兄さんは私の恋人 「七緒、ごめん。待たせたか?」
「ううん、そんなことないよ。」
大学の食堂にて兄さん――五月と待ち合わせをしていた私は五月が少し遅れてきたことにほっと胸を撫でおろした。私の正面に座った五月は私と同じようにお弁当を取り出す。今日のお弁当は五月でも私でもなく三鶴さんが作ったものだ。最近、料理も勉強中だという三鶴さんだがどれも美味しく舌を巻いてしまうほどだった。
「…兄さんの味に似てる、兄弟だから?」
「…まあ、俺も教えたりしてたしなあ……」
そんなことを言いながらお弁当をつつく兄さんを微笑ましく思えて思わず見入ってしまう。――と、
「天野くん、隣いい?どの席も埋まっちゃってて困ってるんだよね」
そう声を掛けてきたのは見知らぬ女性だった。しかし私と五月がこうやって仲良く話しているのにこうやって割って入ってくる空気の読めなさに唖然としてしまう。話しかけられた五月は困った様子を見せつつこちらに視線を送る。
「いいよ、五月」
「七緒…」
その言葉に頷き彼女は座るがべらべらと五月に話しかけべたべたとくっつくものだから正直、気分は良くなかった。
「…さっきの人、何?」
「ちょっと授業が重なってるだけなんだけどなあ」
「………絶対、五月のこと好きだと思うんだけど彼女」
「ええ!?」
「絶対そう!……もうっ」
面白くなくて、五月は私の彼氏なのにという想いが私の中を渦巻く。
「…なあ、七緒」
「何!?」
思わず牙を向いてしまう私とは反対に五月はへらへらとした様子だ。
「あはは…いや、えっと…もしかしてだけど、ヤキモチ妬いてくれてるのかなって…思って…」
「妬くに決まってるでしょう?!」
思わず胸倉を掴んでしまう私にへらへらと嬉しそうに五月は笑うものだから怒る気力も失せてしまう。
「もうっ」
「はは、でも大丈夫だよ。俺は七緒が一番好きだから」
そんなことを言われてしまえば黙るほかなく頷く私だった。
***
その日の帰り道、五月を待っていると昼に会った彼女に絡まれているのを見つける。二人が来たのを確認すると奪うように五月の腕にしがみつく。
「な、七緒……っ!?」
そんな気弱な声を五月は挙げていたけれど気にしない。
「五月は、私の彼氏何で。やめてくれます?」
にっこり笑って言うと彼女の顔が引きつく。
「彼女?あなたが?ねえ、天野くん本当!?天野くん...?」
返事ないのを不思議に思い私も五月の方を見ると顔を真っ赤にさせいっぱいいっぱいな様子だった。
「五月…?」
「な、七緒…その、心臓に悪いっていうかその……お、俺はお前の事好きだからその…こういうことされると困るって言うか…嬉しいけど…その」
かーっと顔を真っ赤にさせる様子が可愛くって、目の前にいる彼女のことなど気にする気も失せてしまい五月の顔を引き寄せる。
「七緒?ちょっ――」
そして五月の唇と一瞬奪うとそのまま五月の手を引いていく。
「じゃあ、またね。先輩?」
そうして見せつけた後その場を去るのだった。
***
「な、七緒!」
「何?兄さん」
歩いて少し経ったあと兄さんに呼び止められ足を止める。兄さんを見ると少し恥ずかしそうで落ち着かない
「……もしかしてキス、嫌だった?」
「そうじゃない!そうじゃないけど…男として、その……」
と言って口ごもる。
「………な、七緒」
「ん?」
「ありがとう。俺の事彼氏って言ってくれて、それと……俺からもして…いいかな?」
こくりと頷き目を瞑るとちょっと待った後、優しい口づけが私の唇に贈られる。兄さんと、五月とするキスは一等大好きで、門限を破りそうになってしまうほど楽しんでしまう私と五月だった。
-了-