呼び方が違うだけで 「富司さん!」
そう言って駆け寄ってくるユウキを見て思わずリョウは眉間に皺を寄せた。
「えっ…どうしたんですか、」
「…そろそろ、いいんじゃないのか」
そう言ってくっとリョウはユウキを引き寄せる。そしてそのままユウキの身体を自分の腕の中へと閉じ込めるがその突然のリョウの行動に驚いたユウキはじたばたとみじろぎをする。
「富司さん!?ひ、人前ですよ!」
「別に気にしない」
「でもっ…」
「それよりも俺が気になるのはお前の呼び方だ」
「呼び方だ。もう付き合ってるってのに、『富司さん』はないんじゃないか?」
「あ…」
「というわけで名前呼びを所望する」
そんなことをまさかリョウの方から提案してくるとは思わず、何故だかリョウのことを子供のようだと思ってしまったユウキはくすくすと笑う。
「…なんで笑う」
「すいません、バカにしたわけじゃないんですよ?」
「それは分かってる。じゃあ、なんだ?」
「拗ねてるみたいな富司さんが、子供みたいで可愛いなって…」
「ふぅん…?」
するとリョウは手をユウキの頬の上に滑らせる。
「へっ?!」
「だったら拗ねてる俺のために名前で呼んでくれると嬉しいんだけどな…?」
「!」
「ほら、ユウキ」
「………さん、」
「ん?」
「リョウ、さん……」
「…ああ」
「ちょっと、呼ばせておいてなんで照れてるんですか!」
「いや、破壊力がすごいなこれは…想像以上だ…」
ただ名前を呼んだだけなのにこんなにも照れるリョウにも、そして自分の心臓も大きく音を立てている事実にユウキの中に喜びを広げる。そのまま、ユウキはリョウの手を握るとその手を引く。
「行きましょう!リョウさん」
「…ああ」
眩しそうに、焦がれるようにリョウは目を細め光り差すこの道をゆっくりと踏みしめ、歩いたーー。
-Fin-