宵の一時 藤堂が羅刹となり戦いに身を置いている最中藤堂はばったりと坂本と出くわしてしまった。とはいえ千鶴も他の新選組隊士もいない…夜の街中でのことだった。死んだと思っていた藤堂がいたものだから驚いたような顔を坂本はさせた。
「おまん…」
「坂本さん、俺…もう、人間じゃねえんだ」
同門であり師とも呼ぶべき坂本に隠し事をしたくなかった藤堂は全て打ち明ける。これまであったことを、全て。黙って聞いていた坂本がぐっと握り拳を強く握り込んだ。怒られるかと藤堂は思ったがその逆、悲しそうなけれど慈しむような目を坂本はさせた。
「…そうか、」
たった一言だった。けれどその言葉に藤堂は泣いてしまいそうになってしまい必死に堪えた。
「俺はやるべきことがある。だが、それが終わったら人の世には関わらないつもりだ…だから、」
だから前にみたいにあんたを助けられない。とは言えなかった。あれは藤堂が勝手に心配して勝手にやったことだったから。だが坂本はそれに気付きわしゃわしゃと犬を撫でるように藤堂の頭を撫でた。
「さ、坂本さん!?」
「はは、なんちゃあない」
からからと風が吹くように坂本は笑う。
「…おまんが逝くか、わしが逝くか…見ものじゃな」
「…あんたはまだ来るなよ。やるべきことがあるんだろ」
「ああ」
誰も知らない、夜のことだった。それでも、たったひとときのことでも坂本に別れを言えたことは藤堂にとっては喜ばしいことだった。そして、いるかも分からない神に坂本を守ってくれ、と願うのだった。
-了-