待ち人「おかえり。まってたよ」
そう言って笑ったおまえの顔や手には血がところどころついていた。
どうも、一暴れした後らしい。サタンの部屋の中に入ると、ただでさえ本が散乱して足の踏み場がない部屋が、雪崩を起こした本で更に床が見えなくなっていた。
ホコリが舞う中に、鉄の匂いが混じっている。暗い部屋の中でよくよく目を凝らすと、至るところに血が飛び散っている事に気がついた。
「……今度は、どうしたっていうんだ」
溜息をつきながらそう問いかけると、サタンは笑顔のまま言葉を発する。
「さあな。いつもならば抑えられるはずの感情が、今日は抑えられなかった、というだけだ」
そうぶっきらぼうに言いながら、サタンは本を踏んでしまうことを気にすることなく近づいてきて、手を取った。……いや、強引に腕を掴んだ。
「……何してるんだ。早くこい」
そういって導かれた先は、いつもの狭いベッドの上。仰向けに強引に押し倒されて、サタンは上にまたがるようにして見下ろしてくる。
「おまえ、今日、俺の知らない誰かと話してたな」
笑顔を浮かべたままのサタンの声が、すっと低くなる。見下ろすその目は、まさに憤怒の悪魔。緑色の瞳の奥にあるのは、怒りの炎だろうか。
「……おまえの知らない誰かと話すことに、何か問題でもあるのか?」
その言葉を聞いたサタンは顔を大きく歪めた。そのまま片手を首に添え、力を入れる。
頸動脈を少しだけ圧迫されて、頭の回転がやや鈍るのを感じた。けれど、心配はいらないだろう。サタンに、手に力を籠められるだけの度胸はないはずだから。
「……くそっ」
そういって今度は両手を添えた。しかし相変わらず、力は入らない。
「……なんだ。何もしないのか?」
そういってサタンに微笑みを見せると、サタンの顔が更に歪んだ。
「……俺だけのものになれ。俺だけの、ものに……!!」
そう、サタンは叫んだ。
それと同時に、サタンの手に力が強く籠められた。
意識が遠のく。
それでも、おまえの手によって旅立つのならば、それもまた悪くはないのかもしれない…… な。