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    usowafu

    hpstのD4に囚われてしまい、妄想を吐き出すためにポイピク作ってしまいました。
    (腐ってないかな?と判断した妄想はここにも上げてます。腐った何かは別所に……。)

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    usowafu

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    (⚠︎妄想・捏造⚠︎)
    ※TDDがD4を匿います。終盤は捏造アビリティーの謎バトル。D4の悪人感が薄い。少年マンガ脳厨二展開。本気で何でも許せる方向け。

    #D4

    D4が一斉検挙されなかったif「もうここまでか………、 クソがッ! 」
    中王区の手からTDDを逃し、迫りくる追手に奮闘していたD4だが、多勢に無勢、しかもTDD戦でのダメージが抜けきっていない状態での戦いには限界が見え始め、燐童は思わず叫んだ。

    このままでもどうせ再度勾留され、脱獄など2度とできないような特別刑務所送りになるかもしれない。
    ならばいっそ、自滅覚悟でマイクの出力を上げて道を切り開き、他3人を逃した方が良いのでは……。

    そんな事を思って隣の谷ケ崎を見上げると、谷ケ崎も燐童に顔を向け
    「ここは俺が食い止める。お前ら3人で逃げろ! 」
    と言い出した。

    それが聞こえたのか時空院と有馬も
    「伊吹に任せて逃げるなんてできませんねぇ〜〜!! 撤退戦のごとき悲惨な軍略は私に委ねなさい 」
    「オイオイどうせなら全員で逃げりゃイイだろォ〜!! 2・2で散りゃ多少は撹乱できるんじゃねぇか?!
    ……最悪、どっちか2人は助かるかもしれねぇ」
    などと言い出し、
    「みんな似たようなこと考えてるの、ちょっと面白いですね…… 」
    とニヤリ笑って応えながら、さて実際どうするか……、と燐童が考え始めたとき、

    『犯人はあっちだ!』
    という声がしたかと思うと、急に自分達を取り囲んでいた追手達が踵を返し、全員その場から走り去っていった。


    「…………????!!!! 」
    ほんの一瞬だが4人は呆然としていた。目の前に直前までやり合っていた相手がいたのになぜ?
    状況を把握しようと身構えるより前に、4人の前に大柄な男が現れた

    「いや〜〜、見事に『詐欺カモられて』くれたなぁアイツら。俺が欲しいアビリティじゃねぇーが、こういう時は便利だぜ…… 」

    誰に聞かせるでもない言葉を紡ぎながらニヤニヤ笑う口元は見えるが、男は黒い帽子を深く被り、しかもサングラスをしているため、その顔の全貌は見えない。

    「……なんだテメェ?! 」
    警戒をしつつも有馬が詰め寄る
    「おっと、俺はお前たちの敵じゃあねーぜ。……少なくとも今は 」
    その言葉に4人は一層警戒を強め、あの時空院ですら珍しく笑みを消して男を包囲する。

    「つれないねぇ〜。さすが脱獄犯 」
    そう言って男は何かを投げ、谷ケ崎は思わず受け取った
    「………鍵? 」

    「北へ700m、無人の町工場、白のハイエース 」
    それだけ告げると男は踵を返し、そこから立ち去ろうとした。

    「おい! アンタ誰だ!! 何が目的だ!? 」
    「それに答える義理はねぇな。あ〜1つ教えてやる。
    これから3日間は警戒が厳しいだろう。通話も傍受される可能性が高い。
    ……かつての敵を頼った方がいいかもしれねぇぜ 」

    それだけ言って背を向けた。黒く長いファーコートが男を完全に闇へと隠した。


    4人は男の告げた場所にあった車へ乗り込み、都内をさまよっていた。
    ご丁寧にも車内には検問や中王区警察車両の位置が分かるレーダーまで設置され、
    赤い光が進行方向にウヨウヨしている。

    「畜生! 都外へ行ける道は全て封鎖されてやがる!! 」
    運転する有馬が悪態をつき、燐童は後部座席で抜け道を探しながらも、先程の事を考えていた。

    男の目的も素性も不明だが、彼の発した「アビリティ」という言葉に、燐童は聞き覚えがあった。
    以前中王区に行った際、幹部候補といわれる女達が話しているのを偶然耳にしたのだ

    ーーーヒプノシスマイクには、単純なダメージ以外にも「ラップアビリティ」という効果があるらしい
    ーーーマイクを世に放出したが、有力な使い手にも「アビリティ」を発現したものはまだ少ない
    ーーー自分達も「アビリティ」を発現することができれば、出世の大きな足がかりとなるだろう

    そんな機密事項の「アビリティ」を使いこなしながら、中王区の目を欺いて暗躍している存在に対し、下手に抗うのは無駄だろうーー。ならあの男の口車に乗った方が良さそうだ。

    「有馬さん、ここからシブヤへ向かってください」
    「ハァ?! 中王のポリどもがウジャウジャいるだろーが!」
    「でもこのルートをこう行けば、うまいこと警戒エリアを避けながら、シブヤのど真ん中
    ーーー飴村乱数の事務所に行けます。
    あの男が言ったとおり、かつての敵を頼るんですよ 」

    燐童が指した経路を一瞥した有馬は
    「まるでお膳立てされたようなルートだなァ…… 」
    と訝しげに言い
    「燐童くん、あまりにも都合よくできた流れですが、罠だとは考えないのですか?」
    と、いつの間にか「阿久根くん」から「燐童くん」呼びに変えてきた時空院からも確認が入った。
    「そうですね、100%罠で無いとは、今のところ言い切れませんが…… 」
    行き先が後輩くんの事務所という点も不安要素だった。彼が中王区の傀儡なのは事実だ。

    「俺は燐童の案に賛成だ 」
    谷ケ崎が突如沈黙を破り、話し始めた。
    「あの男は中王区とは別の思惑で動いているように感じた……。ただの勘だが 」

    いや勘かよ!!
    と有馬と燐童がツッコミそうになったが、それよりも早く

    「伊吹が大丈夫だと思うならそうしましょう!! 第六感か野生の勘かはわかりませんが、
    私、伊吹のそういうところは信頼しているのでね。フフフ…… 」

    と時空院が賛成に回ったため、自然と燐童の案が採用となった。


    最初の脱獄時、新月の闇に紛れてアサヒカワの原野を進みながら、トラバサミなどの様々な脱獄者向けトラップを察知し粉砕しつつ先頭を進んだ谷ケ崎をふと思い出し、
    あの地とは全く違うこの大都会でも、彼の嗅覚が自分達を導いているのは不思議なものだなと誰彼となく思っている内に、有馬の的確なドライビングで予定よりもかなり早く4人は目的地に着いた。



    「………おまえは! 」
    「やあ後輩クン。まさかこんなすぐに再会するとはね 」
    燐童がそう言った瞬間、乱数に胸ぐらを掴まれながら唇に人差し指を立てられ
    「その呼び方はやめろっ……! 今うちにアイツらがいるんだ 」
    と小声で凄まれる。

    「あいつら……、The Dirty Dawg か。それは都合がいい。
    オレたちも4人揃っていてな。実はおまえたちを頼ってきたんだ。力を貸してくれないか 」


    斥候として先に事務所へ赴いた燐童から「来い」の合図があり、残り3人も乱数の事務所へと進んだ。
    カラフルな室内には先に来ていた燐童とTDDの4人が揃い、来訪者を驚きと困惑の眼で見つめた。
    が、すぐに一郎が

    「谷ケ崎ィ!!!!! 無事だったのか!! 良かったz……ッツ!いてて 」
    と叫びながら立ちあがろうとして、脚の痛みによろめいた。

    「一郎ぉ! おめーすぐに脚やっちまってんのを忘れて動くんじゃねーよ!! …ぐっ 」
    「貴方も人のことは言えませんよ。左馬刻くん 」
    叫んだ直後に腹を押さえる左馬刻を寂雷が諌める。

    「……山田一郎!! お前こそ無事か!? 無理に立つな!!! 」
    「ま〜あ無事だぜ! 前にケンカで右腕折った時も3日ぐらいで治ったし!! こんなもんだろ! 」

    「オイオイ化け物かよ! テメェーもだ碧棺左馬刻!! 腹撃たれてんのに肉喰いまくりだなァ?! 」
    「あ〜〜!? 人が何食おうが勝手だろぉーが!! 内臓それてたから気合いでなんとかなんだよ!! 」
    「なんとかなりませんよ左馬刻くん…… 」

    TDDはD4との戦い後、この事務所で焼肉パーティーでもしていたらしく、机の上にはホットプレートやサイドメニューの痕跡が所狭しと並べられている。

    (「クッソ気楽なもんだ……! てゆか協力を仰ぎに来たのにケンカ腰でどーすんだ?!
    このままじゃ埒があかない。オレがなんとかしないと……!
    あのバk…時空院も大人しくしている今が好機!」)

    「……って、時空院さん??!」

    燐童の目に映ったのは、未だかつて見たことのない “無” を宿した時空院だった。
    だが「無」に見えるのは表情が固まり目の光が消えているからであり、実際のところ
    時空院の心中は荒れていた。

    (「はああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜ーーーー!!!?????
    こんな和気藹々とした極彩色の空間で、歳下のチームメイトと焼肉ホームパーティーしているイルドックぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?????????????
    む、無理ィーーーーーー!!!!!!!!!!!!! 」)

    「うわ、今度は無表情で泣き出した……… 」

    何だかもう色々イヤになった燐童は、ヒプノシスマイクを起動したーーーーーーー。


    「誠に申し訳ございませんでした」
    3人を正座させながら、死んだ目で燐童は深々と頭を下げる。

    「あっ、いや俺もすんません。もう谷ケ崎に会う事は無いのかなと思ってたから、すぐに再会できてブチ上がっちまったっていうか…… 」

    「いちろーが謝ることなんて無いよ〜〜! 元はと言えばコイツらがボクたちのテリトリー荒らしたり、サマトキを撃ったりしたから悪いんじゃん! ボク怒ってるんだからね〜〜〜! プンプン!! 」


    (本当に怒ってるのは、コイツの素性を知っているオレがズケズケとやって来たことに対してだろうな…… )
    そう思いながらも燐童は、この最悪な状況をいかに好転させるか瞬時に思索した。

    「……それに対しては弁解のしようもございません。あえて弁明させていただけるなら、我々が収監されている間に世界は大きく変わってしまった。
    『古き戦い方・古き秩序』を生きてきた我々には政権への怨みも少なからずあり、『新しい戦い方』で勢力を広げていたあなた方を、現政府の象徴のように捉えてしまった向きがあるかと思います 」

    「早ぇ話が俺様たちをサンドバックにしたってことだろ? あぁ?! 」
    「……そのように捉えてもらっても結構です。まあ結果的に、ボコボコにされたのは我々の方ですが 」
    「で、何故また私達の元へ来たのですか?」

    「単刀直入に申します。我々を匿っていただけませんでしょうか。
    ……我々は再逮捕されたら2度と塀の外へ出ることは叶わないでしょう。だから4人で地の果てまでも逃げ延びたいと思っています。
    ただ情報筋によれば、この3日間ほどは中王区の警戒が厳しく、移動も潜伏もリスクが高い。
    また4人での行動も目立ちますし、各自行動するにも電波傍受される可能性が高いとの事で難しいと判断しました。
    なのでその間だけでも、あなた方の元に身を寄せさせていただきたいのです 」

    ここまで一気にしゃべり、息をつく。
    TDD4人の反応を見ると、どうすべきか逡巡しているようだ。
    すると谷ケ崎が急に立ち上がり

    「……俺からも頼む。俺自身は再収監されても構わないと思っているが、俺以外の3人は終身刑か、最悪死刑になるかもしれない。
    だから俺は、刑を逃れるのではなく、仲間の未来のために生きたい。
    俺たちを逃した後、再び犯罪に手を染めることが不安なら、俺が止める。
    だから俺はこいつらと逃げ延びなきゃならねえ。……だから頼む 」

    そういって深々と頭を下げた。

    「……谷ケ崎くん、だっけ? 君は仲間の過ちを止めると言った。
    ではもし、君の仲間が殺人衝動を抑えられなくなったら、君はどうする? 」

    急な落雷のように、その問いは投げかけられた。
    谷ケ崎は一瞬悩んだ後に

    「………捕まえて、腕と脚を折るか?
    それができなきゃ、俺相手に衝動を発散させる。俺は簡単に殺されはしねぇ。
    俺の血を見て満足できるなら、肉ぐらいは切らせてやる。」

    「……伊吹、それ私を想定しています? おっかない事を考えますねぇ〜。
    私は君を切り刻んだりなんてしませんよ。  もうできない 」

    最後の一言はほとんど聞き取れなかったが、質問者の寂雷は「ふむ…… 」と唸った後に
    「私は、彼らに協力しても良いと考えます 」
    と口火を切った。

    するとホッとしたように一郎が
    「俺は寂雷さんに賛成っス!!! 」
    と勢いよく答える。
    その様子を見た左馬刻も「……しゃ〜ねぇなあ 」と小声で呟くが、慌てたように乱数が

    「いやいや匿うって、誰のところに?! ボクのところに4人はムリだよっ?!! 」


    結局、TDD4人の家や事務所に、D4をそれぞれ1人ずつ匿うことになった。
    真っ先に一郎が
    「谷ケ崎はうち来いよ!! 」
    と誘い、直後に乱数が
    「りんどーサンはウチとかどうかな? かな? 」
    と燐童の腕を取った。

    (「他の奴らに素性をバラされないよう確保したな…… 」)
    「らむだクン、よろしくお願いしまーす♪ 」
    本人たち以外にはキラキラと見えるやり取りで、2人の行き先が決まった。

    残る2人は、時空院がカッ!と目を見開いて寂雷をガン見していたので、
    内心、根負けした寂雷が
    「この男は危険なので私が引き取りましょう。……ええと、名前を教えていただいても? 」
    と声をかけ、
    「………ッ、時空院丞武と……申しま………す…………!! 」
    時空院は名前を覚えられてしまった歓喜なのか悲嘆なのかわからない感情のまま、震える声でうやうやしく一礼し、唇を噛みしめながら手を顔に当ててよろめいた。

    それを少し引いた目で一瞥した有馬は左馬刻に向き直り
    「……つー訳で、俺はアンタの世話になるってことかァ……?
    有馬正弦だ。迷惑かけねーように大人しくしてっからヨロシク頼むわ 」

    「人を撃っといて『迷惑かけねーからヨロシク』たぁ、逆になんも言う気が失せるぜ…… 」
    そんな会話とともに、各々の行き場が決まった。

    連絡を取りたい場合はTDDを介してやり取りをすること等を取り決めた。
    通信傍受の回避でもあり、D4同士が良からぬ企みを起こさないようにする措置でもある。


    「……衢くん? そう、いまは飴村くんの事務所でね……、ああ、こちらは大丈夫。
    それで、急なんだが西日本の有力チームの偵察、頼まれてくれないか?
    本来は今日行くはずだったが、我々は皆都合が悪くなってしまってね……。
    ああ、準備ができたなら今日出発してくれても構わない。
    ……君は本当によくやってくれて助かるよ。」

    急いで電話をかけた寂雷は、通話後
    (「衢くんがまさか最終の新幹線で現地へ向かってくれるとは……、やる気が有るのは本当に素晴らしいが、前のめりすぎる姿勢は少し不安にもなってしまいますね……。
    まあ今回で言えば、衢くんのいる家にこの男を連れていくのは些か不安でしたから、彼のやる気に助けられましたが……。」)
    と、密かに安堵した。

    この時の不安は遠くない将来に的中してしまうのだが……、それは別の話。




    【その1:飴村乱数の事務所に滞在する阿久根燐童】


    脚や腹を負傷した一郎と左馬刻、そして燐童を除くD4の3人は、寂雷が車で送って行くことになった。
    TDDの4人と衢の全員が乗れるよう、最近ミニバンを購入したばかりだったが、まさかこんな用途で役に立つとは……、と寂雷は呟き、
    「飴村くんも気をつけて 」
    と、顔を寄せ低く短く囁いてから、乱数の事務所を出て行った。

    残された乱数と燐童は、とりあえずリビングを一緒に片付け、買い置きのアイスティーを飲んで一息ついた。そしてしばしの沈黙後、

    「……ラップアビリティーとはなんだ? キミは持っているのか? 」

    と燐童が問いかけた。乱数は意外そうに答える。

    「センパイにも知らないことがあるんだ〜? 」
    「真面目に答えろ……! 」

    「……ま、だいたい察してるんだろーけど、ヒプノシスマイクの通常ダメージ以外にも、使用者の特性に応じたトリッキーな効果を生み出せる能力、って感じだな……。
    まだアビリティーが発現したヤツはほとんどいないが、おれの開発sy…プロデューサーみたいなヤツは
    『ヒプノシスマイクが世の中に溢れそこかしらでバトルが行われりゃぁ、音波の影響を受けるヤツも増え、この数ヶ月ぐらいでアビリティー持ちがわんさか増えるんじゃねぇーの? 』
    とか言ってたよ……。
    実際、おれのチームメイトはいつ発現してもおかしくない状態だ 」

    乱数が『プロデューサー』とやらの口真似をした時、どこかでそのしゃべり方を耳にしたような気もして少し引っかかったが、それよりも今はラップアビリティーの情報を集めたくて、燐童は話の続きを急かした。

    「で、おれのアビリティーは “幻惑” の効果だ。相手を惑わせ混乱させる……、受けてみるか? 」

    危険な提案だったが、一度その効果を経験しなければ推し量れないと考え、燐童は苦々しく頷いた。


    ………眩い光、めくるめく色の氾濫、視覚情報だけで脳がどうにかなりそうな空間で
    燐童の眼前に黒いモヤが現れ、それは徐々に人のカタチとなった。

    ーーー金に目が眩み、自分を中王区へ売った養父母。
    ーーー瀕死の大怪我を負いながらも危険な仕事を完遂した自分に、「ヘマをしたわね」と冷たく一瞥した中王区幹部と、ねぎらいの言葉を期待してしまっていた、若き日の甘い自分自身。
    ーーー刑務所送りを告げながら、取り乱す自分を憐れみの目で見る、自分より若そうな幹部候補。

    そして

    『おめェ〜みたいな甘ちゃんは足手まといなんだよッ!! 』
    『君のごとき策略家、世の中には吐いて捨てるほどいますのでねぇ…… 』
    『なんでお前がここにいる?! 俺たちを都合よく利用していたクソ野郎が……ッ! 』


    「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!! 
    嘘だっ!! アイツらはっ!!! アイツらは違うッッ!!!!!!!!! 
    はぁ、はぁ……っ!! 」


    絶叫して一瞬気が遠のいた後、気がつけば元の事務所にいた。

    「センパイすごいね〜〜!! 自力で打ち破った人、うちのチームメイト以外で初かも♪ 」
    「………ふっっっっざけんな!!!! ろくでもないモン見せやがって……!! 」

    息を荒げて不快感をぶつける燐童に、乱数は声を低めて告げる。

    「おれはあんたが何を見たか知らない。
    あんたが『見たくないもの 』を、真実も嘘もごちゃ混ぜで見えるようにしただけだ 」

    それを聞いて燐童は、もう認めざるを得なかった。
    そうか、あれが 『オレが見たくないもの』 ってことかーーーー。


    「嫌らしい能力とでも思った? 」
    「……いや? 逃げるには最適な能力だな。攻撃特化よりも汎用性がある 」

    からかう気配はなく、きわめて真面目な顔で燐童は答えた。

    (「……アビリティーはどうすれば発現する?
    3日後に検問を突破しても、オレたちが逃げ続けるためには
    戦闘能力だけではない、プラスアルファの能力ちからが必要だ ーーー 」)

    燐童は乱数のアビリティーや、D4を中王区から逃した謎の男が発した効果を思い浮かべていた。
    今後、追手の数が増せば自分の人心掌握術や4人の戦闘能力だけではどうにもならないだろうし、
    もし追手がアビリティーを持っていたら、今の4人のスキルでは太刀打ちできない……。


    「アビリティーを手に入れたいなら、ヒプノシスマイクで戦い続けるしかないんじゃないかなぁ…… 」
    燐童の懊悩を察したように乱数は呟く。

    「それにしてもセンパイ、短い間に変わったよね。うん 」
    「おかげさまで………、ってとこかな 」

    燐童はすっかりぬるくなったアイスティーをすする。
    ぬるい飲み物の方が、喉の乾きが潤っていく気がした。


    ……オレは、正直ひとりで逃げるつもりだった。でもアイツらが来た。
    『まだ戦えるだろぉッ?! 』って、オレの実力を認めてくれていた。共に闘おうと集ってくれた。
    だから、見捨てることも見捨てられることも、もうゴメンだ。
    オレたちは4人で力を得る。もうこの手から何もこぼれ落ちないように………。



    それから3日間、燐童はなぜか乱数の仕事を手伝っていた。
    乱数は急なオーダーメードの発注が入ったとかで慌ただしくなり、スケッチブックを前にうんうん迷っていたので、
    「こっちがいいんじゃないか? でもここはこうした方がいいと思うけど 」
    と横から口を出したのがきっかけだった。


    「センパイのこと別に好きじゃないけど〜、センパイのセンスは好きかもーー⭐︎ 」
    「前半が余計なんだよっ! 」

    基本のデザインが固まってから、型紙をおこしたり仮縫いをしたり、元が器用な燐童は一通りの作業をこなしていた。
    手作業だけでなく、乱数が配色や布地、バランス感などで悩んだ時にアドバイスを求められ、深く考えずに答えていた結果、乱数のイメージにフィットする作品ができつつあるらしい。


    「しかしキミは、毒々しいぐらいカラフルな服を作るのに、自分の服は真っ白なんだね 」

    2人で作業をしつつ他愛もない会話を交わす流れで、ふと燐童が問いかけた。

    「……ああこれは、作業着みたいなもんだ 」

    「なるほど、中王区の皆様方が好きそうな服ってことか。わかるよ。
    ……まあオレも、実際にはけっこう男っぽい顔なんだが、フワフワ素材やパステルカラーで可愛らしく見せて、周りを油断させ利用してきたようなとこもあるからな 」

    「自分で言っちゃう? さすりんパイセン〜〜ー 」

    「キミはもっとビビッドなイメージだけどね。鮮やかで明るいのに食えなそうな 」

    そう言って手元の端切れをヒラヒラさせ、彩度の高いターコイズブルーの布を揺らした。
    舞い踊る布を見て乱数は思う。

    今度、あの生地で服を作ってみようかな。

    鮮やかな水色をたっぷりまとった自分を想像したら、今までの無彩色な自分よりもキラキラしていて、
    それだけで世界が少し面白くなった気がした。




    【その2:碧棺左馬刻の事務所に滞在する有馬正弦】


    「てめーら! 今日はもう帰れや。んあと、明日から3日ぐらいは事務所閉めっから、家で休んどけ! 」
    事務所にいた部下達を問答無用で追い出し、周囲の人払いを確認してから、左馬刻は客人を呼び寄せた。

    「けっこーイイ事務所かまえてんだなァ…… 」
    「ジロジロ見てんじゃねぇぞ 」

    年頃の妹が家にいることもあり、自宅へ匿うなんて選択肢は一切存在せず、左馬刻は有馬を事務所へと連れて行った。

    「この奥に仮眠室があっからよぉ、そこで寝泊まりしてろや。
    1日1回食料持って様子見にくっから、見つかんねぇよーに潜んでろ。
    テレビも音や光漏れるから使うんじゃねーぞ! 」

    「オイオイ! なんだそりゃ暇すぎんだろォ!せめてPCとかねぇのかよ!! 」

    そう言われた左馬刻は「PCか…… 」と呟いたかと思うと、戸棚からノートパソコンを取り出した。
    それなりに新しいモデルで、まァ使えそうだなと有馬が思ったのも束の間

    「これ開くパスワードわかんねぇんだわ 」

    と、左馬刻は衝撃的なことを言い出した。

    「はァ!? じゃあどーやって使うんだよ! 」

    「知るかよ。前にいたヤツ……、がこれ使ってたんだが、パスワードも残さねぇでいっちまったからなあ……。どうせ暇だろ? いろいろ試してみろや 」

    その後も有馬は何やら文句を言っていたが、左馬刻は無視して事務所を後にした。


    翌日、食料やタバコを買い込んで事務所を訪れた左馬刻は
    「……なんか、妙にキレイになってんな 」
    と、事務所の異変に気付いた。

    肝心の有馬の姿は見当たらないが、まあここだろうと、仮眠室の扉をノックする。

    「おー、生きてるか〜? 」

    あー、みたいな声が聞こえたので、扉を開き中へ入ると、有馬がパソコンで何やら作業をしていた。

    「あぁ?! 使えてんじゃねーか! 」
    「いや……、パスワード『samatoki 』だったんだが………、これなら設定しない方がマシってレベルのダメなヤツじゃねェ? 」
    「……簓の野郎ォ、そんなパスワードにしてやがったのかよ……! 」

    どうやらそのPCは、以前に左馬刻が組んでいた『Mad Comic Dialogue 』のチームメイトだった白膠木簓が使っていたものらしい。

    「いや、適当に『まさかこれはねェだろ』と思って打ったワードで開いたのはマジびびったぜ……。お前んとこ、セキュリティー大丈夫か? 」
    「うちの事務所、PC使えるような頭持ってるヤツいねぇからな 」
    「オイオイ別の意味で大丈夫じゃねェな!! なんでPC買った? 」

    それを聞いた左馬刻は少し神妙な顔で言った。

    「いや、前にいた簓ってやつが、これで経理や事務関連の仕事やってくれてたから…… 」
    「なるほど、確かに経理ソフトとか入ってンな。先月分から更新されてねェが 」
    「おい! なに勝手に探ってんだ!! 」

    声を荒げた左馬刻を制するように、有馬は下から覗き込んで尋ねる。
    「まァ〜そう言うなって、なんなら使い方教えてやろうか? 」
    思ってもない提案に対し怪訝な顔をする左馬刻に
    「……暇なんだよ。暇すぎて掃除とかしちまったし 」
    と有馬は答えた。

    結局、左馬刻はPCの使い方や経理関連を有馬から教えてもらうことにした。
    事務所を臨時休業にしたので基本暇だったし、ずっと簓に任せていた仕事も溜まっていて、そろそろどうにかしなければならないとは思っていたからだ。

    「しかし、テメェにこんな知識があるとはなぁ…… 」
    「一応、商業高校しょーぎょー入って、最初は真面目にやってたンでな 」
    「……入った、けど出てはいない、ってヤツか? 」
    「まァ、そういうこったな 」
    「………ま、中学中退よりはマシかもな 」

    早くから尖ってたんだなァ。そんな軽口を叩く有馬に、
    そんなんじゃねーよと、左馬刻は昔の事を語った。


    ーーー左馬刻が中学に入学するかしないかの頃、第三次世界大戦が終結した。
    それから間もなく、志願兵として戦地へ赴いていた父親が帰ってきたが、
    父は戦時下の過酷な環境で精神を蝕まれ、家族に暴力を振るうようになっていた。
    (噂では、軍隊内での抑圧が父を変えたとも言われていた。)

    そしてある日、父の暴力から子ども達を守ろうとした母は、
    ほぼ正当防衛といっていい経緯で父の命を奪ってしまう。
    だが、警察が母に求刑したのは「故意の殺人」という罪状だった。

    父の豹変で精神を病んでいた母もまた、冤罪のショックと疲れで自ら命を絶ってしまう。
    それからが、残された兄妹にとっての地獄だった。

    「自殺したのは罪悪感があったからだ。つまり夫を殺したのは事故ではなく、明確な殺意だ。」
    世間はそう判断し、兄妹を「戦場帰りの夫を殺した残虐な毒婦の子」と言って後ろ指を指した。
    家の壁には、誹謗中傷や卑猥な落書きが日に日に増えていった。

    そしてある日、左馬刻は家の壁に真っ赤なペンキで書かれた
    「毒婦の娘、未使用! 早いもの勝ち!! 」
    という落書きを目にした。

    ーーーこれ以上ここにいたら、合歓に何があるかわからない!
    それからすぐに、母が残した当面の生活費と貴金属をありったけ持ち、
    左馬刻は妹を連れて、当時の横浜と書かれた地の郊外から副都心線に乗って北上し、
    主要駅の中では最も遠く離れた池袋で降りたのだった。


    「……暴走する正義ってのは、ヤクザや愚連隊よりよっぽどタチが悪いぜ。
    軍や警察は特に、正義の名の下に権力をかざす分どうしようもねえ……! 」

    苦々しく呟く左馬刻の前に、スッと淹れたてのコーヒーと灰皿が差し出された。

    「今日のパソコン教室は終了だ。ヤニでも吸って気楽になれよ 」
    「俺の事務所なのに、ずいぶん我が物顔だよなあ…… 」

    それでも、肺に満ちるニコチンと鼻腔から脳へ回るカフェインが、
    今はいつも以上に心地よく感じた。



    2日目の昼、左馬刻はなんと一郎を連れて事務所へ来た。
    撃たれた後を寂雷の病院で診てもらった後、同じ目的で来ていた一郎と会ったので、一緒にイケブクロへ戻りつつ、一郎に
    「今なら無料でパソコン教えてもらえるぜ 」
    などと言って誘ったらしい。

    「春あたりから萬屋を営業しようと思ってるんで、こういうの教えてもらえるの、すげぇ助かるっす! 」

    屈託の無い笑顔と素直な態度で、一郎はしっかりメモをとり、わからない箇所があればつど質問を投げてきた。
    左馬刻は、それを横からふんふんと見ている。それに気付いた有馬は

    (「コイツ……! 自分では上手く質問したり、礼を言ったりできねェから、そういうのを山田一郎にやらせてやがる………!! 」)

    と気が付いたが、一郎の前でそれを指摘するのはやめてあげた。


    「夕飯の支度があるんで、そろそろ帰らせてもらいます! 今日はあざっした!! 」

    そう言って一郎は勢いよく事務所を出て行った。
    アイツんちに谷ケ崎がいて一緒に夕飯食べてんだよなァ……
    などと有馬が思っていると、背後でガサゴソと音が聞こえ、
    振り返ると左馬刻が、机の上に酒やツマミを並べていた。


    「……サシで酒呑んで煙草吸ってダベんの、久しぶりな気ィするわ 」
    「今のチームでやりゃあイイじゃねェか 」
    「ちょっとノリが違うんだよな。先生は呑まねえし、一郎は未成年だし、乱数は同年代には思えねぇし、
    まあそれはそれで、面白ぇけどな 」

    2人は1人1個灰皿を置いて、アルコールメインのツマミがタバコ、ごくたまに乾き物、という煤けた呑み会をしていた。

    「てゆーか、俺が聞くのもなんだが、今日病院行って腹の具合診てもらったんだよなァ?
    どーだったんだ? 」
    「順調に回復してたぜ。酒呑んでいいとは言われなかったけどな 」
    「……化けモンかよ 」

    そんな会話をしつつダラダラしていると、左馬刻が

    「俺は、人に縁がねえ人生なんかな、とかたまに思っちまう。
    親が最悪なカタチでいなくなって、こんな風に過ごしてたダチも去って 」

    酒が回ったのか、今のダウナーな雰囲気に飲まれたのか、急に左馬刻が弱音を吐いた。

    「はァ? オマエにゃ妹がいるんだろ? 肉親や、生きてる仲間がいるだけイイじゃねぇか。
    ……それを言ったら、オレの方がよっぽど人に縁が無い人生だぜ 」

    有馬が素っ気なく語ったのは、幼少期に自分以外の家族が死に、
    隣の家の女性が親代わりに育ててくれたが、その人も戦後のドサクサで発生した
    愚連隊同士の抗争に巻き込まれ、あっけなく命を落としたとのことだった。

    「……あの人は結構年上だったけど、もしも家族とか……、まァなんでもいいが
    そういう存在になれたらと思って、あの頃は早く一人前になりたかった。
    だから、資格とか取れるようなガッコー入って、早く、とにかく早く自分の時間を進めて
    俺は永遠の絆みたいのを紡ごうとしていた。

    でもあの人が殺されて、俺は気が付いたら愚連隊のヤツらを皆殺しにしていた。
    そこから年少送りになり、転がるように落ちていく人生ってヤツだ…… 」

    暑くなったのか、有馬はいつの間にか上着を脱いでいた。

    「でもよ、あのとき散々憎んだ愚連隊って人種と、俺は今酒を呑んでる。
    ……だから逆に考えりゃいいんだ。世の中に永遠なんざ無ぇ。そう考えるのが1番楽だ。
    オメェが昨日ろくでもねぇーっつった軍や警察とだって、
    そのうち一杯やる日が来るかもしれねェ〜ぜ……… 」

    最後の方は呂律が回らず、言い終わると同時に有馬はソファに突っ伏して寝てしまった。

    永遠なんか無い、そんな事をコイツは言っていたが、実はまだ探してるんじゃなかろうか。
    酒で朦朧とする意識のなか、向かいのソファで寝落ちする寸前に、
    有馬の背中に隠されていた鮮やかな翼を視界に捉えながら、左馬刻はなんとなく思った。




    【その3:神宮寺寂雷邸に滞在する時空院丞武(ほぼドライブ)】


    一郎たち4人をイケブクロにある住居や事務所に送り届けてから、寂雷は自宅のあるシンジュクへと車を走らせた。……時空院丞武を乗せて。

    背後から襲われないよう助手席へ移動してもらったが、横から強い視線を感じて寂雷は気まずい気分だった。しかし特に話すこともないので放置していると、

    「はァ、はァ、……ッぅはァ! 」

    と奇妙な声が聞こえたので、顔は向けずに声をかけた。
    「……大丈夫ですか? 」

    「………フゥウ、いえ私のことはお気になさらず、いやね? あまりにもイル…貴方の所作が気になってしまい、しばし呼吸するのを忘れて見入ってしまいました……!!
    それにしても、あなたは運転すら動作・視線・姿勢に無駄が無い! 顔をほぼ動かしていないのに背後の視野も把握していますね! 先程のスピード変化、右前方の車の死角にスクーターがいたため、追い越しをかけようとした後方の車を牽制したのでしょう?!
    そして穏やかそうな運転に見えて、遠方の青信号をギリギリでとらえ赤信号を回避していく速度調整テクニックと空間認識能力!! 先程から一度も停止せず走り続けるなど、偶然とは思えません!!!
    ……ハァすみません長々と。しかしこの車、イイ匂いがしますねぇ〜〜〜!!!!! 」

    「あ、はい 」

    神宮寺寂雷はこれまでの生涯で、変わっているように見えても根はマトモな人間と基本かかわってきたため、このような存在とサシで相対することは初めてだった。

    (「こんなとき何を言えばいいんだろうね……。教えて飴村くん……、
    プリーズLESSON……… 」)


    「ところで、飴村乱数の事務所で伊吹を試しましたよね?
    あの答えは、貴方にとって満足いくものでしたか?? 」

    急に隣の男の空気が変わった。
    試したとは、彼らのリーダー格であるらしい谷ケ崎という男に向けて放った

    『…… 君は仲間の過ちを止めると言った。
    ではもし、君の仲間が殺人衝動を抑えられなくなったら、君はどうする? 』

    なる問いのことだろう。


    「……正解・不正解で言うなら『不正解』です。
    模範解答を挙げるなら、そういった衝動に駆られた相手に対しては、身体を拘束したうえで警察などに引き渡し、法に則って然るべき処置を受けさせるべきでしょう。」

    「ほぅ……? ではなぜ『不正解』だった伊吹の答えを聞いて、我々に協力しようと思ったのです? 」

    「正解では無いですが、仲間に寄り添っていると感じました。
    私は昔、友の心に寄り添えず、彼とは疎遠になってしまった。……寄り添う事は私の課題。
    だから谷ケ崎くんの回答は興味深かったし、彼に免じて君達に協力しても良いと思ったのです。

    ……正直、犯人蔵匿罪にあたる可能性があるため、未成年の一郎くんを巻き込みたくはなかったのですが、一郎くんも谷ケ崎くんのことを気にしていましたので…… 」


    彼に向けてというよりは、自分自身に向けたような回答だーー。
    と思いつつも隣を一瞬見ると、時空院は何故か満足そうな顔をしていた。

    「法・倫理・正義………、
    そういった類いは確固たる指標のようで、時のうつろいが如く曖昧なものです。
    『戦場で100万人殺せば英雄だが、街で1人殺せば重罪人』なんて有名な言葉もある。
    結局はその時代で何に価値をおくか、各々が持つ理想の多数決だ。

    ……貴方が伊吹の『不正解』を良しとしたのは、結果的に『理性』より『感情』という本能の発露を選んだようで、個人的には大変好ましいですねぇ〜〜〜!? 」


    この男は何を言いたいのだろう? 抽象的な言い回しで私の本質を暴きたいのだろうか?
    そう思うと若干不愉快にもなり、口調には棘が滲みつつも、
    この誘導には真摯に答えなければと寂雷は思った。

    「それは勘繰りですよ。私の想いは実にシンプル。人のために生きたいだけ。
    ただ、卑劣・非道の輩を『消滅』させる事こそが『人のため』だと思っていた時もあります。
    ……でも、友が去り、人を育てるようになり、昔のような考えはなりを潜めるようになりました。
    怒りの激情に打ち克つための『理性』、それは大切な人に対する『情』から生まれる気もするのです。
    それを谷ケ崎くんにも感じました。

    不思議ですね。理性と感情は真逆に在るのに。
    それでも、貴方の言う『本能』とは似て非なるものですよ。

    利発で素直な我が子……と言っていいのかな?
    彼を引き取って育てた日々が、私に多くのものを与え、教えてくれたように思います 」


    普段誰かに話すような会話では無いが、衢や仲間と過ごした日々の暖かさをあらためて噛み締めながら、寂雷は自身を分析した。

    (「そんなのは綺麗事だとこの男は思うだろうか?
    まあそれで失望してくれるなら、それでもいい 」)

    そう思っていたが、返ってきた答えは予想外のものだった。

    「利発とは言えないが素直で真っ直ぐな子も、利発だけど素直じゃない子も、とにかく素直じゃない子も、すべからく可愛いものですけどねぇ〜〜〜!!!! フフフ 」

    と言ってから、ハァーーーー!! と大きく息を吐いて

    「もぉ! わかってしまいそうになる!!
    しかし!! それをわかってしまう自分には違和感しか無いので!!! 難しいテーマなのだよ!!!!
    貴方は!とっくに咀嚼しているのでしょうけど!!!!! 」

    「言っていることがよくわかりませんが、あなたは仲間に情を抱きつつあるのでは? 」

    それを聞いた途端、時空院は黙って遠くを見つめはじめてしまった。

    「味方への情に厚く、それ以外にはドライなの、軍人あるあるですね 」

    寂雷のわかりにくいフォローは、風に消えた。


    奇妙な時間を過ごしながら、2人はシンジュクの神宮寺邸に到着した。
    (「こんな疲れるドライブはこれっきりにしたいものだ………。
    いやまた3日後、彼らが合流する際にドライブせざるをえないのか。つらい。」)
    そう思いつつ、寂雷は車をガレージに入れた。

    「庭の端に来客用の離れがあるので、貴方にはそちらに滞在いただく予定です 」
    「離れとは、正直安堵しました! ひとつ屋根の下はさすがに近いのでね!! 」
    (スルー)「洗面所とお手洗いはありますが浴室は無いので、入浴時だけは母屋へお越しください 」

    「ふあッ!? イルドックが普段入っているのと同じ浴室???!!!!
    近い近い近ァーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!
    貴方が普段使っているシャンプーとかボディーソープとか知ってしまうの、ちょっとどうすればいいんですかねぇーーーーーーー???!!!!! 」

    「なら、別の浴室を用意しますので 」
    「は? 用意できるだと?? 」
    「どっちなんですか 」

    結局、時空院は寂雷が普段使っている特注の大きな湯船の浴室を使った。
    (寂雷もめんどくさくなった)
    客人の後に浴室へ入ると、甘い香りがフワリ漂っていて、寂雷は少しイラッとした。


    翌日は勤務日だったため、離れに1日分の食料と大量の本(洋書・哲学書・医学書・植物辞典・画集・歴史書・育児書・釣りの指南書・小説・雑学・詩集・マンガ等ごちゃ混ぜ)を置いて、寂雷は病院へ赴いた。
    (「ブッダと火の鳥も置いてきましたが、読みますかねあの人…… 」)



    「おかえりなさァーーぃイルドック!!
    生クリームにしますか?! マヌカハニーにしますか?!
    それとも、コ・ン・デ・ン・ス・ミ・ル・ク?!!! 」

    「ぜんぶ要りません 」


    匿ってから2日目の夜、時空院は悪い意味で寂雷に慣れてしまっていた。
    1日目はまだ離れで大人しく過ごしていたが、大量の本も全て読み尽くしてしまったと語り、
    「それでは別の本を用意しましょう」と言うと、

    「千冊の本を読むより、貴方と一晩語り合う方が有益に思えますがねぇ……!
    よろしければ本日、厨房をお貸しいただけませんか? ささやかなお礼の晩餐をご用意したいのですが…… 」

    寂雷はつかれていたので承諾した。
    その日は幸い急患や手術なども無く、自宅が心配なこともあって早めに帰宅した。
    翌日の彼らが発つ3日目はちょうど予定休だったので、2日目の今日を無事に乗り切れば
    我が家の平穏は保たれるはずだった。


    不穏な出迎えの言葉に塩対応をしてからリビングへ行くと、予想に反してまともな料理が並べられていた。
    匂いを嗅いでみるが、毒物らしい気配は無い。
    最も時空院のような男が毒殺のような手段をとるとは考えにくかったので、警戒をしつつも晩餐の席に着くことにした。

    逆に不安になるぐらい、食事の席は和やかに進んだ。
    寂雷は内心、
    「普通に世間話ができるなら、あの地獄ドライブの時にそのコミュ力を発揮してくれれば良かったのに…… 」
    などと思いつつも、そこは触れずに完食すると、
    「ここからがメインディッシュですよ!! 」
    と言って、時空院はふるふるなケーキを持ってきた。

    「ほう……、これは美味しそうですね 」
    寂雷の目に興味深さの光が宿る。
    「限りなく液体に近い個体と言っていいでしょう! 極限までふわとろを極めたスフレケーキです♪ 」

    ブラックコーヒーとハニーカフェラテを淹れ、ケーキをひと口頬張る。その瞬間、

    「……ぅ! このケーキはもしかして………!! 」
    「隠し味に “はちみつ酒” を入れましたよ♪ おいしいでしょう〜〜〜〜!!! 」

    「う゛ぃッ!!? 」


    ……ドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコ……

    「おや? 太鼓のような音がしますねぇ……… 」

    その音は、大きなダイニングテーブルの向かい側に座る、目が据わって明らかに様子の変わった男から発せられていた。

    「太鼓ではなく、イルドックの心音……だと??! 」

    「………あ〜〜ん????!!!!
    なーーーァんじゃぁテメェわあっっっ??!!!!!!!! 」

    これまでの穏やかさは消え、ギラリ光る眼力とドス黒いオーラを放ち、口調はなぜか江戸っ子と化した寂雷が、ユラリと立ち上がった。

    「……出ましたね! 数多の伝説の中でもレア度最高峰と言われる、
    通称、『宵闇のイルドック』!!!!
    残虐性・暴虐性が増し凶悪狂気の権化まさに魔王と、嗜好者イルオタ界隈で語り継がれるあのーーー! 」

    「てやんでぇ!!! だぁ〜〜〜ーれが『酔いどれイルドック』じゃあ!!
    こんのドグサレがぁーーーーーーッッッッッ!!!!!!!! 」

    そう叫ぶより早く、泥酔寂雷は時空院の背後へ縮地し、羽交い締めしつつ関節をキメた。

    「グヴァッ!!! ……ふ、ふりほどけないッッッッ!!??? 」

    なんの躊躇もない、圧倒的な腕力の開放がそこにあった。
    時空院はリアルに “死” を意識した。


    (「最早これまでか……!? だが、イルドックの手で召されるなら本望………!! フフフ…… 」)

    時空院がメメント・モリした瞬間、走馬灯のように3人の仲間の顔が浮かんだ。

    (「……しかし、私がいなくなったら誰が伊吹の爪をお手入れしたり、機嫌の悪い有馬くんを糖分で癒したり、燐童くんに他愛もないイジワルをするんですか………?
    あ、いま脳内燐童くんが『しなくていいです。すんな! 』って言いましたねぇ!! フフッ……! 」)

    「フッッ!!! 」

    瞬時に関節を外しながら、時空院は寂雷の腕から逃れ、関節を戻しつつ間合いをとった。

    「ハハハハァ!! 素晴らしいですよイルドック!!!
    鬼神のごときその動き! 私が会いたかっt グヒャアーーッ!!!!!! 」

    臨戦態勢でナイフを構えた時空院の手首を、「がしぃっ!!!! 」と叫びながら
    再縮地した寂雷のフルパワー手刀が襲い、すっ飛んだナイフは天井に刺さった。

    「今夜朝までバトルじゃああああああーーーーッッッ!!!!!!!
    パイルドライバー・デンジャラスコンボ・ジャイアントスイングゥゥゥッ!!!!!!!! 」

    「ぎゃあああああーーーーーーーーッッ!!!!!!!(ボグラゲヴォッツ!!)
    死にそうですが! 私はいまッ!!(バキッ) 腹の底から生を実感しているッッッ!!!(ゴキッ!)
    ハァァッ!!(メギッ!)生きているって素晴らしいィィィィィイですねぇ〜!!!!!!
    (バゴッ!!)でも私はまだ!!!
    彼らと逃げるまでは死ねませんのでぇぇーーー(グニッ)
    !!!!!あっヴァーーーーーーーーッッッッい!!!!!!!!!!!!!! 」


    翌朝気がつくと、寂雷はリビングのソファで寝ていた。
    時空院は安らかな微笑みを浮かべながら転がっており、よく見ると指先の床には白い液体で「イルドック」とダイイングメッセージが書かれていた。

    その後意識を取り戻した時空院は、
    「……何があったのでしょう? 」と聞いてきた寂雷に、詳細は省いて言った。

    「イルドック、あなたは不思議ですねぇ〜〜。
    白も黒も混ざりあって曖昧模糊とした状態こそ、あなたの『色』なのかもしれません…… 」




    【その4:山田家に滞在する谷ケ崎伊吹】


    「………ッ!! 」
    「大丈夫か山田一郎!? 肩を貸すぞ 」
    「じゃあ階段のぼる時だけ頼むわ。すまねぇ 」

    先の戦いで脚を撃たれた一郎だったが、大きな筋や骨は外れていたようで、中王区から逃れた後に寂雷の応急処置を受けてからは、力を入れると痛みはあるが、歩けるぐらいには回復していた。

    シブヤから寂雷の車で一郎の家の前まで送ってもらい、「ここだ」と言われたときは
    「ビル………? 」
    と驚いた谷ケ崎だったが

    「ここは左馬刻さんが世話してくれた家でさ……!
    兄弟3人で狭いとこ住んでたから、格安で広いとこあるぞって紹介してくれて…… 」
    「……兄弟がいるのか 」

    と、会話の興味は家から一郎の家族に移った。

    「ああ、弟が2人いるんだ 」

    谷ケ崎の兄のことを思うと、それ以上何を言っていいかわからない一郎だったが、

    「気にするな。兄さんのことでもうお前を恨んだりはしてねぇよ 」

    と言われ、谷ケ崎の気遣いに内心感謝した。

    「あーそうだ、弟もいるし俺のことフルネームで呼ぶの変に思われるからやめとけよ。
    まあ、あいつらもう寝てるかもしれねぇけど 」
    「それより、弟がいるのに俺が行ってもいいのか? 」
    「もともと施設暮らしだったし、いろんなヤツと過ごすのは慣れてるから気にすんな! 」
    「……それはお前の気持ちで、弟の気持ちじゃねぇだろ。1番上ってのはそういうとこあるよな…… 」

    谷ケ崎が世の第1子全般に対する愚痴を呟いたころには、2階にある住居への入り口前に着き、一郎は「ただいま! 」と威勢のいい声でドアを開けた。


    「あ……、おかえり兄ちゃん! ……ってあれ? 」
    「おかえりなさ……… その人は? 」

    中には一郎と似た少年が2人いて、当然ながら谷ケ崎に対して驚きの表情を向ける。

    「お前ら起きてたか。……あーー、先に連絡できなくてすまねぇな。
    こいつは谷ケ崎伊吹! 訳あって3日ほどうちで泊まってもらうことになった。
    突然で悪ぃがよろしくな! 」
    「谷ケ崎だ。……突然すまないが、迷惑はかけないようにするのでよろしくたのむ…… 」

    こういった状況に慣れていない谷ケ崎は、乱数の事務所で有馬が言っていた文句を真似して、ぎごちなく挨拶をした。

    「谷ケ崎! こっちが上の弟の二郎で、こっちは三郎だ。ほら挨拶! 」
    「……じ、二郎です! こんばんわ!! 」
    「山田三郎です。兄がいつもお世話になっています 」

    殺そうとしたのに匿ってもらって、世話になってるのはこっちだけどな………。
    そう思いつつも、谷ケ崎は奇妙なことに気が付いた。

    「………あ〜と、お茶とかいれようか? 兄ちゃん? 」
    「自分でやるから大丈夫だ。お前らこそ早く寝ろよ! 」
    「……お客様用の布団とか、ありましたっけ? 」
    「う〜〜ん、寝袋があったっけなあ………。まあこっちで何とかすっから! 」

    (「なんか………、よそよそしくねぇか? 」)


    「たまにダチが来たとき使ってた寝袋しかなくて悪ィんだけど……、
    明日は俺の布団干しとくから、今日だけこっち使ってくれねぇか? 」

    一郎の部屋に通され、寝床(寝袋)を用意された際、谷ケ崎は先ほどの違和感について尋ねた。

    「お前ら兄弟3人で生きてきたんだよな? なんか遠慮がちに見えたのは気のせいか?
    特にお前と下の2人との間が……、ちょっとぎこちなく感じたっつーか…… 」

    それを聞いた一郎は
    「……その辺だが、お前にはちゃんと話したいなって思ってたんだ 」
    と、これまでの経緯を語り出した。

    ーーー養護施設の園長に騙された挙句、反社組織へ組み込まれ、弟や施設の子ども達のためだと思って、非合法な仕事もしてきたこと。
    ーーーそれが原因で弟達からは長らく嫌われ、最近誤解も解けたが、まだ少し溝があること。
    ーーー今は反社組織から足を洗い、様々なバイトをしながら生計を立て、高校卒業後は「萬屋ヤマダ」という個人事業を立ち上げようとしていること。
    など……。

    「……だからさ、お前が死んだ兄貴のこと『クズだった』って言ったとき、けっこうキツかったなぁ 」

    谷ケ崎は黙ってうつむいた。一郎にも兄にも、なんとも言えない申し訳なさを感じた。
    そして、一郎の弟達のためにも、あのとき一郎を殺さなくて良かったと改めて思いつつ、
    ふと、昔から考えていた疑問を問いかけた。

    「一郎、お前はなんで弟達を見捨てなかったんだ? 」
    「え? 」

    「俺の兄さんは、周りの人間に借金をしまくって、それを返せないから友人や知り合いもどんどんいなくなって、しまいには誰も助けてくれなくなった。
    なのに、何の助けにもならないようなガキの俺をなぜ見捨てなかったんだろうと、たまに思っちまうんだ。
    ……今となっては意味のねぇ疑問だけどな 」

    「……なんでだろうな、俺にもよくわかんねえよ。
    でも、あいつらにどんなに嫌われても、2人がいることが俺の心の支えだった。
    それだけなんだよな……… 」

    「………… 」

    「あと俺は、運が良かったんだ。強いダチができて、そのおかげで強く頼れる大人と知り合って、
    ……ダチとは離れちまったけど、そういう人との縁が無ければ俺も、お前の兄貴と同じ道をたどったかもしれねぇ 」

    「強いダチができたのは、お前も同じぐらい強かったからじゃねぇか?
    俺の兄さんは、強いわけでもなくて、不器用で、口下手で、先のことを考える頭もなくて、
    ………でも、俺には優しい人だった 」

    そう言ったあと、不意に谷ケ崎の両眼から涙がボロボロとこぼれた。
    もっと、兄を助けることができたんじゃないか。
    助けられなくても、感謝を伝えたり、心配したり、ちょっとした行動で
    兄が死なない道もあったかもしれないーーー。

    急に目の前が暗くなり、頭から大きなタオルをかけられたことに気付いた。

    「……俺は風呂入ってくるから、その、思いっきり泣いちまえよ 」

    そう言って一郎は部屋を出て行った。
    思えば、兄が死んでから借金の始末や現実的なことに追われ、泣く暇も無かった。
    犯罪に手を染め収監されてからは、心が麻痺してしまい、怒りの炎を燃やすことでしか自分を保てなかった。
    谷ケ崎はタオルに顔をうずめ、搾り出すように嗚咽した。


    その後、風呂を借りてから一郎の部屋に戻ると、
    「やっちまった………! 」
    と、手帳を見ながら頭を抱えている一郎がいた。

    「……どうしたんだ? 」
    「あーー、バイトと試験がブッキングしちまっていてな……… 」

    卒業後すぐに萬屋の経営を始めるべく、高3の自由登校期間を利用して仕事に役立ちそうな免許や資格を取りつつ、並行して、生活の糧を得るためのバイトをしている一郎だったが、明日の工事現場のバイトと、資格試験の日時が被っていることに気付いたとのことだった。

    「バイトを休むしかねえか、でも給与のいいとこだし、何より迷惑かけたくねえな…… 」
    「俺が代わりにバイトへ行こうか? 」
    「へっ? 」

    突然の提案に、一郎は思わず顔を上げた。

    「工事現場のバイトならやったことがある。世話になるからな。宿代がわりだ。
    ……つーか、その足で工事現場は厳しいだろ 」

    「それもそーか……。それに、あの親方さんなら頼めば融通してくれるかもな 」
    「親方さん? 」

    「今の現場の監督なんだが、情に厚くて話がわかるんだ!
    普段は下町エリアで働いてる大工らしいから、みんな『親方さん』って呼んでる。
    前の現場監督が色々あって、急遽代理としてイケブクロへ出張してきたらしいんだが、
    最初は『なーんで学生がこんなキツイ仕事やってんだっ!! 』って怒られたけど、事情を話したらわかってくれてさぁ。
    普通なら素性を明かせないお前が働くのは難しいだろうが、親方さんなら、ちゃんと話せば雇ってくれるかもしれねぇ 」


    翌朝、早い時間に『親方さん』へ連絡を取り、一郎は谷ケ崎を連れて、作業開始前の現場事務所へと赴いた。
    確かに、監督というよりは親方さんと呼ばれる方が似合いそうな、にっかりと笑う職人風の男がいた。
    江戸っ子らしい巻き舌で小気味よく質問を投げてくるが、その眼の奥には自分の本質を見抜こうとする鋭い眼差しが宿っており、谷ケ崎の背筋には緊張が走った。
    それでも真摯に受け答えをした甲斐があり、今日明日と谷ケ崎は一郎の代わりに働くこととなった。


    バイトが終わる時間に、一郎が現場へと迎えに来たので、2人は共に家路を辿った。
    「仕事大丈夫だったか?! 」
    「ああ、そんなに複雑な仕事は振られなかったし、親方さんも色々良くしてくれたからな……。お前の言うとおり、いい人だった 」

    「そうか! 良かったぜ。
    ……なんつーか、あの人は『仕事ってのはこうやってやるんだぜ! 』って、態度で教えてくれてる気がするんだよな。
    あんな風に気持ち良く笑って、でも意見をぶつけるとこはぶつけて、縁と心をつないでいくのが大事なんだぜ!! って……! 」

    一郎は、近い将来に向けた具体的なビジョンや、個人経営者としての振る舞い方を吸収して、未来へ向けて歩んでいた。
    その姿は谷ケ崎には眩しくもあり、同時に、萬屋の経営は上手くいくだろうな。と安堵もした。


    次の日も谷ケ崎は現場で働いた。実は昨日、鳶職も顔負けな働きを見せていたため、今日は最初から高度な作業を任され、親方をはじめとした現場の人間に頼られながら熱心に働いた。
    だが午後の休憩後、急に天候が悪化し、
    「今日の仕事は終ぇだ! 安全第一でいかねえとな! 」
    と、親方の一言で業務は終了となった。

    「あの……、」
    「おうどうした?! 給料なら心配すんな! ちゃんと予定どおり1日分と、それにお前さんはイイ働きっぷりだったから、イロ付けて払っとくからよ!! 」
    「ど、どうもありがとうございます……! いやそのことを言いに来たんじゃなくて……、
    この2日間、お世話になりました……!! 」

    谷ケ崎は親方に深々と頭を下げて、現場を後にした。


    稲妻と土砂降りが鳴り響くなか、山田家のあるビルに1人で戻った谷ケ崎は
    そういえばどうやって入ろう……! と途方にくれていたが、
    タイミングよく、悪天候を避けて早めに夕刊配達を終えた二郎と三郎が戻ったので、一緒に屋内へ入ることができた。

    一郎はこの日、撃たれた足の経過を診てもらいに寂雷の病院へ行っているはずだった。
    まだ帰っていなかったので、一郎が昨日のように工事現場へ自分を迎えに来たら悪いと思った谷ケ崎は、
    スマホを持っていなかったため、二郎に一郎への連絡を頼んだ。


    「いまどきスマホを持ってないなんて、谷ケ崎さんって変わってますね 」

    その様子を見た三郎から、急な問いかけが放たれた。

    「……そ〜言えばそうだよなぁ。なあ谷ケ崎さんって、兄ちゃんとどういう関係なんだ? 」

    二郎からも素朴な疑問を投げられる。


    谷ケ崎はしばし沈黙した。
    確かに彼らからすれば、急に兄が連れてきた自分は明らかに不審な存在で、何者かを知ろうとするのは当たり前だ。

    それらしい嘘で誤魔化そうか、しかし昨日から今日までに2人と関わった限り、三郎はかなり頭が切れることや、二郎も直感が鋭いことを感じていたので、下手なことを言うよりは……、と考えた谷ケ崎は

    「俺は脱獄囚で、一郎を殺そうとしていたんだ 」

    と真実を告げた。
    窓の外で一際大きい雷鳴が轟いた。


    衝撃的な内容に、二郎と三郎の動きが止まった。
    さすがに言葉が強すぎたと、谷ケ崎は急いで言葉を続ける。

    「もちろん、今はそんなつもりはない。そもそも、俺が勝手に逆恨みしていただけだ 」

    そして谷ケ崎は一郎に語ったのと同様に、自分の兄が命を落とした経緯や、その後の転落人生を語り、
    同時に、一昨日の夜に一郎が語った
    『あいつらにどんなに嫌われても、2人がいることが俺の心の支えだった。』
    という言葉を伝えた。


    「……なあ、俺が今、何を後悔しているかわかるか? 」

    二郎と三郎は微かに顔を横に振った。

    「すげぇ単純なことなんだがよ……、兄さんともっと仲良くしとけばよかったなあ。って、いまさら、本当にいまさら思ってるんだ 」

    「仲良く………ですか? 」

    予想していた答えと違ったらしく、三郎が聞き返した。

    「正直、ある時期から兄さんのダメな面ばかり目についてた。
    だから段々と、兄さんへの態度が冷たくなってたと思う。
    ……でも、兄さんが死んだとき、まるで自分の片腕をもがれたような気持ちになった 」

    それを聞いた二郎は、思わず自分の片腕を押さえた。

    「そのとき気付いたんだ。兄さんは『つらい』とか『苦しい』とか、
    俺には全然言わなかったなって。
    もっと仲良くしてたら、ケンカしたり愚痴言いあったりして、嫌なとこも全部見せ合って、そしたら、兄さんの体調変化もすぐに気が付けたのかな………。ってさ 」

    「……兄ちゃんが弱音吐いたとこ、見たことないかもな 」
    二郎が声をかけ、三郎は黙って頷く。

    「だからお前らも、もっとワガママ言って、兄貴とケンカして、それでいいんだよ。
    ……すぐには無理だろうけどな 」


    余計なお節介をしたかもしれない。自分が言わなくたって、この兄弟の間にある溝は
    自然と埋まったかもしれない。そう谷ケ崎は思ったが、
    それでも、同じ “弟” という立場から、何かしら言わずにはいられなかった。

    「あ、あの!! 」

    ずっと黙っていた三郎が叫んだ。

    「僕は……、ワガママとか言うの、あまり慣れて無くて………、
    だから、練習させてくれませんか?! 」

    ……練習?? 谷ケ崎は思わず首をかしげる。

    「なに言ってんだよ三郎?! 」
    「僕らは3人だ。もし自分以外の2人を失ったら、両腕を失ったようなつらさを感じるなんて、そんなの耐えられないよ……… 」

    ……怖がらせ過ぎてしまっただろうか。
    少し責任を感じた谷ケ崎は、練習とやらに付き合うことにした。


    「ただいま! 遅くなってすまねえな!! 病院で左馬刻さんに会ったり色々あって……
    って、なにやってんだお前ら!? 」

    一郎の目に入ったのは、二郎・三郎が谷ケ崎と一緒に台所に立つ姿だった。

    「おかえりなさい一兄! 」
    「兄ちゃんおかえり! 今イブキと夕飯作ってて、もうすぐできっから! 」
    「……おかえり、今夜はサバ味噌だ 」

    「お、おう 」
    弟達と谷ケ崎の急接近に戸惑いつつも、サバ味噌と聞いて、一郎の胃は急に空腹を覚えた。

    「つーか米はまだ炊けねぇのか? 」
    「そーいえば遅いよな〜。……って、スイッチ入ってねーじゃん!! 」
    「なんだって?! 二郎! お米洗ったらすぐスイッチ入れろって前も言っただろ!? 」
    「米といだのはオレじゃねーよ!! といだのは…… 」
    「……俺だ 」

    恐る恐る谷ケ崎が申し出た。そんな谷ケ崎に対し、二郎と三郎は遠慮なく文句を言った。
    それが練習だとは知らない一郎は、ずっと頭の上にハテナが浮かんでいた。

    結局、その日は米が炊けるまでの1時間ほど、
    4人で腹をグーグー鳴らしながら、人生ゲームをして遊んだ。




    【再集結、そして】


    3日目の夜、東都北西にある一級河川の河原に、TDDとD4、そして二郎と三郎を含む10人が集まった。
    2つの車がそれぞれの住居や事務所から人を乗せ、人目の無い場所を選んで落ち合うようにしたのだ。

    「弟くんたちが来るのは珍しいね? 」
    「あー、谷ケ崎ができれば一緒にって言ったみたいでさ。アイツら結構仲良くなったみたいで 」

    寂雷の車には山田家三兄弟と谷ケ崎・時空院が乗っていた。他の4人は謎の男にもらった車に同乗し、別途合流したのだった。

    後から来たハイエースから有馬と燐童が降りて来た時、谷ケ崎は思わず駆け寄った。

    「オイオイどーしたんだよ谷ケ崎ィ! 元気いっぱいじゃねぇか!! 」
    「上手く言えねぇが、久々だなぁって…… 」
    「3日しか経ってないんですよ!? どーしちゃったんです谷ケ崎さん 」

    「伊吹はお2人に会えてうれしいんですよ! それぐらい察したまえ! 」
    谷ケ崎の後から、時空院は足腰を若干引き摺るようにして、のたのた物憂げに歩いてきた。
    「そう言う時空院さんは、あまり元気じゃなさそうですね……? 」

    「……まあこれは、めくるめく恍惚の夜の代償、と言ったところでしょうかねぇ…… 」
    「えっ 」
    「マジ引くわ…… 」
    「爛れてますね。谷ケ崎さん近寄らない方がいいですよ 」
    「皆さん何か誤解してませんかぁ〜〜?!! 」

    そういえば脱獄後、移動も寝食も時間を共に過ごし、別行動で動くこともあったが、下手すれば身内よりも濃い時間を共有してきたのだ。こんなにも長く別々だったのは初めてかもしれない。
    と、口には出さないが4人はそれぞれ思った。

    燐童と有馬が別ルートでそれぞれ情報収集をして共有した結果、謎の男の情報どおり、この日の夕方から検問は撤去され、警備態勢も緩和されたのは確かなようだ。

    「よォし! じゃあとっとと行くか。東都から離れた中王区の管理体制が薄い地方になァ……! 」
    「ああ、だが少しだけ待ってくれ 」

    そう言うと谷ケ崎は、一郎に歩み寄った。

    「一郎ォ! もう一度俺と闘ってくれないか!! 」

    そう言って、マイクを目の前に掲げた。


    「オイオイなに言ってやがんだ!! ンなことしてる暇も意味もねーだろ! 」
    「……すまねぇ有馬、これは俺の自己満足っつーか、俺が納得したいだけなんだ 」

    そう言って谷ケ崎は再び一郎に向き直る。

    「これから俺たちは旅立ち、そして多分、2度とお前に会うことは無ぇだろうと思う。
    だからこそ……、この前の戦い、俺はアレを最後にしたくねぇ!
    すべてをオマエのせいにして、ガキみてぇに喚いてた言葉残して前に進めねぇんだ!! 」

    「谷ケ崎ィ!! 望むところだぜ! お前はアレで終わるようなヤツじゃねえ!! 」

    そう言って一郎もマイクを掲げた。
    もうこうなっては誰も止められないだろうと、2人以外は成り行きを見守ることにした。


    谷ケ崎が先攻のヴァースを放つ。
    マイクの炎が、これまでにない鮮やかな真紅に耀いた。
    力強くシンプルなリリックを増幅する背後のスピーカーからは鎖が消え、
    代わりに銀色の焔にも見える光が、集合体スピーカーを繋いでいた。

    対する一郎も、テクニカルな韻よりも力強さを重視した、ハートに拳をぶつけるようなリリックで応える。
    1ヴァースでもその威力は凄まじく、正面から受けた谷ケ崎の身体がふらつく。

    「うわぁ……! 兄ちゃんかっけぇなあ〜〜!! 」
    「いち兄、芸術的です………!!! 」

    これまでは事件に巻き込まれた時、犯人に向けた怒りのバトルしか見たことがなかった二郎と三郎は、初めて観るポジティブなバトルでの一郎に憧れの眼差しを向けていた。

    それを見た寂雷は、もしかしたら谷ケ崎という青年は、一郎くんの闘う姿を彼らに見せるため誘ったのかもしれないな。とも思った。


    何ヴァースかの攻防を経て、再び谷ケ崎の攻撃になる。これまでは一郎が優勢の流れだ。
    だがその時、構えたマイクから火花が飛び散り、谷ケ崎から低音の響きにも似た衝撃が放たれた。
    直後、谷ケ崎は自身の身体が軽くなり、力が漲るの感じた。
    しかも、D4の他3人にも同じ効果が現れ、時空院は泥酔寂雷との戦いで負った身体の倦怠感が消えた。

    「……あれは、ラップアビリティー?! 」
    乱数が小さく叫ぶのを、燐童は耳聡く聞いた。
    その後に谷ケ崎が放ったラップは、明らかに先ほどより威力が増し、攻撃を受けた一郎は思わず膝を突きそうになった。

    だが、次の一郎の攻撃でも、先ほどの谷ケ崎のように、いや更に強く、
    一郎のマイクから火花が煌めき、そして一郎は『会心の一撃』という名前がぴったりな、強力な攻撃を放った。

    普通の人間なら意識を刈り取られたであろう一撃だが、谷ケ崎は目にも止まらぬ速さで直撃を避けた。
    しかし、僅かにかすった攻撃にバランスを崩され、そのまま膝をついた。

    「勝者、一郎!」

    と左馬刻が勝敗を告げ、そしてすかさず

    「一郎スゴイ! 今のなんだかわかる? アビリティーが発現したよ!! 」

    と乱数が一郎に抱きつき、それを見た二郎と三郎はカチン!ときた。


    「アビリティー? 」
    何のことかわからずポカンとする一郎だったが、自分と対戦相手に何かが起きたのは感じているようだった。
    また、谷ケ崎の動きを見た寂雷は、

    「人間は通常、肉体や精神を限界まで使わないようにリミッターをかけていて、故に通常は自身の能力の30%ほどしか引き出せないと言われています。
    ……途中からの彼の動き、まるでリミッターを外したような状態でしたね 」

    とコメントした。それを聞いた時空院は
    (「お酒を呑んだ貴方みたいですね! 」)と、心の中でツッコんだ。


    ……これはチャンスだ!

    燐童は、谷ケ崎のアビリティーがチームメイトにも影響を与え、いま自分達もリミッターが外れた状態だろうと分析した。
    この状態で闘えば、自分達にもアビリティーが発現するのでは?!
    そう考えた直後に

    「The Dirty Dawg の皆さん! 僕たち3人とも再戦していただけませんか!! 」
    と、闘いを申し込んでいた。



    その様子を、ある男が遠くから見ていた。

    「フゥ、一郎もようやくアビリティーを手に入れたか。
    まっ、アイツらしい能力だな。
    それに、一郎が発現させた瞬間を見たなら、二郎と三郎も近いうちに覚醒させるかもなァ。
    せいぜい楽しみに見守らせてもらうぜ……! 」

    夜の風が、黒いファーコートを重々しく揺らした。





    「………なんで僕のアビリティーが、こんな使いにくい能力なんだ!!! 」
    「確かに使いこなすのは容易ではないですが、陽動作戦にはもってこいではないかな? 」
    「あァーー、どんなクソ能力でも使いどころはあるとかなんとか、マンガで見たわ…… 」
    「それはジョジョですか? それとも吸死?? 毛根飛ばすぞ!!!! 」


    数時間前ーーー、
    燐童の提案でTDDと再度バトルをしたD4は、めでたく全員ラップアビリティーを発現した。
    同時に、既に発現済みの乱数と一郎に続き、左馬刻と寂雷もアビリティーを目覚めさせたのだった。

    有馬は敵の視界を一定時間奪う能力だったので、
    (「逃走に役立つアビリティー、来た〜!! 」)
    と、燐童は内心ガッツポーズを決めた。

    有馬は対戦相手の左馬刻にその能力を使い、自分の姿を捉えられない左馬刻をつかず離れずいたぶっていたが、左馬刻がブチ切れてアビリティーを発現させ、倍返しと言っていいカウンターをキメられて倒れた。


    時空院は、相手の血糖値を急激に下げて体調不良にするという、極悪アビリティーが発現した。
    対戦相手の寂雷は、脱力感・思考力の低下・意識朦朧などの症状に苦しみながらも、彼自身のアビリティーを発現し、
    しかもそれが回復系ラップだったので、時空院による状態異常は秒で回復したうえに、お叱りラップでトドメを刺して戦闘終了となった。

    そのアビリティーを見た燐童は、戦闘系ではあるが、どうにも強い敵に行く手を阻まれた際には足止めもできるため、それなりに使えるかもしれないと思った。


    そしていよいよ燐童の番になった。
    自分だけアビリティーが発現しなかったらどうしよう……。
    と少し不安になりつつも、乱数との再戦に挑む。


    戦闘中、明らかに今までと違う感覚を覚えた。
    脳内に閃光が走り、マイクが一瞬火花を散らして、自身から波動が放たれたーーー!
    ………が、見た目的には何も変化が感じられなかった。

    何かが起こっている感覚は感じる、だが何が起こっているのかわからない……!
    乱数も怪訝そうにこちらを見ている、いや、周囲にいる全員がこちらを不自然に注視していた。

    「すみません! 確認したい事があるので、4対4で対戦をあらためてもらえませんか?! 」


    燐童の提案を聞き入れ、TDDとD4はチーム全員で向かい合った。

    「僕から行きますね! 」
    そう叫んで燐童はマイクを起動させ、アビリティーを発動させる。
    すると、その後TDDの攻撃や視線が、自分だけに向くのを感じた。

    「やっぱり……、これは、『僕だけに集中』しているッ!!!! 」

    TDD4人の攻撃が一斉に集中するのを間一髪で避けた。その直後、
    自分の前に谷ケ崎・有馬・時空院が燐童をかばうように立ち、
    3人は一人一殺の構えで、一郎・左馬刻・寂雷に攻撃ラップをぶつけた。

    谷ケ崎たち3人にまるで気付いていなかったかのような一郎達は、ノーガードでモロに攻撃を受けたため、思わず全員が膝をついた。

    最後に残った乱数はそれを見て
    「こーさん降参〜〜〜! さっきまで戦ってたのに1対4でなんてムリだよーーー!! 」
    と、すぐに白旗を上げた。

    バトル後TDDに確認したところ、燐童のアビリティーは次のような効果を与えていることがわかった。

    「うまく言えないんスけど、対戦相手が1人しかいないような気分になっちまったっていうか…… 」
    「アイツをヤりゃあ全部終わる! ……ってな感覚になって、他3人は見えてんのに見えねぇ感じだったわ。防御もロクにできなかったぜ…… 」
    「通常であれば、1人相手に複数で攻撃するような外道の真似はしないのですが、これもアビリティーの効果なのでしょうか……? 彼に攻撃を集中しようとしてしまいましたね…… 」
    「3人におなじーーー☆! 」



    「……つまり、燐童以外のチームメイトはそこにいても存在がわからなくなるのか。石ころ帽子の逆効果ってことだな 」
    谷ケ崎がやっと納得したように頷く。
    「谷ケ崎さん、ドラえもんは知っているんですね 」

    いま彼らは、東都の北西方面へと車を走らせている。
    TDDとのバトルでアビリティーを発現した後、あっさりとした別れの言葉を交わして、
    D4は中王区の監視の目が薄くなる、首都圏エリアの外を目指し旅立った。


    車内のレーダーに映る赤い光は、3日前に比べると4分の1ほどに減っていたが、それでも主要道路には密度高く光っていたので、ルートを慎重に選んで下道を進む。

    そんな車内で、燐童はラップアビリティーの存在を3人に説明し、
    その流れで自分の能力の使い難さを嘆いていたのだった。


    「みなさんはいいですよね! 単独行動でもそこそこ使える能力で!!
    僕は単独行動だったら全然使えないし、そうじゃなくても自分だけ狙われるの、怖すぎません?!! 」
    「それはおっかねェなア〜〜 」
    「使いどころは限られると言っていいかもしれませんねぇ 」

    「だが、アイツらに勝ったのは燐童のアビリティーがあったからだ。
    もっとお前は自分の力を誇っていいんじゃねぇか?
    ……あれは4人だから勝てたんだ 」

    谷ケ崎の言葉に燐童は顔を上げた。
    そう、例えユルい再戦とは言え、自分達はあの「The Dirty Dawg 」に挑んで勝利したのだ。

    「……ああもう! ってことはつまり!! 僕と組んだら上手くやれるってことなんで!!
    みなさんはこれからも僕の仲間でいてくれるってことなんですかね?!!!! 」


    キレ気味に叫んだ直後、自分の早口な必死さに気付いて燐童の顔には血がのぼったが、
    間髪入れずに谷ケ崎が
    「そうだな! 」
    と笑い、時空院は
    「ロイヤルゼリー入りガムシロップ飲みます?? 」
    と、誓いの盃のように小瓶を差し出し、運転席の有馬は

    「おめェら見ろ! 首都圏脱出だぜ!! 」

    といつになく弾んだ声で叫び、思わずそちらを見ると、
    いつのまにか有馬は上着を脱いで、背中の不死鳥を仲間に見せつけていた。





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