返したい想い (あそこにいたのか…)
近くの村の子供達と遊ぶ弁慶の姿にほっと胸を撫で下ろしながら義経は愛する人に一歩一歩と近づいていった。
「弁慶」
名を呼ぶと「姫!」と笑ってくるりと義経の方に振り返る弁慶。その表情があまりにも愛らしくて、飼い主に構ってもらえて嬉しくてたまらない犬っころのようで思わず義経は笑ってしまった。
「姫…?いかがなさいましたか」
「ふふっ、ははっ…いや、お前が私を見て犬っころのように笑うものだからおかしくてな。弁慶、お前私のこと好きすぎるだろう」
ははっ、とおかしくて笑うと義経が思っていたよりも真剣な声が頭上から降りてくる。
「それは当然のことです。姫」
「え、」
「あなたをお慕いしているのは当たり前のことです。あなた様のことを殿としても、そして姫としてもお慕いしております。愛しています」
「……っ、」
「姫?」
弁慶は優しく自分よりも小さく、柔らかい義経の両手を自身の両手でそっと包み込む。義経は弁慶の真っ直ぐな言葉にそして行動に心臓を激しく鼓動させ、顔を赤く染めていた。それを気取られぬようにと俯くが弁慶にかしずかれたことにより隠すことは叶わなかった。
「姫…?」
「弁慶、お前のせいだ」
「拙者、何かしましたでしょうか…?」
「ああ、した。」
拗ねたように唇を尖らせた義経は弁慶を立ち上がらせるよう言うと立ち上がった弁慶に顔の赤みを隠すように抱きついた。
「ひっ、姫……っ?!」
「ずるい、ずるいぞお前は…」
「ずるい、ですか?」
「ああ。お前の言葉に私はどうやって気持ちを返せばいい…!?」
それは義経の心の底からの言葉だったがそれに嬉しそうに弁慶は笑った。
「な、何故笑う…?」
「はは、申し訳ありません。姫、つい…嬉しくて」
「嬉しい?」
「ええ、姫にーー…恋慕うあなたにそのようなこと言われて嬉しくないわけがありません。」
「弁慶…私は本気なんだぞ」
「分かっています。気持ちを返したい、そう思っていてくれているのですよね?」
「ああ、そうだ」
「だったらこうすればよいかとーー」
そう言うと弁慶はそのまま義経の唇に自分の唇を合わせた。すぐに離れた唇に義経は弁慶を睨むがあまりにも甘い瞳をしているから思わず顔を逸らしそうになってしまった。
「言葉にするのが難しければこうやって伝えれば良いのです。人には得手不得手がありますゆえ」
それに拙者も嬉しいですから、と笑う弁慶に悔しくなって義経は弁慶の身体を勢いよく引き寄せた。
「わっ、」
合わさる唇。
ただ互いの想いを通じ合わせるためだけの口付けに弁慶もそして義経も瞼を閉じた。
唇が離れた後、茹で蛸のように義経は顔を赤くしていたから嬉しさを隠さず弁慶は笑い義経は恥ずかしがるのも怒るのもやめて諦めて弁慶と同じく大きな声を上げて笑うのだったーー。
-了-