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    suzumi_cuke

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    suzumi_cuke

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    20230225現パロ鯉月猫の日ネタ(遅刻)。記憶の有無はどっちでもいいんですが、明治の鯉は出世すればするほど誰かひとりのためだけに生きることが許されなくなっていっただろうなあと。なんかこんなオチでよかったんですかね…。

    このあと二人でにゃんにゃん(性的でない)して疲れたので昼寝して晩ごはんに水炊き食べてにゃんにゃん(性的)して寝ると思います。

    #鯉月
    Koito/Tsukishima

    そのにゃんにゃん受けて立つ 休日のまとまった買い物を抱えて、鯉登と月島はのんびりとショッピングモールからの帰り道についていた。この前行った時に安売りの卵が15時半には売り切れましたと張り紙がしてあったものだから、今日は早々に買い物へ繰り出していた。そのため昼食と買い物を済ませても、まだ日は高くて気温も少し暖かい。シチューにするつもりで鶏もも肉のブロックを買ったが、カレーか水炊きも悪くない、といった生活感あふれる会話をしつつ、鯉登の目線が月島の顔からすっと横に逸れた。
    「猫だ!」
    「え?」
     目線の先を追ってみれば、白と黒の二色に分かれた毛並みを持つ小さな猫が、道路を挟んだ反対側にある公園の中をとことこと歩いていた。
    「本当だ。ブチネコですね」
    「ハチワレだろ?」
     地面に寝転がった猫を触りに行きたそうにうずうずしている鯉登の袖を月島は掴んだ。
    「よしなさい」
    「ちょっと近くで見てくるだけだッ」
    「いや、あれ」
     小声になって月島は猫の後ろを指さした。一回り大きく、ずんぐりした猫が少し距離をおいて座っている。ごろんと転がって進もうとしない猫と、よく似た柄をしていた。
    「ああ、親がいたのか」
    「驚かせたら悪いです」
    「わかったわかった。……いいなあ……」
     後ろ髪を引かれている様子を見せつつも、鯉登は物わかり良く引き下がった。

     その場では物わかりの良い態度であった鯉登だが、部屋に着いてもまだ猫のことが頭にあったらしい。月島は台所で電気ケトルが沸くのを待つ間、買ってきた食料品を冷蔵庫に入れている鯉登から「猫可愛かったな」「飼いたいな」と言う話をずっと聞かされていた。
    「生き物を飼うのは大変なんですよ。まあ、言わなくてもわかってると思いますけど」
    「わかっとる……」
     何かあれば取り返しのつかない命である。軽々しく欲しがるものではないということは鯉登だって理解していた。ただ可愛いものは可愛いし飼いたいものは飼いたいという素直な気持ちを口に出しただけである。一通りしまい終えた鯉登はリビングのソファにもたれ、口を尖らせて拗ねてみせていたが、唐突にはっと閃いた顔になった。
    「そうだ!月島、ちょっと猫になってみてくれ!」
    「はあ?」
     ティーパックを放り込んだティーポットへ電気ケトルから湯を注ぎながら、月島は物騒な声を出した。
    「性的な意味ですか」
    「せ……違う!猫を飼うのは無理としても、猫を飼ってる気持ちくらい味わいたいと思ってだな!」
    「それで猫になれと?」
     ティーカップにも少々の湯を入れて、軽く回して器自体を温める。特に寒い季節は、これをしないとすぐにお茶が冷めてしまうのだ。
    「猫はお茶を淹れませんけど」
    「お茶の後からでいい!」
    「からでいいってそんな」
     ――なんでちょっと譲歩してやったみたいな言い方をされなくてはならんのだ。
     温めたスコーンと紅茶セット、それから店員に勧められるままに買ったクロテッドクリームをとんとんとトレイに載せると、月島は不本意な顔でリビングのローテーブルにそれらを運んだ。このスコーンは期間限定の催事で出店していた専門店のものだ。美味しそうな見た目に加え、期間限定とあると買いたくなるのが人間の性というものである。
     ソファに月島が座る分だけ、鯉登が横にずれながら言う。
    「ジャムも!」
    「はいはい」
     月島が冷蔵庫から普段使っているイチゴジャムの瓶を取り出し、バターナイフと一緒に持っていく間に、鯉登はスコーンを手で真ん中から割っていた。ほんわかと温かく、ざっくりと割れた断面はでこぼことして、クリームもジャムもたっぷり塗りつけやすそうだった。

     スコーンはひとつがテニスボール大であったが、普通のパンなどより中身がみっちり詰まっているため、二つも食べるとそれなりに腹が膨れた。その上、スコーンは水分泥棒である。喉が渇くので、紅茶もたっぷり必要となり、間食にしてはかなりボリューミーになった。
    「美味しかったな」
    「そうですね」
    「じゃあ、月島……」
     そわそわと鯉登が両手を合わせた。月島の目がのっそりと細くなる。
    「はぁ…………猫に?」
    「猫に」
    「…………m」
    「面倒くさいは無しだッ」
     考えを読まれ、舌打ちの代わりにため息をついて誤魔化すと、月島はふむ、と少し考えた。猫のふり――猫の行動とは、果たしてどんなものであっただろうか。自分の知る猫というのは――。
     月島は鯉登と並んで座っていたソファからすっくと立ち上がった。
    「お?」
     次にどのような動きをするのか、鯉登は興味津々である。その鯉登を後目に、月島は他の椅子のところへ行き、ソファから移動させていたクッションを掴んで持ってきた。そうして今まで座っていたソファへ乗っかると、肘置きに置いたクッションを枕代わりに、横たわって丸くなった。
    「……食べてすぐ寝るのは猫でなくて牛だぞ」
     一部始終を眺めていた鯉登が呆れ顔になる。背もたれのほうを向いていた月島は、ちらりと流し目に鯉登を見た。
    「食事のあとの猫なんてだいたい寝てるでしょう」
    「もう~猫になりきってにゃんと言えにゃんと」
    「にゃん」
     腹に響く野太い声ではあるが、真面目な反応に鯉登は少し機嫌を直した。月島のほうへ向き直ると、手をぱちぱち叩いて呼んだ。
    「よしよし、ほーらつきしま、来い」
    「……」
     しかし月島は全く興味を惹かれないらしく、背中を向けたままである。
    「……つきしまぁ。どうせ寝るなら膝に来い……」
    「猫は呼んでも来ません」
    「動画では飼い主が座ると猫のほうから来ていたぞ」
    「普通の猫はそんなことしないです。俺は普通の猫なので」
     鯉登はムッとへの字口になり立ち上がると、後ろから月島の両脇の下に腕を入れて持ち上げようとした。全く動く気のない月島の身体はいつも以上の重量感がある。
    「お、重ッ……」
    「にゃー」
     棒読みの低い鳴き声をあげる月島の身体を、鯉登はずりずりと引っ張って動かすと、強引にではあるが、その頭を自分の膝にのせることに成功した。この位置なら撫で放題だ。
    「ふー……これでよし、と。では……」
     仏頂面を崩さず横を向いている月島の坊主頭に手を置いて、そっとそのざらざらした頭を鯉登が撫でる。月島の頭を撫でることは珍しいことではないが、月島に膝を貸して頭を撫でる機会はあまりない。膝枕はいつも鯉登がされるほうだからだ。月島に膝枕をしてやること自体が珍しい。スンとして月島は無反応を貫いているが、このなかなか新鮮な体験に、鯉登はうきうきと心が弾んできた。
    「ふふ、よーしよし……いや撫でるまでが長かったな」
     それでも猫の真似事など、月島が付き合ってくれたのは意外だった。拗ねているのを見かねて……ということなのだろうか。それならたまにはゴネてみるのも悪くない。わくわくしながら鯉登は月島の顎の下を擽った。
    「よしよしよし、ほら、喉ごろごろしていいぞ」
    「…………」
     何を言ってるんだこいつは、という冷たい目を月島が肩越しに向ける。実際の猫ならばいざ知らず、人間が顎の下を擽られてもむずむずするだけである。冷ややかな視線に何を思ったか、鯉登は携帯を取り出すと、ぽちぽちと文字を打って猫の動画を再生した。それを月島に見えるよう、手を伸ばして目の前へ差し出す。
    「ほら、ごろごろいってるだろ。ごろごろというかころころ?ぐるぐるか?」
     画面の中では、飼い主の手によって白黒の猫が幸せそうに目を細めて喉を鳴らしている。顔は映っていなくとも、きっと飼い主も幸せそうな顔をしているだろうと、そう思わせる慈しみにあふれた優しい手の動きだった。その手に猫のほうから顔を寄せて、時折ぺろりと舐めている。人と猫、言葉はなくとも心を通わせているようだ。
     見ていて心温まる映像に、思わず鯉登も頬を緩ませていると、膝の辺りで月島の動く反応があった。そっぽを向いていた月島が、鯉登の膝に顎を乗せるようにして、じいっと見上げてきている。
    「?……どうかしたか?」
     首を傾げて尋ねてみたが、月島は答えない。怒ってはいないようだが、目元に少し皺が寄っていて、あまりご機嫌な様子には見えない。手にした携帯の動画から猫のごろごろいう音が一際大きく響いて、鯉登がちらりとそちらへ目をやった。
     その瞬間、にゅっと伸びた月島の手が、鯉登の携帯を持つ手をてし、と押さえた。
    「??」
     携帯を持つ手をソファに押さえつけたまま、月島はもう片方の手をついて身体を起こすと、ぐっと伸び上がった。息がかかるほどに顔を近づけ、鯉登の頬をぺろり、と舐める。
    「わ、」
     吃驚した鯉登の身体がピシっと固まった。
    「……にゃあ」
     耳元には甘い囁きを残して。
     鯉登が硬直している間に、すっと月島は顔を離すと、ごそごそとまた横になってぷいっとしてしまった。
    「は、わ……」
     ――なに?なんだ今のは?
     茫然と頬を押さえて、しかし鯉登の頭の中ではハムスターが全速力で回し車に挑むごとく、猛烈な勢いでぐるんぐるん脳が回転していた。
     ――なぜ?ちっとも興味がなさそうにしていたのに?こっちに構うそぶりなんて無かったではないか?私が動画を見ていたのが気に食わなかったのか?他の猫の動画だったから?こっちを見ろと言いたかった?それで手を押さえたのか?それで頬を?それはつまり……?
     頭も身体も、熱が出たように急激に熱くなってくる。
     鯉登は自分の膝の上に頭をのせている月島を見下ろした。何事もなかったように、ふてぶてしく横たわっている月島の背中が、今は拒もうとするのではなく、早く撫でろと言っているように見えた。
     途端に全身がぶるっと震えるような――もし自分が猫であったなら、身体中の毛がぼわっと膨らんだのではないかと思うような――猛烈な愛おしさが鯉登の中に湧き上がった。衝動のままに、上からがばちょと月島を抱きしめる。
    「月島あああぁ!!」
    「!?」
     半ばのしかかるようにして、ぎゅぎゅっと抱きつかれ、月島が目を白黒させた。片腕がヘッドロック気味に決まっていてちょっと苦しいのだが、鯉登はそれどころではないらしい。
    「まったくわいはなんてむぞうていじらしかど~~~!!」
    「え?え?なんですって?ちょ、苦し……」
     早口の薩摩弁で喚かれると月島にもさっぱりわからない。とりあえず喉に巻き付く鯉登の腕を月島は力任せに引き剥がした。鯉登のもう片手はというと、月島の頭といい背中といい尻といい、もう全身をわっしゃわっしゃと撫で回している。
    「ええい、ちょっと……落ち着け!」
     月島は身体を捻って、下から鯉登の顎をぐいと掌底で押しやった。押しのけられながらも、鯉登はにこにこと笑うのをやめない。
    「んふふふっ、悪かったなぁ他の猫に目移りして」
    「そんなんじゃありません。猫は気まぐれな動物なんです。よく仕事の邪魔とかするって言うし」
    「なぜ仕事の邪魔をするのか、といえばやはり構って欲しいからではないのか?」
    「知りませんよ。猫によるでしょ」
     鬱陶しそうに睨まれても、鯉登の頬は緩んだままで戻らない。疲れて月島が手を下ろすと、その顔を鯉登が両手で捉えて覗き込んだ。
    「私には月島がいるもんな」
    「ペット扱いですか?」
    「家族だ」
     意表を突かれたように月島の目が丸くなる。
    「さっきの動画を見ていて、ペットを家族と言う者の気持ちがわかった気がする。お互いの存在が当たり前で、幸せに必要不可欠な、ああいうのはもう家族なんだな。主従ではなく」
     言葉の真意を探るように、月島はじっと鯉登の目の奥を見つめた。『家族』に夢を見すぎなんじゃあないのか、この人は。そもそもそれ以前にだ。
    「私は、家族ってわけじゃありませんけど」
    「じゃあ何なんだ?」
    「……情夫?」
    「ジョウフ!?いやなんでだ!そこは普通に恋人でいいだろうが!」
     顔をつかまえていた手を寄せて、鯉登は月島の頬をむにゅっと挟んだ。ひょっとこのようにされた月島が、不服を目で訴える。
     ぱっと鯉登は手を放し、その大きな両手の中にすっぽりと月島の顔を包み込むと、不意に謎めいた微笑を目に浮かべた。
    「それにな、お前のことだけ考えて生きていられるというのは贅沢なことだったんだ。忘れるところだった」
     別人のように老成した笑みと言葉に、月島が眉をひそめた。
    「……?」
     怪訝そうに細められた瞳も、眉間に刻まれる皺も、きゅっと結んだ唇も、可愛げの欠片もない様が鯉登にとってはたいそう愛おしく映る。月島のふくれっ面を両手で揉みくちゃにして鯉登はにんまりとした。
    「うふふ、猫可愛がりしてやろうなあ、月島!」
    「うぅ……」
     邪魔くさそうに唸って、月島は鯉登の両手をむんずと掴み押し返した。軽く鯉登が仰け反ったところで、すかさず身体をくねらせて、逃れるようにソファから飛び退く。
    「構われすぎはストレスになります!」
    「もう猫のふりはいいぞ!……あ、さっき言っていた性的な意味のほうがまだだったな?」
    「く、覚えてた……!」
    「さて、それでは……」
     おもむろに立ち上がる鯉登の隙がない動きに対し、月島が腰を落として身構える。
    「いざ尋常に、にゃんにゃんだ」
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