることすら通り越し猛威を振るう異常なまでの破壊行為でしか満たせないのだ。
「そこまで殺してほしいと訴えるのに、私を殺そうとはしないのですか」
「解釈違いです」
「解釈違い?」
「人間はえてして自分より強い生き物に手をかけられたいと思う生き物でしょう?」
「言ってる意味が分からないのですが」
「私は貴方に強くあってほしい。そう、"私より"。
そうすれば私はいつまでも貴方を追い続けていられる。真の意味で生きていられる。
しかし逆となればーー解釈違いです。殺してほしいと思うどころか、追う価値もない。そうしたら殺すまでです」
「随分とシビアな物言いですね」
「憧れとはそういうものじゃありませんか。
だが私が心の底から強いと認める人間などそういない。……いやいなかった。あの日、貴方を見るまでは」
時空院は寂雷に背を向け、部屋の片隅の小さな木製テーブルに歩み寄ると、湿った天板の上に蝋燭を灯した。静かな暖色の炎が、青い暗闇にゆらりと溶け影を落とす。
「ガムシロップ、飲みます?」
「遠慮します」
「美味しいのに」
瓶の中で揺れる透明な液体をマグカップに落とすと、時空院は目を細め愛おし気にそれをあおった。
(続く…かも?)