黒い双眸のお前〈設定〉
女体化鬼灯様の白鬼
あらすじ
白澤様に番を作ることを認めた天帝。番を作ることを認めてくれた白澤は,とても浮かれていた。然し,それは女の襲来の狼煙であったのだ。
といった感じで始まる,鬼灯様とのシリアスありのラブストーリー
内容的には,女恐怖症に陥った白澤様にかつ入れる強つよにょた灯が見たかった。
〈書きたいところ〉
ことの始まりは,天帝の一言だった。
「神獣白澤,そなたに「番」を作ることを認める。」
直,相手は自分で選べ,ただし一度決めたら番は覆せないと思え。
この,知らせは中華天国ひいては日本地獄その他の常世にしらされた。
白澤は,天帝に告げられたことに浮かれていたが,天帝の言葉(おそらく西王母も含む)の真の意味も理解していた。
まあ,言ってしまえば
『番作るの許すから,女遊びやめて早く儂らに孫見せろ』
ということだろう。
だが,もう一度言おう。この時白澤は浮かれていたのだ。
なんせ,何億年という長い年月を一人で過ごしてきた白澤は,唯一を作るどころか,自身の特別ともいえる存在を苦手としていたのだ。
何せ,白澤の周りの者が白澤を置いて逝ってしまうからだ。
だから,番を作ることに浮かれる。それは,白澤とともにおそらく星が朽ちるまで一生過ごしてくれる人を作ることができるのだ。浮かれないことが可笑しい。
故に,白澤にとって一緒に生きてくれる唯一を作るチャンスでもあるのだ。
そして,そのチャンスは白澤以外にもまたとないものとなっていたことをこの時は難しく考えていなかったのだ。
日本地獄に,いや閻魔庁第一補佐官である鬼灯にその噂が届いたのは,白澤が中華天国から帰ってきて一か月以上のことだった。
この一か月,鬼灯は忙しくしていたのだ。
現世で大きな事故が起こり,亡者の裁判に追われていたのだ。
故に,白澤に番ができる噂が届いたのは,不喜処地獄の獄卒シロが久方ぶりに閻魔庁に来た時に知ったのだ。
「え,白澤君に番ができるの?」
「うん,一か月前くらいに桃太郎にあって聞いたんだ!」
とシロは尻尾を振りながら答えた。
「とうとう,あの白豚にも所帯を持つときが来たのですねぇ。」
と鬼灯は他人事のよう答える。
「でもね,番になるのは一人だけだから,白澤様が選べられるのか心配だって桃太郎言ってたよ?」
「あれはスケコマシですが,中身はただの寂しがりの淫獣ですよ。一生を共にする相手ですからね,慎重に選ぶでしょうし,何よりあいつは吉兆の神獣。番となるには良い相手でもありますし,えり好みできるのではないでしょうか。」
「鬼灯君,白澤君と中悪いよね?なんで,そんなにわかるんだい?」
「あれが,最初に話しかけてきたとき,僕と遊んでよ!って言ってきたんですよ。」
「ええ!?そうなの!」
「そうですよ。お断りしたら,目の前に通った仙女にすぐ声かけていったので,正直引きましたけどね。内心寂しい奴なんだと当時は思いましたよ。」
「まさか,鬼灯君にまで声掛けして多なんて・・・儂初めて知ったよ。」
「おれも」
「まあ,あれに誘われたのはあの一回だったので,あとは皆様が知っての通りですし・・・」
「ふーん。」
「でも,そうですか。道理で,薬の受け渡しを変わるといった女獄卒が多かったわけですね・・・」
そういった鬼灯の表情がどんどんと暗くなっていく。
「ほ・・鬼灯様?」
「いえね。仕事をほっぽり出してまで駄獣に会いに行きたかった。その思いは称賛しましょう。上司に怒られる覚悟でいっているのでしょうから。ですが,仕事をほっぽり出しているんですよね~」
どう調きょ・・・・教育してやろうか。いや,その前に白豚殺す。
という不穏な言葉に,大王とシロは震え上がったのだった。
「まあ,世間話はここまでにして,私は薬を獲りに行ってきますね。」
と言って,鬼灯は閻魔庁を出ていったのだった。
大王は心の中で白澤に祈った。
(ごめんよ。白澤君)
鬼灯は一か月以上振りに桃源郷へと訪れていた。
目的の白豚がいる薬屋へと向かい。扉を勢いよく開けようとしたとき,目の前の扉が勢いよく開いた。
扉を開いたのは,この店の従業員でシロの主人である桃太郎だった。
「桃太郎さん?・・・いったいどうしたんですか?」
扉に立ち尽くした桃太郎は,鬼灯様を見た瞬間目に涙を浮かべたり青ざめたりと世話しなかった。
「ほ,鬼灯さん!?・・・よかった・・・あ,でも・・・」
どこか口ごもる桃太郎に頭を傾ける。隙間から店の中をのぞいてもどうやらあの煩い偶蹄目はいないようだ。ということは,番探しに花街に行っているのだろうか。
「桃太郎さん,とりあえず落ち着きなさい。何があったのですか?」
「白澤様が・・・」
「白豚が?」
またあの偶蹄目は何かやったのか。
しかし,ここまで青ざめ目にも隈が出来ている桃太郎を鬼灯は見たこと無かった。
あやつ,番探しの最中でとんでもないことでもやらしたのか?
「とにかく上がらせていただきますよ?」
「あ,ちょ・・・」
室内に入れば店には作業しているウサギさんたちがいるだけで,肝心のあいつはいなかった。
「それで,あの白豚に何かあったんですか?」
「・・・っ・・・」
よくよく見れば,桃太郎の隈は思った以上に濃く,何を隠しているのか視点が定まらない。しかし,意を決したのか桃太郎は話始めようとした。
「あの,白澤様は・・!」
「桃タロー君?」
桃太郎が話を切り出そうとしたとき,奥の扉から目的の人物が現れた。しかし,その顔はどこか青ざめていて,まるで死にかけのように見えた。
「はくた・・・」
「ヒッ・・・!」
白澤は,鬼灯を一瞥すると青白い顔をさらに青ざめ,どこか震えていた。
「白澤様!落ち着いてください!鬼灯様です!」
桃太郎は,必死に呼びかけるがその場に座り込んで白澤は震えていた。
「白澤さ・・「鬼灯さん,ちょっとま」」
「来るなァ!!!」
倒れそうな白澤の体を支えようと手を伸ばすも,次の瞬間,鬼灯は重りを体に落とされたように床に倒れそうになった。
白澤から,神気が爆発的に放たれたのだ。
「ㇰッ!」
急激な神気によって鬼灯はもちろん,桃太郎やウサギさんたちは苦しそうにその場に横たえる。
かろうじで絶えた鬼灯は,少しずつ白澤へと距離を詰める。
これ以上神気を放ち続ければ桃太郎さんたちも持たないし,何より神獣である白澤も何か体に支障をきたしてしまうかもしれない。
鬼灯は歯を食いしばって匍匐前進で進んでいく。
目の前にいる白澤は,目に焦点があっておらず過呼吸のような呼吸をしていた。おそらく,身体の本能から感じている拒絶反応なのだろう。
「っ・・・白澤さん!」
近づくたびに,白澤の神気は強くなり鬼灯は次第にイライラし始めた。
「・・・っ・・・いい加減にしろ!この偶蹄目!」
苛つきが天元突破した鬼灯は,手に持つ己の愛用の金棒で白澤を殴った。
「い!!!」
ったーい!!!と白澤は金棒に殴られたところを抑えながらゴロゴロと床に転がった。
少々強く殴りすぎたのか頭からは血が出ていた。
「何すんだ!この常闇鬼神!」
「それは,こちらのセリフです。何ですか、急に神気飛ばしやがって・・・!桃太郎さんとウサギさんたちが,あれに耐えきれるわけないでしょうが!」
むしろ感謝してほしいですね。と鬼灯はいう。
白澤は,ふと先程迄自分の身に起きていたことと,後ろで苦し気に息をしながらもたつ桃太郎を見て,また顔を青ざめる。どうやら情緒が不安定になっているらしい。
「ご・・・ごめ」
「あー!あー!大丈夫です!大丈夫ですから,白澤様!」
桃太郎は,また神気が身からあふれ出している白澤を慰めようと前に出たが,鬼灯に止められた。
「鬼灯さん?」
「桃太郎さんは,ウサギさんたちの様子を見てください。」
あれは私がどうにか致します。と言って白澤の前にかがんだ鬼灯は,白澤の両頬に手を当てた。
「白澤さん,わかりますか?あなたの大っ嫌いな常闇鬼神ですよ。・・・そのまま,深く呼吸をしなさい。・・・ほら・・吸って」
鬼灯は,普段の白澤に対する態度ではなく,相手を落ち着かせるように目線を合わせ,深呼吸を促した。
深く呼吸をすることで,落ち着いてきた白澤は,その身からあふれ出した神気を抑えた。
「ふう,これで落ち着きましたね。私が誰かわかりますか?」
「・・・男女鬼神」
次の瞬間,白澤の額にある目に鬼灯の角がクリーンヒットしたことを記述しておこう。
「桃太郎さん,体調はどうですか?」
「だいぶ良くなりました。」
「すみません。忠告していたのに前に出てしまって・・・」
深く御辞宜をした鬼灯に桃太郎は慌てたように答える。
「いえ,俺も最初に言わなかったのが悪いので・・・・!」
「……それで、あの駄獣はなにかしたんですか?」
白澤が物理で気絶……基眠っていることをいいことに鬼灯は、桃太郎に事情を聞くことにした。
「いえ、今回は白澤様は何もしてないんです。」
「あれが?」
「はい。というより……」
桃太郎はことの詳細を詳しく話してきた。
1ヶ月前なんですけど……
『きいてよ!桃タロー君!僕にも番ができるんだって!』
「え!?」
『天帝からお許しを貰ってね!番に選ぶのは僕自身で決めていいんだって!』
『……この人、本当に番を選ぶことが出来るんだろうか……』
と、内心桃太郎は心配していた。
その日からだ。
仙女や天女、果てには鬼女までもが薬屋へと訪れ極楽満月は繁盛していた。
いや、薬は二の次なのだ。その全てが白澤の番になりたいものたちばかりだったのだ。
最初は良かったのだ。白澤様が一人一人相手にしていたので。けれど、日にちが経つにスレ1人から2人2人から5人5人から10人と女性達が増えてゆき、次第に女人同士の争いに発展、そしてそれは白澤にまで被弾が及んだ。
『なぜ、自分を選んでくれない。!』
『私が貴方の唯一だ。』
『私以外ありえない。』
などと、口々に女人たちが言うもんだから白澤様も困ってしまって、その日は追い返すことが出来たんです。
でも、諦めの悪い女人達は白澤様にいいより、更には贈り物を渡したりしてきました。
「贈り物?」
「……小指です……」
鬼灯は顔を顰める。
「…………指切りですか……」
「指切り?」
「まじないのひとつです。昔、遊郭で男女が約束として指を切り送りあっていたものです……」
「ひぇッ…………」
と、とにかく、その日から白澤様ちゃんと寝れてないのか、時々魘されてる声がするんです。
それで、我慢の限界が来ちゃったんでしょうね。女人を見ると少し怖がるようになったんです。
「まぁ、さすがに女好きのアイツも応えたんですね……」
「はい、最初は顔を青ざめつつも対応していたんですけど……今日は、女人たちは集まっていないんですけど、贈り物に髪の毛が入ってそれで臨時休業するつもりだったんです……」
「はぁ〜……なんでしょう、ここまで来るのもはや哀れとしかいえなくなってきますね……」
鬼灯は目頭を抑えてため息をつく
「そうですね……一応、鬼灯さんにもご連絡しようかと思っていたんですけど……」
『地獄は今忙しいからいいよ』
「って、白澤様に止められまして……」
「ったく……このバカは」
鬼灯は、悪態をつきながらも気絶している白澤を見る。その目には濃い隈ができており気絶していてもどこか苦しそうに眉間に皺を寄せている。
(こんな状態でしたら、薬を作るのもままならないですし、何より私が薬を受け取る度に神気を爆発させればこちらのみも持たないし、白豚の身も持たない。何より、私以外のものにも被害が及ぶかもしれない……それに、うちのものにも迷惑をかけられていたらしいですし……)
鬼灯は、腕を組んで考え込んだ。
「鬼灯さん?」
「仕方ありません、こいつの薬がないと地獄にも影響を及ぼしますし、何より桃太郎さんにも迷惑がかかりますからね。」
「ほ、鬼灯さん!」
「それに、うちのものも迷惑をかけたみたいですし、こいつに仮を作るのは嫌ですが代償が代償です。少々あてがございますので、この店に女人が来ることを控えさせるよう取り付けてみますね。女人の多くは仙女が多かったのでしょうか?」
「は、はい。白澤様も西王母様のところの仙女だと仰っていたので」
「わかりました。獄卒の女人はこちらで何とかいたしましょう。」
と言うと鬼灯はカコカコとガラケーをうち携帯を閉じた。
「?」
ポチッとボタンを押し終わりガラケーをしまい込んだ。
「一時的ですが、仙女達のことはどうにかしてもらう様頼みました。」
「え!?」
「ですが、相手も多忙な方なので全てを把握することは無理だと思った方がいいでしょうね。これはあくまで予防のようなもの。仙女達が襲来してこないなんてことは無いと思った方がいいでしょうね。」
「は、はい」
そんなことよりも、仙女達をまとめることができる鬼灯様の知り合いに着いて知りたいと思った桃太郎であった。
「とりあえず、予防線は引いたのでッ」
そう言いながら鬼灯は、白澤を持ち上げ肩に担いだ。
「あ、担ぐなら俺が」
「こんな駄獣なんて軽いもんですよ。それに,桃太郎さんも寝てませんよね?こいつは寝室にぶち込んでおくので,桃太郎さんももうおやすみなさい。」
困難だったら薬も作れないでしょうし・・・と鬼灯はこぼす。
「薬くらいでしたら,俺も作れますし・・・」
「あなたね,隈酷いですよ。それにこいつよりかはましですが,あなたも若干顔が真っ青です。あ,台所お借りしますね。」
「え!?」
「うちの獄卒も迷惑をかけたみたいですし,気づけなかったのにはこちらの落ち度があります。軽いものですが,おかゆか何かを作っておきますね。今日はお休みなさいな。」
「ほおずぎさ・・・!!」
「ほら,涙を拭きなさいな。作っておいておくので後で食べてくださいね。」
「はい”・・・」
鬼灯のお母ん身に心打たれる桃太郎であった。
『休日には,今の仕事は落ち着くと思うので,その時にもう一度様子を伺いに行きますね。』
と桃太郎に宣言した。その翌々日。
鬼灯は桃源郷を走っていた。
鬼灯は,激怒した。彼の淫獣を呵責すために。
ことの発端は,早朝からかけられた桃太郎の電話だ。
「鬼灯さん!今すぐこちらに来れますか!?」
桃太郎の慌てようと,電話越しから聞こえる何か物が壊れる音に状況を察知した鬼灯は,軽い身支度をして自室から出たのだった。
なんでも,崑崙山からやって来た仙女の一人が,勝手に住居に侵入し,白豚の寝室に押し入って夜這いを仕掛けたそう。
鬼灯によって予防線を張られていたのだが,真実の愛だとかなんだとか皆一様に番という言葉に浮かれて罪の意識も薄くなっているのか。
(ほんと,恋も病とよく言いますね・・・)
と鬼灯が呆れながら思うが,思えば原因はアイツが女遊びを続けていたせいで,天帝に目をつけられて番を作ってもよいという,あの大王並みの浮かれたことを言い出してしまったのだ。
つまり,ことの発端の原因はあの駄獣にある。
そう思うと,鬼灯はイライラとしてきたのだ。
桃源郷に近づくにつれ,鬼灯の顔は般若と化していたのだった。
桃源郷に着くと,一人と聞いていた仙女は,数十人にもなっており極楽満月の前で人混みを作っていた。鬼灯は,ますます苛立ちが沸き上がってきた。
誰にって?あの白豚に対してだ。
「失礼,お店に入りたいのですがどけてもらえますか?」
鬼灯は,苛立ちを隠すことなく仙女たちに伝える。
「何?地獄の鬼が穢らわ・・・・ヒッ!」
「よ・ろ・し・い・ですか?」
鬼灯が,盛大に優しく問いかけると,仙女たちはなぜかビビり散らかし,店までの道を開けたのだった。
(フン,所詮は天国の連中ですね。)
鬼灯は,一瞥してそのまま店へと入ったのだった。
「桃太郎さん」
「鬼灯さん!?え、お店の前の女性たちはどうしたんですか?」
あんなに居たのにと,桃太郎は不思議そうに問いかける。
「いえね,店に入りたいと懇切丁寧に伝えたまでですよ。懇切丁寧にね。」
「は,はあ」
それって,脅しなんじゃと桃太郎は心の中で思ったのだった。
「それで,あの駄獣はどこに行ったのですか?」
「今は部屋でこもっています。さっきから,呼び掛けても何にも返事が無くて,かといって,無理に部屋に入るわけにいきませんし,お店がこのような状態ですので,こちらからどうにかしようかと・・・」
「そうですか,桃太郎さんはそのまま作業していてください。私は白豚をどうにか致しましょう。」
「鬼灯さんに任せてしまって申し訳ないです。白澤様とは同性ですけど,あの神気にはどうしても耐え切れなくて。」
「いえ、普通の亡者ならば,消し飛んでいるほどの濃い神気です。桃太郎さんが今のまま入れるのは,桃の加護があるからですよ。けれど,あれが本気で神気をぶちまけば,私も無事ではないでしょうね。」
「じゃ,じゃあやっぱり。俺が部屋に・・・」
「いえ,昨日おとといと、桃太郎さんは休めたでしょけど,まだ本調子ではないでしょう?あいつをどうにかしてきたら私も,こちらの作業をお手伝いいたしますね。」
「鬼灯さん,何から何までありがとうございます。」
「いえいえ,桃太郎さんにはお世話に立っていますし,それに白さんたちに顔向けできませんよ。」
そういって,鬼灯は白澤の寝室に入っていったのだった。
「さて・・・」
鬼灯は部屋に入って目に付いたのは,ベットの上で布団を頭からかぶって丸まっている白豚だった。
僅かに布団が震えているのは,本人が怖がってるからだろう。
鬼灯は,ため息をつきつつ白澤のいるベットへと腰を下ろし,かぶっている布団をはぎ取る。
「ヒッ」
「落ち着きなさい,私ですよ。」
おとといのようになるわけには行かないので,鬼灯は白澤と目線を合わせるように向ける。
(あ,漂亮(きれい)・・・)
白澤は,その黒い双眸を見つめた。相手の瞳の中にいは,情けない顔で泣き顔をさらしている自分自身の顔が見えるも,その瑪瑙のような黒い瞳に白澤はとりこになったのだ。こんなきれいな,瞳を持っている人物を白澤は一人しかしらない。
「ほおずき・・・」
「今回は,早かったですね。」
どこか落ち着いたような表情をしている鬼灯は,白澤の額に指を持っていき
「?・・・・!?」
バチーンっとその指を額に向かって弾いた。
白澤は,急な痛みに額を抑えベットでのたうち回った。
「本当は、ことの原因のあなたをギタギタにしたいところですけど、これだけにしておきます。」
「これだけって!十分痛いんですけど!?」
「私にしては、十分な温情じゃないですか。さて、発作は落ち着きましたね。私は桃太郎さんの手伝いに行ってきます。」
あなたは、大人しく寝てなさいと鬼灯入って扉に向かうように背を向ける。
その背が遠ざかって行くことに、どこか寂しさを覚え、白澤は咄嗟に鬼灯の着物の裾を掴んだ。
「なんですか?」
鬼灯は、どこか眉間に皺を寄せてこちらを見るが、その瞳がこちらに向けられていることに白澤は、どこか安心したのだ。
「い・・・や・・・なんでも....」
白澤は,己の行動に少し恥ずかしくなり鬼灯に顔を見られないよう横に向く。なぜか今は,目の前の鬼に顔を見られたくなかった。
「何をしてほしいのかはっきり申しなさい。」
鬼灯は,少しため息交じりに白澤に告げる。然し,目の前の神獣は目線を横にしているもその手は離さない。
白澤の顔はこちらを向いてはいないが,その眼にはまだ少し隈が残っているのはわかった。この前ほどではないがそれでも,顔色はあまりよくなくどこかふらつきも見える。
観察を終えた鬼灯は,掴んでいる手をはらった
「あ」
手をはらわれたことで,白澤は鬼灯を見やる。然し次の瞬間白澤の視線は天井となった。
「え?」
「あなた、まだちゃんと睡眠とれていないんでしょう?」
早く寝てしまいなさい。と鬼灯は白澤に蒲団をかけて言う。
咄嗟の行動に状況が追い付いていない白澤は、鬼灯に顔を向ける。
「どうかしましたか?」
「・・・・って」
「え?」
白澤は、細々とした声でいう。
行かないで。と
それを聞き取れた鬼灯は目を見開き,白澤のベットに腰を掛け蒲団の上に手を置いて一定のリズムを刻む。
「しばらくはここにいますから。寝てしまいなさい。」
それに安心したのか,白澤は次第に目を瞑り,次第に呼吸が穏やかになっていった。
鬼灯は、白澤が寝たことで部屋から出ようとした。
しかし、何かに着物が引っ張られる感じがして視線を向ければ……
「……ハァ……」
鬼灯はその場でため息をついたのだった
「あ,鬼灯さん白澤様はああああああ!?」
「静かになさい」
鬼灯は,突然大きな声を上げた桃太郎の頭にチョップを喰らわせた。
しかし,桃太郎が声を上げるのも無理はない,何せ鬼灯の今の姿は,長襦袢しか着ていないのだ。それに,鬼灯は女性。着物を脱いだことで線が目立つのだ。
「おれ,白澤様の白衣持ってきます!!」
そう小声でいって桃太郎は,鬼灯にチョップされた痛みも忘れるかのように奥の部屋へと静かに駆けて行った。
鬼灯はそんな桃太郎を見送りながらまるで人ごとのように部屋の片づけを始めたのだった。
白澤の白衣を肩にかけながら鬼灯と桃太郎は、あらかた部屋の片付けを済ませ、休憩と称してお茶を飲んで今日起こった件の詳細を桃太郎は語った。
内容は、電話で聞いていた通り、桃太郎は白澤の部屋でなにか物音が聞こえ様子を見に部屋に行こうとしたのだ。
部屋に入り、除けばそこには白澤の上に女性の方が乗っていて、白澤の顔は真っ青。
桃太郎は、失敬ながら女性を白澤から引き剥がした。もちろん、引き剥がされた女性は桃太郎に襲いかかろうとして、それを見ていた白澤が神気を爆発させた。
女性は、店の方への吹っ飛んでしばらく意識を失っていたようなのだが、すぐに目が覚めてこちらもこちらで大あばれ。
桃太郎は、白澤の様子を伺うことでていいっぱい、そこで鬼灯に電話をし、白澤を部屋に残して何とか暴れている女性を店から追い出し、しばらくお店の入口で見張りをしていたのだという。
「アイツ、吉兆の神獣ですよね……?」
「本人には、吉兆は降らないんですね……」
桃太郎は、どこかため息をつきながらも答える。
「鬼灯さん、今後どうすればいいですかね……」
鬼灯は、顎に手を当てながら考える
「……現状、番を狙って女性の方々があとを経ちません……先日、私がご連絡した方も全ての仙女を相手にする事はおそらくできないでしょう。」
「そう、ですよね。」
しかし、鬼灯は続ける
「しかし、他に対策ができない訳ではありません。例えば、手紙。これは名が無いもの、知らない名であるもの、ざっと言ってしまえば取引先以外の方からの手紙は全て破棄した方が良いですね。食べ物なんてもってのほかです。そして、店にくる女性たち。これは、呼びかけてもダメでしょうね。……いっその事この店しばらく閉めますか……」
「え!?閉めていいんですか?閻魔殿の依頼もありますし……」
「この際しょうがないです。住居侵入もされていますし……あれでしたら、閻魔殿に来てもらっても構いません。来客用に部屋もありますから」
「いいんですか?……あ、でも地獄にも鬼女の方はいますよね……」
「あぁ、それは問題ないです。」
そしてどこからか出した金棒を振りながら鬼灯は答える。
「今回の件でこってりと調き……いえ、教育をして差し上げました。もし、閻魔殿でことをやらかすのであれば、それはまぁ恐ろしい結果が待っているでしょうね……」
(この人は、一体何をしたんだ〜!!?しかも調教って言いやがったぞこの人!)
桃太郎は、若干青ざめながらも鬼灯の承諾に前向きに頷いた。
その時だ、カタンッと扉が開く音がした。後ろを振り向けばいるのは白澤様だ。
「あ、白澤様お目覚めに……え?」
桃太郎は、驚いた。そりゃあ驚いた。何せドアにたっている神獣は、片手に鬼灯さんの着物を持ちそして涙を流しながらその場でたっていたのだ。
これには鬼灯さんも驚いたようで目を見開いている。
「は、白澤さ……」
桃太郎が、白澤の名を言い終わる前に白澤はスタスタと歩いて桃太郎を通り越し鬼灯に抱きついた。
もう一度言おう、鬼灯さんに抱きついたのだ。
「え!?」
(ちょ、白澤様!?なにやってんの?!)
桃太郎は、驚き声も出せない。鬼灯も白澤の行動に驚いて両手をあげている。
そして驚当の本人は鬼灯さんの腰に抱きついて離れない。
「……った」
「え?」
小声で白澤様は言う。
「ここにいるって言ったぁ!」
「え、はい。いますよ?」
「違う!うぅ」
白澤は、なにかお気に召さないのか泣きながら訴える。その何かを把握した鬼灯は、両手を下ろし白澤の頭を撫でる。
「わかりましたよ。離れませんから」
「……うん。」
頭を撫でられたことで機嫌を取り戻したのか、白澤は次第に目を瞑っていきそして寝息を立てた。
嵐のような一瞬の時間が過ぎ白澤が寝たことで鬼灯は桃太郎に顔を向ける。
「明日は、槍でも降るのでしょうか……」
「それは俺が聞きたいです。」
しかし、桃太郎は白澤の頭を撫でる鬼灯の顔をしっかりと見ていた。
(鬼灯さんも、似たような状況だと思うんだけど……)
どこか、母を思わせるような慈愛の顔を白澤に向けていたなんて、地獄の鬼神様に向かって言えることではなかった。