飲み干した独占欲 迂闊だった。力を過信していた。傲っていた。
そう気づいたときにはもう遅い、という展開が小説などではよくある気がする。今まさに…… 自身の置かれた状況がそうであることに、乾いた笑いを心の中で浮かべてしまった。
自室で、サタンから手渡された飲み物を飲んだ。ただそれだけだった。飲み干して、しばらく談笑して…… 気がつくと視界が大きくぐらりと揺れて…… そのまま倒れてしまったのだ。
不思議なことに意識は失わない。サタンは動くことのできない体を大切そうに抱き上げると、そのままベッドへと運んだ。
「君には俺だけでいいだろ?」
仰向けに横たわらせると、サタンは顔を覗き込むようにしてそう言った。そういうサタンの表情は、嬉しそうでもあり、悲しそうでもあり…… しかし目だけは確かに、目の前にいる相手を渇望して仕方がないと語っている。
その顔に手を伸ばしたい。そう思うが、今の体ではそれさえも叶わない。声を発することもできない。
「君には俺だけでいいだろ?」
うわ言のように繰り返し囁くサタン。心の中で「そうだ」と返事をしてやっても、それは当然サタンには伝わらない。
そんなサタンの顔が優しく近づいてきた。唇と唇が触れる。柔らかな感覚。いつもの感覚。何度も重ねてきた罪の感覚。
そう気を抜いていると、唇に鋭い痛みが走った。顔を歪めることすらできない。それでもその痛みに、心臓がドクンと脈打つのを感じる。
恐怖心、だろうか。よくはわからない。
サタンが強く噛んだのだろう。突き刺すような痛みと、圧迫される痛み。その与えられた不快な感覚は、どうしてかサタンを求める衝動へと変わっていった。
顔を離したサタンは、恍惚とした表情を浮かべている。サタンの顔は、唇から出たであろう血でかすかに汚れていた。
「君には俺だけでいいだろ?」
再びそう発するサタンの表情は、今にも泣き出しそうな、抱きしめてやりたくなるものだった。
たとえその言葉に頷いてやったとしても、こいつはその言葉を信じられないのだろう。
それならばいっそのこと、信じることができるまで…… 好きに、してくれればいい。
そう、動けない体で考えていると、サタンは再び唇を重ねてきた。唇から溢れる血で綺麗な顔が汚れてしまうことも気にせず、何度も、何度も。