嘘は必要ない 「槐、好きだよ」
「…………嘘、ですか?」
「ええっ、なんでそうなるのさ」
「今日は嘘を吐いていい日なのだと猿之介に聞きました」
「ああ、そういう…」
すると黒雪はそっと槐の手を取り手の甲に唇を当てた。
「!」
「でも槐に言う言葉で嘘なんてないよ。今までも、これからも」
「そうなのですか?」
「ああ。まあちょっとはあったかもしれないけど…お前に言うオレの気持ちに関しては嘘なんて言ったことないよ」
「……」
「好きだよ槐、お前のことが好き、オレはお前が世界で一番大事だしオレの世界はお前を中心に回ってて、お前がオレの生きる意味で理由だ。」
「くろ、ゆき…」
「お前がオレなしで生きられなくなればいいのにって思うし、そうしたい。…でも、前みたいに強制はしないよ、オレも成長したからね」
「…私も黒雪が一番ですよ。あなたがいないと生きていられないです」
「本当?」
「嘘は言いません。私も…黒雪に対して嘘は言いません、言えませんよ…」
そう言いながら頬を染める槐に楽しそうに黒雪は笑う。
「じゃあ、オレ達にとって今日は嘘を吐く日じゃなくてただの平凡な日ってだけだ」
「平凡だけど、特別な日です。毎日、黒雪といると特別ですけれど」
「それはオレもだ」
きっと、お前が、あなたがいるだけで代わり映えない日々も色鮮やかに変わっていて毎日が特別な日に変わってしまう。そんな特別な魔法を実感しながら、嘘を真に変え、二人は幸福だと謳うように笑い合った。
-了-