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    usowafu

    hpstのD4に囚われてしまい、妄想を吐き出すためにポイピク作ってしまいました。
    (腐ってないかな?と判断した妄想はここにも上げてます。腐った何かは別所に……。)

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    usowafu

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    よんのひタグを付けようかと思ってたけど、そこそこアレな感じになったので(全く大したことはないが)間に合わなくて良かった気もする。

    #D4

    甘え人に甘える、ということが苦手だった。
    不慣れと言っても良いかもしれない。

    物心ついた時には親は無く、唯一の家族である兄は、自分の世話を最低限みてはくれたが、一般的な男兄弟の関係としてそこまでベッタリしたものでは無かったし、自分に対しては早く自立して手がかからないようになってほしいといった雰囲気だったので、寄りかかるような依存はしてこなかった。
    (もちろん、兄もまた支えが必要であったろう若い内から、幼い自分を何とかして成人まで育ててくれたことには感謝しかなく、甘える雰囲気が無かったことを、微塵も不満に思ってなどはいない )

    友人・恋人・少し勤めたまともな働き口の同僚……等も、表層的または刹那的な関係の相手ばかりだったので、甘えるような精神的関係性にはならなかった。

    また、過去の人間関係ではなんだかんだ虚勢を張っていたことが多かった。
    「舐められたら餌食になる 」
    そんな階層で生きていたら、弱点をさらすような態度を取れるだろうか?

    そう、ずっと弱さを誰かに預けるなんて
    思いもしなかった。



    『【速報】第2回D.R.B Championship Tournament、優勝はイケブクロ・ディビジョン、Buster Bros 』

    H歴3年、何度目かの脱獄を経て、諸々の依頼や闇バトルなどをこなしつつ日々を何とか生き抜いてきたD4は、昨日まで取り掛かっていた大仕事の疲れを癒すべく、隠れ家でゆるりと過ごしていた。

    夕飯の後、数年前に話題になったとかいう映画が放送されるということで、そのまま4人は居間でテレビを見ていたところ、突然ブザーのような甲高い音が画面から鳴り響き、前述のような速報のテロップが流れた。

    その内容に、思わず4人の動きが固まる。
    燐童がタブレットを開き、トレンドニュースを選ぶと、抱き合って喜ぶ三兄弟の動画が流れた。
    4人はもう、映画の内容など忘れていた。


    「ハッ、偉そうなこと言って、結局勝ててねェじゃねーかアイツ 」

    有馬が誰宛でもなく独り言を吐く。
    「負けた」とは言わなかったのは、TDD時代に相対した男への餞か。

    決勝チームにシブヤ・シンジュクが入らなかったせいか、時空院と燐童はそこまで興が乗らない様子で、バトルやアビリティについて感想戦を繰り広げていた。

    そんな中、イケブクロに関するニュースやSNS投稿をうつろげに眺めていた谷ケ崎は、急に立ち上がり

    「ちょっと、散歩してくる 」

    そう言って部屋から出て行った。



    アジトを出ると、まだ冬と春の間の、月もない冷え冷えとした曇天だった。
    頬を生温く切る冷気に、どうせならもっと痛いほどに切りつけてくれればいい。とさえ思いつつ、人気のない木立に沿ってあてもなく歩いた。

    ……兄弟と喜び合う山田一郎を見て、決してネガティブな感情ではなく、かと言ってポジティブとも言えず、……あえて近いものを挙げるとしたら焦燥感だろうか。

    自分でも上手くつかみ取れないような、捻れた気持ちを抱きながら、
    いっそ数km先にある川まで走ろうか………。
    そんな事を考えていたら、ふいに背後から

    「イーブキーーー!!! 」

    と、普段より甲高く自分を呼ぶ声がした。

    谷ケ崎が立ち止まると、微妙に上擦った声に一瞬の安堵が宿った。
    しかし、万が一自分を心配して後をつけてきたのだとしても、
    「今は独りでいたい気分なんだ 」
    そう言って追い返そうかと後ろを向いた瞬間

    「ヴァ! 」

    いつのまにか真後ろに距離を詰めていた時空院は、素っ頓狂な声と共に着ていた黒いコートをバサっと広げ、谷ケ崎を漆黒に包み込んだ。

    「丞武……、おまえなにしt 」
    「イブキ! 騙されたと思って私の言うとおりにしてみてくださぁい! 君は今から、自分の足で立ってはいけません!! 」

    言葉を遮るテンションの彼を止めるのはほぼ無理だと、短くも濃密な付き合いから悟った谷ケ崎は、しぶしぶと相手の要求に従った。

    「……もっとわかるように話せ。逆立ちしろとでも言うのか? 」
    「んーー、いま君は筋肉や骨に何かしらの力を入れて立っていますよね?! それらを全て脱力し、身体のどこにも重心をかけず、軟体動物のように私へもたれかかればよろしぃ 」

    彼の言うことは意味がわからない事が多いが、今言われた言葉は何重にも輪をかけて意味不明で、それゆえに谷ケ崎は考えることを諦め、指示されるがままに、コートの中で時空院の肩に顎を乗せ、腕は軽く相手の身体に回すも力は入れず、ダラリと全身を弛緩させて身をまかせた。

    もしこれがタチの悪いイタズラで、丞武が自分を支えずに身をかわしたら、受け身もとれずに地面に倒れ込むかもしれないが、まあ、それはそれでいいかーーー。

    などとも思ったが、そんな悪い予想は当たらず、ただただ全身を支えられ受け止められていた。

    あらゆる力を入れずに浮遊しているような感覚と、その分の自重を彼が全て引き受け支えている状態、それは彼の真意を言葉よりも雄弁に伝えている気がした。

    「イブキ! どうです?まるで月にいるような気持ちになりませんか?? 」

    「なんで月? 今日は曇っていて見えねえよ 」

    「 “Fly me to the moon” ……月が見えない夜だからこそ、心の中で月まで飛んでいくのも一興ではないかな?」

    「ああそれ、『私を月まで連れていって』だっけ? 要は女から誘ってるんだろ? 」

    「ブハッ! イブキあなた!! 全く浪漫が無いですねぇーーーー!!!! 」

    「兄さんが昔そんなこと言ってた。まあエロ本とかの受け売りなんだろうけどな 」


    そんな会話を交わしながらも、漆黒の闇のようなコートの中で、谷ケ崎は月面を軽々と飛び跳ねる想像をしていた。
    そこは寒くて何もなくて、荒涼としたクレーターの淵に立ちながら頭上の青い星を見上げていたら、誰かに後ろから

    「地球が綺麗ですねぇ 」

    と声をかけられた気がした。


    月は地球から見るからこそ美しく、
    そのまた逆に、月から見れば地球こそ美しいのだ。


    「……でもねぇ、月へ飛んでも地獄へ堕ちても、たぶん素敵でしょうね。愛する人と一緒なら 」

    「え? なんだって?
    ……ちょっと意識飛んでて聞いてなかった 」

    「イブキぃ…… 」

    顔は見えないが、少し唇を尖らせて拗ねる時空院の表情が目に浮かんだ。
    その次の瞬間、急に身体が持ち上げられ、真上に放り投げられた。

    「は?! 」

    宙に浮いたのはたかだか数十センチなので、すぐに落下し、その途中で再び時空院が受け止め、今度は完全に足がつかない位置で抱きかかえられた。

    「おい、なにやってんだ! いい加減にしろ 」

    「イヤですぅー!! この体勢なら君は完全に私に身体を預けるしかないので、そのままリラックスしてくださぁい! 」

    なんだかよくわからない理屈だが、先ほどは知らず知らずのうちに自分の足へ体重を移していたのかもしれない。
    もう彼の気が済むまで好きにさせておこうと思った谷ケ崎は、無駄な抵抗はせず、腕を相手の首に回してもたれると、それが正解だったのか、時空院は満足そうな様子で話しかけてきた。

    「ねぇイブキ、私はいつも君に甘えているのだから、君だって私に甘えていいんですよ 」


    「甘えてる自覚あったんだな……、」

    そんな呟きとは裏腹に、
    「急にそんなこと言われても……、どうすりゃいいんだ 」
    と、途方に暮れる気持ちがあった。

    「丞武は、俺が甘えれば気が済むのか? 」

    「まあ、そうとも言えます。ただ私は事象を求めているのでは無い。イブキ、あなたが抱えているものを分け与えてほしいのです! 」

    痺れを切らしたのか、時空院は率直に伝えてきた。
    正直、自分の中のモヤモヤを伝えたいとは思わない。
    それでも、少しずつ整理されてきた感情に向き合おうと、谷ケ崎はポツポツと語った。


    「……俺は、お前らと出会えて良かったと思ってるし、共に進むことを後悔なんてしていない。俺なりに前を向いてると思ってる 」

    「はぁい 」

    「だから山田一郎達に対して、妬ましいとか羨ましいなんて思ってない。だが手放しで喜んでいるとかでもない 」

    「なるほど 」

    「なんか、更に遠くへ行かれちまったような、よくわかんねえ気分になって……… 」

    それ以上に意味のある言葉は出てこなかった。
    時空院は途中から相槌も打たず、ずしりと身体にかかる谷ケ崎の重みを楽しむかのように身体を軽く揺らしながら、少し考えて言った。

    「……君は山田一郎という男を認めているのでしょう。だからその高みを知らず知らずに目指しているのかもしれない。それが間違っているとは言わない。
    だが、彼とは舞台が違うのです。君は君の道で強者となるしかない 」

    「………… 」

    「ねぇイブキ! いっそ2人で泣きます?? 」

    「……なんでそうなる? 」

    「さっき言ったでしょう? 君はもっと甘えるべきですよ! 泣いたり叫んだり殴ったり、大体の事は受け止めてあげますから安心してください!! 」

    「そんなんガラじゃねえし、無理に泣けねぇよ 」

    時空院の提案を却下しながらも、みっともなさとか、弱さとか、そんな部分すらもコイツは「甘さ」として摂取するのかと気付いた途端、丞武らしいなと少し可笑しくなった。


    「……とりあえず、今日は帰るか。下ろしてくれ 」

    手放された身体を起こし、重心を自分の身体に戻す。急に重力の存在を感じ、まるで地球に戻ってきたような気持ちになった。


    「せっかくですし、コンビニでも寄ってスゥィーツなど買って帰りませんかあ? 」

    「丞武が食いたいだけだろ……。でもまあ、アイツらにも心配かけたんだろうから、何か買ってくか 」

    そんな軽口を叩きながら、人家のある方向へと2人は歩き出した。



    「……そうだ、せっかくだから一つ甘えてもいいか? 」

    「いいですよ? 何です〜?!」

    「俺より先に死なないでほしい。だから糖分は控えてくれ。できる限りでいいから 」

    それを聞いた時空院は、何とも言えない渋い顔をしたとかなんとか。






     
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