自室に忍び寄る影 深夜零時。
さすがにそろそろ寝ようと、自分は自室のベッドに潜り込んだ。常夜灯をつけたままの薄暗い部屋でゆったりと目を閉じ、夢の世界へ旅立つ準備をする。
心地よい体の脱力感と、チラリチラリと飛ぶ思考。あぁ、自分は眠くて仕方がないのだな。もうすぐ夢の世界に旅立つのだろうな。
そんなことをぼんやりと考えていたところに、一つの気になる音が耳に飛び込んできた。その音で自分は現の世界へと思考が呼び戻される。
キィィ……
扉が静かに開く音だった。細い帯のような廊下の光が部屋の中を一瞬照らし、すぐにパタリと閉められる。
誰かが、自分の部屋に入ってきた。
「……誰?」
体を横たえたまま自分がそう問いかけると、部屋の中に入ってきたその人物はあからさまに溜息をつく。
「……もしかして、もう頭が寝てるの? ぼくだよ。ベルフェゴール」
呆れたような声を発しながら、ゆっくりと自分のほうに近づいてきたベルフェ。
声の主が分かると、今度は自分が安堵の溜息をついた。
「なんだ、ベルフェか。自分はもう寝ようと思ってるんだけど?」
そう言って暗に部屋から出ていくよう促したが、ベルフェはベッドへと近づく歩みを止めない。
なんとなく、様子がおかしいと自分は気づいた。ゆっくりと体を起こしてベルフェをじっと見つめる。
「ベルフェ……? いったいどうし……っ!」
自分のすぐ顔の横を、鋭くて硬い何かが横切る。ハラリと自分の髪が数本舞う感覚を覚えた。思わぬ出来事に目を見開いた自分は、その何かが通った軌跡をゆっくりと目線で辿る。自分の後ろの壁に、その何かが…… ナイフが突き刺さっていた。
「なに? あんたは、ぼくと一緒に寝るのは嫌なわけ?」
ベルフェの言葉に、自分はビクリと体を震わせる。
慌ててベルフェのほうを見ると、ベッドにくっつかんばかりにベルフェは自分との距離を詰めていた。自分は思わず、ベッドの上で後ずさりをする。しかしすぐに、背中に壁が触れてしまった。これ以上は、後ろへ下がれない。
動くことができない自分を追い詰めるように、ベルフェはベッドの上へと上がり、自分の顔の横に片手をついた。もう片方の手は壁に突き刺さったナイフに手を伸ばし、それを簡単に引き抜く。
「……今晩はぼくにあんたの時間をちょうだい。ねえ……いいでしょ……?」
そう言いながらうっとりとした表情を浮かべるベルフェは、怯える自分の頬に、ナイフの面を優しく添えた。