小さな悪魔様「おい」
嘆きの館の廊下を歩いていると、どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。自分はその声の主を探して辺りを見渡す。
「……あれ?」
どれだけくるくる首を回して探しても、その声の主は見つからない。サタンの声が聞こえたような気がするのだけれど、自分の身長よりも高いはずの彼の姿が見当たらない。
空耳だろうか?
そんなことを考えながら、自分は再び歩き出した。
「おい」
再び、サタンの声がどこかから聞こえてきた。辺りを見渡すが、やはりどこにも見つからない。
「サタン? どこにいるの?」
「こっちだ。チェストの方を見ろ」
その言葉にチェストの方に視線を向ける。すると、悪魔姿の小さなサタンがチェストの上でピョコピョコと飛び跳ねていた。その姿を見た自分は思わず目を見開く。
「サ、サタン!? どうしてちっちゃくなってるの!?」
そんなことを言いながら、自分は手のひらをサタンに向けて差し出した。すると、サタンは静かに自分の手のひらの上に乗る。自分は落とさないように気をつけながら、自分はサタンと目線を合わせるように顔の近くへ持ってきた。
「禁書に触れちまってな…… 効果が切れるまで、匿ってくれないか? 兄弟たちがいたずらしかねないから、気づかれたくないんだ」
困った表情を浮かべるサタンを自分はじっと見つめる。サタンのお願いに首を縦に振ることを忘れて、じっと、じっと、見つめてしまった。
そのことに気づいたサタンは、怪訝な表情を浮かべながら口を開く。
「おい。真面目に聞いてるのか? 俺を匿ってくれ、と頼んでいるんだ」
「う、うん。……構わないけど」
そう言いながらも、やはり自分はサタンから目を離せない。
自分の心の中に湧いてくる感情。抑えられない衝動。
「か……」
「か?」
自分の喉の奥から絞り出てきた言葉に、サタンが重ねるように音を発する。
「可愛いーーーーーーー!!!!!」
そう言いながら、自分は小さなサタンをむぎゅっと抱きしめた。サタンの小さな顔に自分の顔をスリスリと擦り付ける。
「やめ…… やめろ……! やめて……くれ……!!」
サタンの苦しそうな声に、自分は我に返った。
「ご、ごめん!」
そう言って慌ててサタンを顔から離すと、サタンは呆れたように溜息をついた。
「こんな姿の俺が珍しいのは分かるが、すこしは力加減を考えてくれ……」
そう言いながら、小さなサタンが自分を睨んでくる。けれど、そんなサタンも可愛いと思ってしまったのでどうしようもない。
そんな自分の様子に気づいたのか、サタンは何かを考え始める。それを見た自分は、小さく首をかしげた。
「匿ってくれと頼むのに、お礼も何もないのは良くないか」
そんなことを呟くと、サタンは自分を呼び寄せるようにクイクイと小さな人差し指で自分に合図を送った。自分はサタンの近くに顔を寄せる。
「前払いだ」
そういって、小さなサタンは自分の唇にちゅっと唇を寄せた。
思わぬ行動に、自分は目をパチクリとさせる。
「……なんだ、気に入らなかったか? それなら、もとに戻ったら続きをしよう。そのためにも、俺をしっかり守ってくれよ」
そう言って小さなサタンは怪しい笑みを浮かべた。